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七番目の黙示録  作者: 凛月
第二章・辺境の魔術師
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それはまるで――

 二か月が過ぎ、十二月に入ったパラインは昼夜問わず吹雪いている。

 幸いなことにまだ死傷者は出ていない。十分な魔力供給と、傭兵の見回りのおかげだ。


「なあ、ハル。この時期に修行は止めといた方がいいって」

「何言ってんだよ。一級試験受けるなら、どれだけ過酷で劣悪な環境でも立ち回れるようにするべきだろ」


 俺とシャンズは町の広場で、魔術の修行を続けている。アンリは加工場の手伝いがある為、参加していない。


「魔眼も制御できるようになったんだから、それにもなれないといけない。切り替えに脳のリソースを割いているままだと、戦闘に支障がでるからな」

「はあ、それはわかるけどよ……何度だと思ってんだよ。氷点下二十度だぞ?」

「赤魔術でどうにでもなるだろ」

「脳筋魔術師め……」


 心外だ――と言いたいところだけど、実際師匠が脳筋で、俺もその道を辿っているから何も言えない。


「町の警邏にもなるんだからさっさとやれ」

「へいへい」


 生意気な返事もなれたもの。それでも忠実に指示に従うのは本心から魔術師としての腕を磨きたいと思っているからだ。

 シャンズは「火の鳥」を八匹作成し、町へと散らばせた。

 これはシャンズが師事した流派の秘匿魔術と言われるものだ。現代魔術は確立した技術を流派外に漏れ出さないように徹底しているらしい。それも女神に誓いを立ててまで……。

 それこもこれも、階位主義や派閥争いとか言うくだらないものの為……現代魔術は自由ではない。師匠が知ったらどうなる事やら。


「にしても、秘匿魔術がこうも簡単に看破されるとはな……それだけに留まらず改良までしやがる。分体の作成なんて邪道だって言われそうだぜ……」

「それは、その師匠とやらがバ――…頭が固いだけだろ。で、視界共有はどうだ?」

「二体が限界だな。目を瞑らねえとできねえから、あんま使えねえな」

「斥候としてなら上々だろ?これは戦闘時に使う訳でもないし」

「……純魔術師が斥候とか普通思いつかねえぞ」

「そうか?便利だと思うけどな」


 魔術で出来た鳥で、物理干渉もできる。壊れても魔力があればいくらでも作り出せるから、かなり万能な魔術だ。現代でこれを生み出した人間は、中々に有能だと言えるだろう。秘匿しなければいいのに……。


「ま、視界の共有は一部の魔眼持ちしかできないのは致命的な欠点だな」

「「火の生物を生成し、視界を共有する魔術」――として昇華できればいいんだが……一代できるもんでも、ひとりでできるもんでもないからな」

「なら、派閥作ればいいじゃん」

「そう簡単に行くかっての。一応秘匿魔術が組み込まれてんだ、派閥が解体でもしない限り自由に研究できねえよ……解体しようとか考えてんだろ」

「なんでわかんだよ」


 シャンズは目を閉じたまま、やれやれと言った風に手を半端に上げながら「お前が考えてることは大抵物騒だ」とため息をついた。確かに、魔術に関してはそうだと言わなければならない……これも師匠の影響だ。


「アンリちゃんはどうだ?」

「いつも通りだ。宿中で水が舞ってる」


 アンリは結局、青系統水属性魔術以外全く使えないという結論を出した。その後、とにかく極めようという話になって出来上がったのが「自分の魔力で生み出した水を操る魔術」だ。

 空気中での水の生成は勿論、その辺にある水も「自分の生成した水を足すことで」動かすことが出来る。温度も変えられるし、水を物体として捉え、物を動かす事もできる。その際に物が濡れることも無い。

 シャンズは今まで見てきた中で、水属性魔術師でアンリに敵うものなんていないと言っている。


「これが本物の天才ってやつなのかもな」

「魔力量も既に俺より上だろうしな……他の魔術も使えていれば、一級魔術師なんて楽勝だろうに。もったいねえ」

「試験には二属性以上の魔術を扱える必要がある――だったか」

「魔術師としての才はあるから、見習いとしては登録できるんだが……――!!んだよあれ……!」


 シャンズ目を開き、今まで見せたことのなかった、焦りを見せた。


「どうした?」

「畑の方向から魔獣が来やがる!」


 マズイなんてもんじゃない。魔獣はどうにかなるけど、畑を荒らされれば、この町がまた経済的に厳しくなる――。

 それだけじゃない。今、加工場にはアンリがいる……!


「――!?距離と数は?」

「十キロ程先だ!数は……目視だけで…数十…はいるぞ……こんな大群見たことねえ……。雪で速度は落ちてはいるが、ここに来るのも時間の問題だ」


 今すぐってわけじゃないなら、まだ対策は打てる。だけど、この吹雪の中の目視で数十……?もしかしたら百は超えるかもしれない。時間を稼がないと確実にこの町は崩壊する。


「俺は畑付近の人たちに伝えてくる!シャンズは戦える奴らに声かけて周ってくれ!できれば迎撃の準備も!」

「了解だ!」


 ここから加工場まで一キロ程。普通に走ってる場合じゃない。身体強化を全開にして、それから――


「『強化』」


 これは純粋な「技術」だ。師匠いわく、発声によって「理」へ干渉し、現象を起こす技――らしい。

 他人への直接的魔術干渉は理論上できない。人体に魔素は存在しないからだ。それは術者自身も同じ……。

 だから、自身への「身体強化以外による強化」にはこの技を使う――。

 身体強化を五割増しにした俺の身体能力は、走れば音速に近づく程だ。地面を割らないように気を付けながら一歩踏み出す。

 数秒経たずで加工場近くに到着した俺は、急いで中にいる作業員たちに事を伝えた。


「ハル!魔獣が来てるってほんと!?」

「本当だ。アンリはみんなの護衛を頼む。この周囲に誰も近づけさせるな」

「わ、わかった。シャンズさんは?」

「戦える人を呼びに行った。俺は先に接触して誘導しながら殲滅する。時間は稼げるから、急いでケガをしないようにな」

「……大丈夫、だよね?」

「慣れてるから平気だ」


 嘘だ。この世界に来て初めての戦闘。ゲームとプレイスタイルも装備も体格も違う。正直言って怖い。コートの中は快適だけど、震えている。


「無理はしないで。私もすぐに行くから!!」

「駄目だ。アンリは防衛に回れ。……町の皆を守るのも力を持ってる人間の役割だろ」

「……わかった」


 アンリは不服そうにしつつも、避難を唸すため、住人の避難を始めた。アンリが想像以上に魔術を使えることは皆知っている。大きな混乱にはならないはずだ。ここは任せよう。


「……」


 アンリは確実に戦力になる。でも、まだ戦闘に参加させたくない。アンリには悪いけどこれが本音だ。戦闘が長引けば、確実に痺れを切らして戦線に出てくる。その前に終わらせなければいけない。

 この吹雪の中だ。シャンズが戦力を集めるにはまだ時間がかかる。今のうちに「戦場」を作っておかないと。


「くそ……こんな時にちゃんとした魔術が使えれば……」


 雪で埋もれた大地を火属性の初級魔術で溶かしつつ、雪で視界が阻害されないように上空に結界魔術を張っていく。数が数だ。一キロは確保したい……けど、この町の戦力はたかが知れている。数を減らすのが最優先か……?

 大丈夫だ。冷静になれ。経験ならある。大規模防衛レイドなら一人でも楽勝だ。

 ……だけど、今回は人の命がかかってる。集中しろ。見落とすな。

 畑は雪が壁になってどうにかなるはず――ならこれくらいで大丈夫だ。畑の端から町まで二キロ近くはあるから戦線が町に届くことはありえない。大丈夫だ。


「あとは、魔獣の系統を調べながら数を減らすだけ――っ!」


 自分を鼓舞しようとした俺の鼓膜を揺らしたのは、凍てつく空気を切り裂く咆哮。

 熱い雲で覆われ光の届かない吹雪の中に突如現れたそれは、蒼炎を纏った八首の巨影だった。

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