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七番目の黙示録  作者: 凛月
第二章・辺境の魔術師
16/30

出来ないよりも、出来過ぎる弟子の方が困る

 この町に来て五日目、シャンズが加わり、今日から二人に魔力回路の修行をつけることになった。


「――という訳で、これが俺の流派の基本中の基本だ」

「なるほどな。確かにこっちのが魔力を無駄にせずに済む」


 シャンズは元々魔術師だから覚えが早い。一級相当の実力もあるってのもあるだろう。

 アンリはというと……。


「それって、根っこみたいなのを体中に作ればいいってことだよね?」

「そうだけど……シャンズ、アンリの”魔力()”視てくんない?」

「おう――……不格好だが…まあ、それっぽいもんはできてんな……」


 俺の弟子天才過ぎ。それが普通みたいな反応してるし……これも俺の血のせいか?それとも固定概念がなかったせいか?

 なんにせよ、自分でほとんど正解に辿り着く自力があるのは素晴らしい。三級どころの話じゃなくなってくるかもしれない。


「とりあえず俺も診るから、口開けて」

「はーい」


 ……確かに根っこみたいな感じだな。まだ、全身ってわけじゃなくて魔力供給に使ってた両腕を中心に伸びてる。


「いい感じだな。じゃあ、これを全身に広げる感じで。それが終わったら、もっと細かくしていけ」

「それって供給しながらでもいいの?」

「別にいいけど、魔力切れ起こさないように気をつけろよ?」

「わかった」


 そういって、魔石を正面に座り、目を瞑って供給を始めた。


「アンリちゃんが魔術習い始めて何日だ?」

「……四日目」

「制御に関しちゃ、俺より上かもな……」

「まだ基礎中の基礎だけどな。供給速度が上がったら身体強化を覚えさせるつもりだ」

「身体強化?それは魔術が使えるようになってから覚えるもんだろ」

「魔力回路を強固にするには、身体強化が手っ取り早いんだよ。魔力制御の基本でもあるしな」


 ここまで出来るとわかった以上、アンリには十日で魔力回路の構築をある程度完成させてほしい。

 シャンズは協力してくれるようになった今、俺が直接診ずとも修行はできるけど、魔力回路だけはシャンズの専門外だ。俺がいるうちに全部叩き込んでおきたい。


「俺はどうしたらいいんだ?」

「アンリみたな奴を想像するか、俺みたいなのを参考にするかどっちかだな。俺のも見えるだろ?」

「ああ、このとんでもなく細けえやつな……。にしても、体の中にってなると、どうも難しいんだよな」


 シャンズは魔術を使う際、体に漂う魔力を集める”集束型”の魔術師としてほとんど完成している。この型の魔術師は、大抵術具を持つ利き手周辺の魔力を使うから、足先なんかの魔力は滅多に使わない。使う時は、足先から不規則に動きながら集まるから効率が悪くて、術の発動にコンマの差が生まれる。大規模になれば数秒かかる。と、師匠は言っていた。


「難しいなら、まず肌に線を書いて、それに沿って魔力を集めてみればいい。入れ墨に沿ってってのもいいけど、全身入れ墨って訳にもいかないだろ?」

「薄皮一枚でも体内は体内ってことか。アンリちゃんペン借りるぞー」


 二人とも筋がいい。シャンズも数日でコツを掴むはずだ。


「しっかし、ハルのその異様な魔力回路はどうやって構築したんだ?」

「言葉どおり死ぬ気でだな。師匠の回復魔術はどんなに損傷してても、生きてて、パーツさえあれば元通りになんだよ。それをいいことに身体強化が疎かになった瞬間、追尾型の魔弾が飛んできて、その場所を貫くんだ。痛みで途切れても追い打ちが来る。寝てる時も変わらずな……」

「お、おう……良く生きてたな……俺には絶対無理だ」

「師匠に言われたよ。弟子をとるとき同じような鍛え方はするなってな」


 シャンズは「やめてくれ」と本気で懇願しながら、自分の右腕に線を引き始めた。


「ハル。その魔弾…?ってなに?」

「魔力を収束して飛ばす技だ」

「魔力って体外に出たら霧散するんじゃなかったっけ」

「師匠は魔力制御も魔力量も人間離れしてるからな。霧散させることを魔力で抑え込むとか言う、訳のわからんことをさぞ当たり前かのようにやるんだよ」

「……嘘じゃねえってのが、怖えよ」


 アンリは「凄い」というけど、シャンズはドン引きだ。魔術師として成熟すればするほど師匠のバケモノ加減がよくわかるからな。……話せば話すほど、その場にいないにもかかわらず背筋が凍る。間違えて身体強化全開にしてシャンズの眼を回してしまいそうだ。


「……つか、何でそこまでして魔術師になろうと思ったんだ?俺なら例え魔眼を制御するためって言ってもごめんだぜ」

「だね。前聞いた時は成り行き、ってしか聞いてなかったけど……」

「理由か……」


 どこまで話していいのやら。世界の終わりが近づいてて、それを止めるために仲間がこの世界に転移してくるんだけど、仲間の力になりたくて俺は転生したんだ――……なんて言っても信じないだろうし…。


「……魔獣を倒すため、かな。旅の目的もそれだ」

「そういえば、お前旅人だったな。普通に師匠になってくれたから、忘れてたわ」

「じゃあ、ここに来たのも最近になって出始めた魔獣の調査?」

「ここにも魔獣が出るのか!!?」


 おかしい。神聖国より南西側には魔獣は出ないず――……これもゲームとの差異か。


「五年程前から何度も襲撃に合ってんだ。俺とオベルクもいるし、傭兵上がりも数人いるから、これといった被害はねえが、去年畑がやられてな。酷いもんだった……」

「……」


 去年――アンリの爺さんが亡くなったのは、もしかしてそれが起きたからじゃないのか……?アンリの顔も少し暗くなった気がする。

 魔獣が出れば被害が出る。当たり前のことだ。守りの薄い小さな町で抵抗できることは奇跡のようなもの……戦力が乏しい町はどうなってるんだろうか……。

 魔術書の地図は、おそらく現在存在する最新のもの……書かれてはいるものの既に存在しない町や村、集落が存在するかもしれない。


「そうか……魔獣が……。何か対策はしてるのか?」

「始めたところで、すぐに雪で中断だ。出来るとしたら土魔術に長けてる奴くらいだろ。で、その金はどこから出るか……この町にそんな余裕ねえよ」

「シャンズはできないのか?」

「俺の専門は赤と緑だ。壁を作れたとしても、到底襲撃を止められるもんはできねえ。……ハルはできねえのか」

「やってやりたいのは山々なんだけどな。俺は四元魔術を初級程度までしか使えない」

「は!?」

「え!?」


 シャンズもアンリも俺に向かって前のめりで立ち上がった。誰だって驚く。シャンズは特に。


「マジで言ってんのか……?その魔力量と質で初級?」

「ハルはもっとすごい魔術師かと思った」


 生活魔術は一通り使えるけど、攻撃魔術に関してはさっぱりだ。


「なんかの呪いでも受けてんのか?」

「呪いじゃない。色々あって、属性魔術を使えないって言う”縛り”で他の魔術――……支援魔術を強化したんだ」

「支援魔術……か。正直いって有りえねえ。というか意味が分からねえ」


 アンリはシャンズの様子を見て、何が起きているのかわからなくなったようで、心配そうに俺のことを見ている。「心配ない」と目配せをして、シャンズに応えることにした。正直に本当の事を……。


「実を言うとな、俺はこの辺境に魔獣が出ている現象に心当たりがある。でもこの町に来たのはホントに偶然だ」

「心当たり?」

「界異って存在は知ってるか?」


 旅の本当の目的、界異の事、仲間の事、神器の事を二人に話した。俺が転生者である事とオリオンの面子が転移者であることは流石に言えなかった。


「界異か……神話の存在だぞ。正直まだ信じられねえ。けど、ハルが言ってんならマジなんだな」

「ああ、だから俺はあいつらを支援するために、魔術に縛りを課した。後悔はしてない。魔獣くらいなら素手でどうにかなるしな」

「素手って……オベルクを完封したんなら大丈夫だろうけどよ」

「え、見てたんですか?てことは俺が滅茶苦茶煽ってたとこも……」

「最初から最後までな。おっかなかったぜ」


 顔から火が出そうなほど恥ずかしいんだけど……アンリには知られたくない……詳細は言わないでくれよ?


「えっと、とりあえずハルはすごいく強いってこと?」

「すごいどころじゃねえよ。魔術師で言ったら天位指定級って言ったらわかるだろ?」

「ほ、ほんとに!?」


 天位指定の魔術師か……そこまでのもんじゃない。それは師匠にこそ相応しい称号……というか学院から一方的に押し付けられる忌名だ。魔術師の十二階級の外側の存在。独自の魔術体系を構築した人の形をしたバケモノの事をそう呼び、危険存在として常時観測され続けられる。


「そこまではいかないだろ…せめて特級どまり……」

「神話の化け物のと戦おってやつが何言ってんだ。つか、大師匠は参戦しねえのか?戦力としちゃ申し分ねえだろ?」

「訳け合って森の奥で閉じこもっていないといけないんだってよ」


 実は神様の住居を守ってるなんて言えない。


「ねえ、大師匠さまって背が小さくて金髪の女の子だったりする?」


 それを聞いて、俺は少し動揺した。どうしてアンリが師匠の背格好を知ってるんだ。


「どうしてそう思ったんだ?」

「そんな感じの物語があったの。実話が元になった話だからもしかしてって思って……聞いちゃダメだった?」

「いやいいんだけどさ」

「聞かないでくれって顔してるぞ」


 どうやら、拒否反応が顔に出てしまったらしい。師匠の所から出て暖かい生活を送っているからか、姿を思い出してぞっとした。他人が知ってるって言うのがここまで怖いと思わなかった……。


「どんな話なんだ?」

「二百年前の魔王討伐の物語だよ。シャンズさん知らないの?」

「魔王討伐……そういえばそういうのあったな。文献でもみたことあっから知ってるわ。今思い出した。仮面付けた謎の魔術師だろ?」


 マジか……いや、そういえば師匠って魔王討伐パーティーの一人だったわ……。つか、仮面?なにそれ。


「あーー師匠もそんなこと言ってた気がするな~あはは……」

「マジか」

「え~会ってみたいなあ~」


 界異全部倒して表情が戻った師匠ならあっても問題ないと思うけど、今の師匠って対人関係難ありだからな……魔王討伐も結局、山吹き飛ばしエンドだし。


「……ハルの顔がどんどん青ざめてってるからこの話はもうやめとこうぜ、アンリちゃん」

「ホントだ。ごめんね、ハル……」

「ダイジョブダイジョブ」


 支援魔術は自分にも効果はあるけれど、心の傷は治せない。

 師匠の恐怖を克服するのはまだ先になりそうだ。

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