110話 起点
――第一拠点・裏山。
森は静かだった。
だがその静けさは、もう保たれていない。
戦いは、すでに始まっている。
◆◆◆
最初に動いたのは――
ノアだった。
音がない。
足音も、枝の軋みもない。
ただ、位置が変わる。
森の中を滑るように進む。
ネオンの声が響く。
「チームA、先行はノア」
ソフィアが静かに言う。
「いい判断ね」
「起点を先に動かした」
◆◆◆
ノアは止まらない。
視線が動く。
風。
葉の揺れ。
空気の重さ。
「……いる」
小さく呟く。
前方、右。
気配。
人間では気づけないレベル。
だがノアには分かる。
次の瞬間。
地面を蹴った。
加速。
一直線――
ではない。
“最短”へ。
◆◆◆
その動きに反応したのは――
カリナだった。
「来た」
笑う。
ノアが来る。
それは“接触”ではない。
衝突だ。
カリナが前に出る。
速度。
加速。
互いに――ぶつかる。
◆◆◆
だが――
その直前。
ノアが消えた。
横。
一歩。
半歩。
カリナの視界から消える。
「……っ!」
カリナの感覚が遅れる。
その瞬間――
◆◆◆
カイン。
「そっちか」
笑う。
拳を構える。
カリナが振り向く。
距離――ゼロ。
◆◆◆
衝突。
――ドンッ!!!
拳と拳。
空気が震える。
地面が跳ねる。
ネオン。
「接触!」
「前衛同士!」
ソフィア。
「予定通りね」
◆◆◆
カリナが笑う。
「いいね」
カイン。
「来いよ」
次の瞬間。
カリナが消える。
速い。
蹴り。
肘。
回転。
連続攻撃。
カインが受ける。
重い。
だが止まらない。
カインが突進。
タックル。
カリナが回避。
岩を蹴る。
空中。
回転。
蹴り。
カインの肩へ。
――ドンッ!!
◆◆◆
一方。
森の別地点。
ラザロが銃を構える。
「……見えた」
カリナとカイン。
「支援――」
止まる。
「……違う」
空気がズレている。
視線。
気配。
“線”が合わない。
◆◆◆
――パン。
乾いた音。
一瞬遅れて。
リリスの体が揺れる。
◆◆◆
ネオン。
「……ヒット」
「チームA、リリス脱落」
沈黙。
ソフィアが言う。
「始まったわね」
◆◆◆
距離――約1.6km。
誰も見ていない位置。
木の上。
さらにその上。
アシュレイ。
スコープ越しに森を見る。
「一人」
「二人」
「……三人」
すでに全員を捉えている。
「遅いな」
◆◆◆
ラザロがすぐに伏せる。
「狙撃!」
ネロの声。
「位置は!?」
ラザロ。
「不明!」
ネロ。
「全員、遮蔽!」
◆◆◆
その間にも。
カインとカリナの戦闘は続く。
カリナの拳。
カインの肘。
蹴り。
膝。
互いに譲らない。
カリナ。
「重い!」
カイン。
「速いな!」
◆◆◆
その時だった。
カインの動きが一瞬止まる。
ほんの一拍のズレ。
カリナが逃さない。
蹴り。
――ドンッ!!
カインが吹き飛ぶ。
地面を転がる。
動きが鈍る。
◆◆◆
――だが。
倒れない。
◆◆◆
リリス。
まだ動いている。
センサーは反応している。
だが――“完全ではない”。
彼女の指が動く。
注射器。
カインの腕へ。
刺す。
押し込む。
◆◆◆
カインの目が開く。
呼吸が戻る。
筋肉が震える。
「……まだいける」
カリナが笑う。
「復活?」
カインが立ち上がる。
「もう一回だ」
◆◆◆
ネオン。
「え……!?」
「リリス、まだ行動可能!」
ソフィア。
「それが彼女の役割よ」
「戦場を終わらせない」
◆◆◆
再衝突。
激化。
◆◆◆
森の上。
アシュレイが呟く。
「……面白いな」
照準が動く。
次の標的。
◆◆◆
ネロ。
「ノア」
ノア。
「もう入ってる」
ネロ。
「どこだ」
一拍。
ノア。
「中だ」
◆◆◆
チームB側。
ダリオが振り向く。
「……来てるな」
ルアン。
「速い」
カサンドラ。
「位置不明」
◆◆◆
次の瞬間。
森の奥から――
ノアが現れた。
音もなく。
気配もなく。
距離ゼロ。
◆◆◆
戦場が、一気に近づく。
ネオン。
「接触!」
ソフィア。
「ここからが本番よ」




