表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七番目の黙示録  作者: 凛月
第二章・辺境の魔術師
14/29

初めての弟子

 宿に戻って、昼食を食べてから、この世界の魔術師とはどういう存在であるかをアンリに聞いた。知識のすり合わせだ。

 そこで、気付いたことが一つある。師匠の教えが、この世界の常識とかけ離れているという事だ。師匠があの場所に戻ったのが二百年前だから、魔術体系がいくら変わっているのも仕方がない。

 アンリの知識は、そのほとんどがシャンズさんから与えられたもの。それは師匠の教えが非常に簡略化され、大部分を省略したものだった。

 つまるところ、魔術を使えればそれでいいというのが、現代魔術の考えという訳だ。

 界異の封印に綻びが出始めているのもあって、眷属の動きが活発化してきているから、早急に戦力を叩き上げるための処置……であるなら納得できる。この世界は質より量を選択したんだ。


「本格的な魔術の修行は、シャンズさんに見てもらいながらの方がいいな。師匠の……流派がこの世界にとって特異なものなのだとしたら、アンリも学院側から目をつけられかねない」

「ハルの師匠ってかなりすごい人なんだ……」

「現代最強って言っても過言じゃないだろうな。師匠は多分、神代から今に至るまでの魔術を網羅してると思う」


 師匠は千里眼を扱える。あの場所からこの星、果ては宇宙まで観測できるらしい。師匠の魔眼ははっきり言って、チート級の代物だ。


「なんにせよ、まずは自分の魔力を知覚しないことには始まらない。これから徹底的にしごくけど、覚悟はできてるか?」

「う、うん!お手柔らかにお願いします」


 アンリは右手首につけた腕輪を握りながら頷く。いい目だ。


「アンリは魔力ってのが何か知ってるか?」

「誰でも生まれつき持ってる力のことだよね。活性化させないと魔術は使えない……ってシャンズさんが言ってた」

「んーまあ、間違いってわけでもないけど、その活性化って言うのを、俺の流派では魔力の知覚って言うんだ。ここでの一般常識じゃ師匠から「魔力譲渡」を何度も受けて、その、活性化?させるらしいけど、師匠が聞いたら論外だって吐き捨てるくらいド三流のやり方だ」

「ド三流……」


 アンリの話を聞くに、今の魔術師は「魔力循環論」を軽視しているか、そもそも知らないかのどちらかだ。知っていれば「魔力譲渡」での知覚なんて非効率的なやり方が、一般化されるわけがない。

 まあ俺みたいに、半ば無理やり知覚させられるというやり方は、到底一般化されていい物じゃないけど……。


「魔力の知覚に一番いいのは、魔力の込められたモノを体内に取り込むことだ」

「魔力が込められた……もしかして魔石のこと!?石だよ!?」

「違う違う。モノって言っても、魔力が溶け込むってのが前提だ。魔石は術式が無いと魔力が外に出ることは無い。例え魔力が充填された飲んだとしても、それはただの石として認識される……じゃあ何が一番いいと思う?」


 アンリは眉間にしわを寄せながら唸る。そして回答を口にした。


「魔術を体内にぶち込む!」

「それだと内側から破裂するだろ……死にたいのか…?」

「そ、それはダメだね……」


 考えて間違うのは悪くない。今回はとんでもない方向に行ってしまったけど……。こういうことがあるから、造詣が浅いうちに魔術を独学で学ぶのは危険なのだ。と、師匠が言っていた。


「正解は血だ」

「え、えぇ……」


 魔力循環論は神経論と違い、常に魔力を巡らせるという理論のもとに成り立っている。ならばどうやって循環させるか……簡単だ。魔力を血に交わらせることで全身に巡らせる。

 その血が”魔力のこられたもの”として適している。

 戦闘に向かない理論だけど、魔力の知覚にこれ以上のものはない。と師匠は言っていた。


「魔力は性質上、空気中に出ると徐々に霧散する。だから、魔力譲渡ってのは魔力を一度体外に出す必要があるから、知覚には不十分――だと思う。そこのところは不要だって言って教えてくれなかったんだよなあ」

「ハルの師匠――大師匠さまって結構偏見持ち?」

「こと魔術に関してはかなりな」


 一つの魔術体系を消し去ったくらいだし……。


「ま、やってみるのが早いし早速やるか」

「そんな簡単でいいの?儀式とか必要なんじゃ……」

「いらないよ、そんなもん。宗教じゃあるまいし」


 いや、この世界って結構魔術を信仰してるやつ結構あるんだっけ……。神聖国はまさにそれだし。……異端審問とかあったらどうしよ……。


「ハル?」

「いや、なんでもない。んじゃ、やるか。他人の血を飲むのは抵抗あるだろうけど、数滴だけだから我慢しろよ」

「わ、わかった」

「口開けて上向いて」


 アンリは緊張で、体を強張らせながら目を瞑った。

 あらかじめ用意していた、果物ナイフで指に切り傷をつけ、アンリの口にこぼす――。


「よし。目、開けていいぞ。あとは俺の仕事だからじっとしてろ」

「わ、わかった」


 血による魔力知覚には二つのやり方がある。

 一つは、俺のように魔力が込められた血を大量に摂取し無理やり知覚させる方法。

 もう一つは、対象の体内に入った自分の魔力で対象の魔力を制御し、循環論に基づいて血に対象の魔力を込めることで、魔力の流れを生み出し、知覚させる方法。

 今回やったのは後者の方だ。


「う……なんか、変な感じする……」

「元々体の中に在ると言っても、これまで感じてこなかった物だから、異物として脳が誤認する――と師匠が言ってた。その感覚もしばらくすれば消えるから、横になって休んどけ」

「わかった…部屋でやるって言ってたのはこういう事だったんだね……最初から教えておいてよ~」

「魔術は万能だけど完璧じゃない。その大元である魔力はそれ以上だ。扱いを間違えれば痛い目を見る。これも勉強の内だと思え。それじゃ『おやすみ』」


 アンリはそのまま寝息を立て始めた。

 原初の魔術。疲れている相手には魔力を乗せただけの言葉でもそこそこ効果が出る。今ので深い眠りに浸けるはずだ。

 無防備に寝るアンリに布団をかける。寝ている乙女の顔を覗くのは破廉恥な行為だ。俺はそのまま部屋を出た。……アバターだってのに、サクヤから受けた仕打ちは今でも忘れられない。ちょっと見ただけで本気の抜刀術を向けてきたからな……。おー怖い怖い。

 しかし、弟子をとるための修行をつけて貰っておいて正解だった。

 他人への魔力的干渉はかなり危険な行為だ。

 魔力譲渡という確立された技術は別として、他人の体内で魔力を制御するなんて並の魔術師にはできない。出来たとしても、よくて内臓の損傷、最悪その場に血だまりだけが残る。その血だまりも魔力で変質しているから、直に霧散して消え去る。


「……この方法が廃れたのってそう言う事だったのか」


 俺も完璧に制御できるまで、師匠が錬成した『自我のない実験体』を数百体は壊してるからな……。

 もしかしたら異端者として追い回される――出番だ魔術書!


「……そもそも、そういう発想自体消え失せてらあ。循環論すら残ってないみたいだし……――どうなったかとかも書かれてないな」


 新しい技術として公表するわけにもいかないし、アンリにはあとで口止めしておくか。シャンズさんには俺が優れた魔術師だからと勘違いしてもらおう。

 魔力の知覚は終わった。あとは魔力回路の形成か。

 俺の回路の一部を移植するのもありだけど、それすると自己成長の妨げになる……でも一か月しかないからなあ。

 魔力供給の習得は最低条件。あとは、自己防衛のために、ある程度の身体強化と攻撃魔術……。こっちは現在の魔術体系を出来るだけ順守して習得させたい。シャンズさんに聞いてからだな。

 とりあえず三日間は魔力供給に専念させるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ