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七番目の黙示録  作者: 凛月
第二章・辺境の魔術師
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パライン防衛戦線1

「八又の……竜…オロチか?でも、なんだよあれ」


 頭部は完全に竜のソレ――…だけど、溶けてるというか、ヘドロの塊で出来ていて、竜のまがい物のような魔獣だ。周りにいる魔獣もそれと同じくヘドロで出来ている。こんな魔獣見たことがない。

 わかるのは、おそらく赤の眷属だという事。色はまちまちだけど炎を纏っているのがその証拠だ。

 ……何はともあれ数を減らさないと。炎の明かりで群れの全貌が見えてきた。予想していた通り優に百は超えている。


「『強化』」


 シャンズたちが来るまでに数十までには減らしておきたい。魔力が枯渇することは無いはずだ。初めから全開で行く……!

 まずは群れの長を叩いてヘイトをこっちに向ける。今回はあの竜もどきだ。

 俺が本気で殴れば、衝撃波を伴う程の威力がでる。周囲に建物も人もいない今なら、手加減もしなくていい。


「すぅーーーーっ!」


 身体強化を用いた完全に力任せの縮地。溜めに溜めた魔力の解放と共に放った一撃を、竜もどきの腹に叩き込む。拳に触れた感触は液体じゃなく物質。物理攻撃は有効だ。どうしてヘドロを纏っているのかはわからない……だけど、攻撃は通るしダメージも入っている。

 腹に一撃をくらった竜もどきは、八つの声帯から巨大生物特有の独特な叫び越えを上げる。それとほぼ同時に周りの魔獣が俺に気づき、首をこちらに向けた。

 計画通り。あとは魔獣を間引きつつ、特徴を把握してさっき作った「戦場」へ誘導する。


「ひーふーみー――……大型が四体に……中型が十体か。そんで、超大型が一体……完全に大規模レイドだな」


 正直町の戦力がどの程度なんのか、ほとんどわかってない。シャンズとオベルクさん、魔術師の二人は確実として、その他の傭兵は等級すら知らない。負傷者がどれだけ出るか……いや、そんなこと考えている暇があるなら数を減らせ。


「『強化』」


 小型を蹴散らしつつ、中型を一撃で倒す。それを繰り返し、「戦場」へ誘導し終わった後、数分で援軍が到着した。


「くそっ!どうなってんだこりゃ」


 援軍は二十と数人。先頭にはオベルクさんが立っている。


「大体間引きました。残りは、超大型一、大型四です。大型と戦った経験がある人は」

「五人だけだ。だが、数体相手なんかしたことがねえ」


 魔獣が出始めて五年の間、大型は数体出ているのは知っている。ただしそれは一体ずつだ。


「なら大丈夫。超大型は俺が何とかします。大型は任せますよ」

「ったく、無茶言いやがる。だが、やらねえと全滅だ……やってやるよ」


 オベルクさんは覚悟を決めて剣を抜いた。

 ……戦えそうな人は顔を見ればわかる。……腰が引けてるのが数人いるけど問題ない。

 オベルクさんに続いて、五人が一体の大型魔獣に向かう。他はオベルクさん達が討伐するまでの時間稼ぎか……。

 俺はこれから使う大規模魔術の術式を構築するために、魔術書に魔力を供給し続ける。あれを維持するにはかなりの魔力を消費しなければならない。俺の魔力量なら余裕だけど、量が量だ、少し時間がかかる。オベルクさん達で対処できている間にやらないと。

 その最中、気温が少しずつ上がっていくのを感じた。


「ハル!どうなってる!」


 オベルクさんから遅れてシャンズも駆けつけた。気温の上昇はシャンズの魔術によるものか。


「シャンズ!……気になったんだけど、魔術師二人は?」

「尻尾巻いて逃げやがったよ。ろくでなし――と言いたいところだが今回ばかりはわからんこともねえ。俺もこの町じゃなきゃとっくに逃げてる」


 あいつらには、この町に思い入れがあるわけじゃない……。くそっ!その可能性も考えておくべきだった。


「シャンズはアレの相手できそうか?」


 一撃を入れてから動きを見せない超大型を指すと「無理だ」と即答した。


「あんなの見たことも聞いたこともねえ。すまんが任せるしかねえ。……やれるんだよな」

「攻撃は通るから時間かければ何とかなるはず。あれが無理なら魔獣を頼みたい」

「風で炎を散らすくらいしかできねえが……オベルクが相手するまでの時間稼ぎくらいはしてやるぜ」

「やっぱ、シャンズも複数相手は初めてか」

「当たり前だろ。大型なんてそう出るもんじゃねえ。それにあんなやつ……今回の襲撃は特殊過ぎる」


 どうやら火の鳥を通して視た中に大型はいなかったようで、現状を見て苦い顔をしている。


「ハルはどうすんだ」

「まずは支援だ。支援魔術師として為すべきことをする」

「……あれか。あいつらには話したのか?」

「……話してない。けど、やらないと」


 他人への魔術的干渉が危険なのは傭兵なら周知の事実。俺が今からやることは、間接的だけど他人への魔術的干渉だ。話したところで了承を得ることはできないだろうし、理解したとて信用を得られるかはわからない。

 だから、話す前に結果で示す選択をした。


「たぶん使うのは一回こっきりだ。識りたいなら、しっかり視とけよ」


 俺が用意した「戦場」。言い換えれば”術式を展開するための空間”。


「我、汝らに力を与えん――強化領域、展開」


 術式の発動と同時に魔術陣が地面に広がっていく。その魔術陣の上が支援魔術”強化”の効果範囲だ。


「なんだ……こりゃ……」

「本人たちに実感はないだろうけど、身体能力を上げる魔術領域を展開した。大型魔獣がやけに弱いと感じているだろうな」

「はは、話を聞かねえと何が起きてるのか実感がねえ……呪術の類に似てんな」

「呪術の元を辿れば、この魔術に行きつくからな。とにかく、超大型が動き出さない間にさっさと片付けるぞ!」

「おうよ!」


 術式を展開してから十数分でオベルクさん達は魔獣を一体討伐し、二体目の討伐へと向かう。今回の魔獣が大した強さじゃないと感じたのか、士気は十分だ。

 俺は一人で一体を相手取り、シャンズは残りの戦力と共に魔獣に立ち向かう。

 超大型の方は気味が悪い程に、動く気配がない。目は空いているし、こっちの動きを目で追っている。俺が淹れた一撃でスタンが入った訳でもないだろうし……この襲撃は何かがおかしい。

 術式を展開して三十分ほど経ち、大型魔獣を殲滅することができた。

 しかし、一向に動く気配がない。


「……あのでか物は何なんだ」

「ただの張りぼてか?いや、魔獣にそんな知性があるとは思えんが……」


 体力に余裕がある傭兵たちは、おのおの分析し見解を始めた。


「ハルはどう思う」

「正直分からない。あれから一歩も動かないし、首ひとつ動かさない。こっちを見ているのは分かるんだけど……」

「なら、一度刺激してみるか?」


 シャンズと話あっている最中、オベルクさんが近づいてきた。


「お疲れ様です。そうするなら、皆さんには下がってもらった方がいいですね。俺が思い切り殴っても叫び声をあげる程度だったので」

「……それは……まずいな。なら、俺たちは一旦後退してハルの指示を待つことにする。あれと同じようなもんとやり合ったことがあるのはハルしかいねえだろしな」


 そういって、また傭兵の元へ戻って行き、説明を始めた。


「俺はどうすればいい」

「そうだな……シャンズはとりあえずうち漏らしが無いか、火の鳥で確認してくれ。町に抜けた魔獣はいないけど、吹雪の中に隠れている奴がいるかもしれない」

「わかった。何かあったら知らせるわ」

「あ!あと一応アレを視てくれるか?もしかしたら何かわかるかもしれない」

「あー切り替えに慣れてなくて完全に忘れてたわ。んじゃ、視てみ――」


 シャンズが魔眼を発動したその瞬間、竜もどきは巨体を揺らし、首を動かし始めた。


「な、なんだ!なにが起こった!」

「わかりません!ですが、とにかく後退を!俺が相手します!シャンズはアレを視続けて、何かわかったら情報をくれ」

「お、おう」


 シャンズは戸惑いながらも、魔眼を開き解析を始めた。

 何故今動いた?……シャンズの魔眼の発動がトリガーに?いや、それはない……はずだ。現にこの戦場に来るまで、シャンズは魔眼を使っていなかったにも関わらず、こいつらは侵攻してきた。


「お、おい。なんだありゃ――」

「……う、嘘だろ?」


 動き始めた竜もどきを見上げていると、後方に下がって行った傭兵たちからどよめき声が聞こえてきた。


「ハル……不味いぞ」

「どうした――!!な、なんだよあれ……」


 傭兵たちとシャンズの視線の先――竜もどきから垂れて地面に落ちたヘドロから、赤だけでなく、青、緑、黄を含めた、大型魔獣が出現し始めた。

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