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七番目の黙示録  作者: 凛月
第二章・辺境の魔術師
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買い物

 アンリを弟子にすることに決めた翌日、魔術に必要不可欠な術具を探すことになった。過度な期待のせいか、朝食の時の目線がやたらと気になったけど、ご機嫌に鼻歌交じりで歩く少女の姿を見ると、それも仕方ないことだったと思えてくる。

 現在午前十時。宿から三十分ほど歩いて町の中心部についた。


「売ってるところに心当たりあるんだよね?」

「この目で見たから、間違いないな。どれくらいの値段かはさっぱりだけど」


 俺たちが目指しているのは、昨日お世話になった質屋だ。あそこには結構いろんなものが置いてあった。魔道具、術具、生活雑貨もろもろ……あまり大きな店じゃなかったけど、ぱっと見でも、品ぞろえは豊富だ。


「あんまり高いのはちょっとなぁ……」

「弟子の分だし俺が出すよ。足りなかったら持ち物売ればいいし」

「ちょっと肩入れしすぎだと思うんだけどな……ホントに詐欺じゃないよね?」

「違うって……」


 師弟になるにあたって敬語は不要という事で、楽に会話できるようになった。転生前の世界で敬語使ってたのって、大抵金の亡者どもだったから、正直あんまいい思い出ないから苦痛でしかない……。

 そうこうしているうちに質屋についた。


「あ、確かにここなら何でも売ってるからありそうだね」

「知ってるんだ」

「昨日話した六級魔術師さんが働いてるの。ほとんどはその人のおばあちゃんが店番してるんだけどね」


 そういえば、昨日オベルクさんとシャンズさんが話してたな。さて、今日は誰がいるのやら……。


「こんにちわ~。あ、インスばあちゃん!」

「おや、アンリじゃないか。……そこの坊主は何者だい」


 アンリを優しく迎えたインスさんだったけど、俺を見るなり眉間にしわを寄せ、鋭い眼光を飛ばしてきた。


「この子はハル!私の魔術の師匠だよ!」

「魔術師ねえ……階級は?」

「えっと……非正規です……」


 それを聞いたインスさんの表情は、一層険しくなった。


「悪いことは言わん。やめときな、アンリ。資格持ちならともかく、野良なんて信用しちゃいけない」


 野良……非正規魔術師の事か?だとすれば相当印象悪そうだな。胡散臭いってのは分からなくもないけど……。


「大丈夫!ハルは信用できる――……信用してもいいんだよね?」


 ご機嫌だったアンリの顔が第三者の介入で不安に変わる。


「大丈夫だって、騙したりなんかしない。おば……じゃなくて、インスさんは魔術の心得がある方ですか?」

「孫が魔術師だからね。多少はあるさ。だからこそ、坊主は信用ならん」


 なるほど、魔術の心得があると…だとすれば、師匠の言う通りに行けば、これを見せれば何とかなるはずだ。服の下に隠してあったペンダントをインスさんの目の前に出す。


「これはどういうつもりだい」

「え、魔術の心得があるんならこれで……」

「何を言ってるかさっぱりだね」


 ……師匠。言ってることが違います……。って言っても相手によるって言ってたな。

 どうしたものかと次の考えを過らせていたら、店の奥から男性が一人出てきた。


「ばあちゃん、昨日のこれなんだけどさ――何でお前がここにいんだよ……」

「シャンズさん!」


 サングラスごしでもわかるくらい、残念そうな顔をしている彼だけど、渡りに船とはこういう事!


「ちょうどよかった。シャンズさんならこれの意味わかりますよね?」

「あ?――っ!?……おま、何でこんなもん――あ、ああ。なるほど、そういう訳かよ。で?それと俺とで何が関係あんだよ」

「インスばあちゃんが、ハルは信用ならないから、魔術を教わるのはダメって言ってって……」


 シャンズさんはため息交じりに「なるほどな」といい、頭を掻く。


「安心しろよ、ばあちゃん。こいつは善人だ。魔術のことも任せとけばいい」

「どうしてそんなことがわかるんだい」

「こいつが持ってんのは「誓約の証」っつー聖遺物。魔術的な嘘がつけなくなる代物だ」


 やっぱ大層なもんじゃねえか!?怖いんだけど!


「盗んだってわけでもねえぞ。ちゃんと正式な儀式でもしねえと――」


 シャンズさんがペンダントに触れようとした瞬間、一瞬拒むように静電気のようなものが流れた。


「こうなる。盗もうもんなら焼死体で見つかるのが関の山。今の程度で済んだのは俺に悪意が無かったからだ」


 ……全部初耳なんですけど?正式な儀式とかした覚えもないんですけど?普通に渡されたぞ。


「……ちょっと先に言わせてくれ、お前その魔力どうにかしてくんねえか。気持ちわりいんだわ」

「魔力……ですか?ああ、その魔眼、魔力も見えるんですね」


 師匠のところじゃ、何時いかなる時も魔弾の強襲から身を守るために、防御に極振りした身体強化を保ち続けてたから、外に出てからもそのままだった。シャンズさんは魔眼を制御できてないから、俺の魔力が流れ続ける魔力回路を見て酔ってしまったんだ。もう師匠の魔弾は飛んでこないし、出力抑えておくか。


「これでどうでしょう?」

「おう、少なくともお前がバケモノに見えることは無くなった」


 バケモノって……師匠の事見たらこの人失禁しそうだな。


「本当に信用してもいんだね?」

「心配すんなって。この様子じゃ魔術の腕も一級品だ。お前階級は?」

「……非正規です」

「はあ?ったく……見習い試験も受けさせねえとかどんな師匠だよ。んで、アンリちゃんに魔術を教えるってことでいいんだよな?」

「うん!」


 アンリの不安一掃と言わんばかりの活気のある笑顔で、場の雰囲気が一気に明るくなった。インスさんはやれやれと言った感じだけど、俺に向けていた疑いの視線はもうどこにもない。


「今日は術具を買いに来たんです。いくつか試してもいいですか?」

「おーっても初心者が使うようなもん、この店には置いてねえぞ。昨日文無しって言ってただろお前」

「現金は無くても売るモノなら腐るほどありますから」

「え?私が払うんじゃ?」

「初めての術具は師匠からもらい受けるもんなんだよ。アンリちゃん知らなかったのか?」


 俺も初耳です。でも、初めから出す予定だったし、今のでアンリに余計な負い目を感じさせないですんだ。ありがとう、シャンズさん。そして魔術師のお歴々。

 その後いくつか見たけど、安くても十万程するものばかりだった。一番高い物は四百万。五重の結界術式が組み込まれたショーケースの中に入っている、腕輪型の術具だ。


「うーん……やっぱこれが一番コスパいいな…」

「こすぱ?」

「んー……他のは値段の割に合わないんだよ。余計な装飾品が付きまくってるから、性能と比較して値段が高すぎる。まあ、こいつが一番高いんだけどさ」

「そいつは迷宮からの出土品だ。うちの看板商品ってやつ」


 迷宮か……懐かしい響きだ。何度RTAしたことか。


「この店って等価交換できますか?」

「できるけどよー今回は色目使わねえからな?」

「そんな傲慢なこと言いませんって…ちょっとカウンターお借りしますね。……確かここに入れたはず」


 師匠から貰ったトランクケースは、四次元ポケットまでとはいかないけど、見た目以上に物が入る優れものだ。今はものが少ないから見つけられるけど、今後どうなっていくかは……考えないでおこう。


「このトランクケースも出土品か?」

「これは師匠の手作りですよ。昔、旅してた頃に使っていたものを譲り受けたんです。あった」


 取り出したのは布袋。昔のお金が入っている。ペンダントの事を理解しているシャンズさんなら、どんだけ高い物見せても大丈夫だろう。


「おま……ちょっとは警戒心もてっての…。こんなところでジャラジャラ出すようなもんじゃねえぞ。ぼられたらどうすんだ」

「シャンズさんを信用しての行動です。意味は分かりますよね?」

「おっかねえ、おっかねえ」

「お金だけに?」

「さすがに笑えないぜ、アンリちゃん……」


 ほとほと、困った顔をしながらシャンズさんは一枚一枚、丁寧に硬貨を見定めていく。


「白金貨に聖金貨……長く生きてきたけど、ここまでの物は初めて見たね。信じられん……」

「昨日の銀貨もこいつが持ってきたもんだからな。意外って程でもねえよ。坊主、ちっと時間かかるから座っとけ」

「はい」


 インスさんも目を細めて見ている。微かに目の色が違うのは魔眼によるものだろう。魔眼って遺伝的なものなのか……?調べてみるか。


「な!おま、それ……」

「――……!!?」

「どうしました?……ってああ、これが僕の術具です。そういえば昨日見せてなかったですね」

「……あとで見せてくんね?」

「いいですよ」


 シャンズさんは興味深々だったけど、インスさんは目を丸くして口を開けたままフリーズしてしまった。……この反応、慣れたほうが良さそうだな。

 それもそうと、魔眼だ。どれどれ……なるほど、完全ってわけではないけど、やっぱ遺伝するものか……ん、クファ様も魔眼持ちだったのか。魔素視の魔眼か……それって空気が視認できるってことだよな…どんなふうに見てたんだろ。


「ねえ、ハル?ほんとにあの腕輪買うつもり?無理してない?」


 魔眼に関するページを捲っていたらアンリが横から耳打ちしてきた。その顔はなんだか不安げな様子。


「ごめん。アンリに相談するの忘れてた。腕輪型は嫌だったか?」

「いやいや、そうじゃなくて!値段だよ値段!!」

「んーこういうのって、ケチると禄でもないことになるからな。余裕があるくらいでちょうどいいんだ。やる気にもつながるだろ?アンリには少なくとも三級以上の実力は付けてもらうからな。一か月以内に」


 アンリは濁音のついた声を発して固まった。ま、この町に居る三級術師の実力を知ってから考えなおすけど。


「一か月以内に三級は無理があるだろ。ほれ、終わったぜ」

「あくまでやる気の話ですよ。無茶はさせません」


 査定の結果、金貨六枚と良質な銀貨二枚が妥当だと提案された。時価換算に関しては専門外でわからないけど、魔術師として保証してくれたシャンズさんを信用しない手立てはない。


「色付けてくれました?」

「多少な。アンリちゃんを任せんだ。ちゃんとやってもらわねえとな」

「誠心誠意やらせてもらいますよ。それから、色を付けてくれたお礼と言っては何ですけど、これ使ってください」

「おいおい……これだけで何年暮らせると思ってんだ」

「また、世話になるときはお願いしますね」


 シャンズさんには魔力満タンの高純度の魔石を渡した。金より実用的で、税金もかからない。最高の贈り物と言う奴だ。


「んで、その魔術書なんだが」

「傷つけたら損害賠償請求しますからね」

「おっかねえこと言うなよ……」


 まあ落としたり引っかいたりしただけじゃ傷ひとつ付かないけどな。


「やっぱりな。これ、宝具の類だろ?しかも相当上質……国宝級だ」

「今のところ、宝の持ち腐れ状態ですけどね。使ったら数分魔術回路が焼き切れますから」

「……。それで、これはどこで手に入れたんだ?やっぱ迷宮か?」

「兄弟子から下賜されました。その先は言えませんよ。機密事項なので」

「だよなあ……俺も使ってみたかったぜ……」


 うーん…十中八九に魔力不足で倒れる未来が見える。


「そういえば、この町には三級の魔術師がいるんでしたよね?シャンズさんからしてどう映りますか?」

「あ?鼻につくやろうだぜ。四級の下っ端も金魚のふん見てえな奴だ。実力は相応だけどな」


 なんという言われよう……嫌われ過ぎだろ。でも実力はちゃんとあるんだ。


「俺と比べたらどうですか?」

「比べもんになるかよ。剣抜いたオベルクを素手で倒してんだぞ?お前」

「じゃあ、俺が一級の試験受けたら受かると思いますか?」


 シャンズさんは俺の問いに「何言ってんだか」とため息をつき、カウンターに膝をついて俺を指さした。


「どう考えても、お前は特級案件だ。魔力の量も質も人間離れしてることわかってんだろ?」

「はい。ちゃんと認識通りで安心しました。情報ありがとうございます。あ、情報量いります?」

「出すな出すな。もう腹いっぱいだ、っとそろそろ昼時じゃねえか。午前の営業は終わりだ。帰れ帰れ」

「シャンズさん!お客さんに失礼だよ!」

「お、おう」


 一見不良のシャンズさんも、アンリには弱いらしい。……罪悪感からかどうなのかはわからないけど、少なくともアンリに害を与えることはないだろう。

 ご機嫌に「ありがとうございました」と店を出るアンリの背を追いかけて外に出ようとした時、シャンズさんがカウンターから「おい」と声をかけてきた。


「マジで、アンリちゃんの事任せてもいいんだよな?」

「もちろん。彼女の笑顔を枯れさせるようなことはしませんよ」

「わかった。頼んだ」

「はい。また来ます」


 店を出るとアンリがドアの横で待っていた。


「何か話してたの?」


 店の内側からの音を遮音する結界術式で、話の内容はアンリには聞かれていない。だからこそ、シャンズさんは俺に声をかけた。


「アンリの成長具合見せに来いってさ」

「シャンズさんも魔術師だもね~。シャンズさんを超えられるように頑張ろう!」

「その調子だ。……で、そのお腹の膨らみはなんだよ」


 アンリの腹には腕輪サイズの膨らみが出来ている。三つ目のおっ――……よそう。


「誰かに見られたらとられるかも……」

「確かに今のアンリはカモネギだもんな」

「かもねぎ?」

「格好の獲物ってこと。襲われても返り討ちに出来るくらいには強くなってもらうからな」

「が、がんばる!」


 この町の中に限っては安全だろうけど……。用心に越したことは無い。二人の魔術師の動向も気になるしな。

 宿に戻って休憩したら、魔力感知を始めよう。そのあとは追々、アンリの体調を鑑みて調整していくとして――……。


「あ!オベルクおじさん!」

「お、アンリじゃねえか。買い…出し……か……」

「あ…ども、昨日ぶりですね……」

「どうしてまだ町にいんだよおおおおおおお!!!!」


 やっぱり、オベルクさんとの再会は気まずい物になった。そんなに拒絶しないで……。

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