109話 確認事項
――第一拠点・裏山。
森に足を踏み入れた瞬間、世界が変わる。
外界の音が遠のく。
風はある。
だが、葉は揺れない。
鳥の声も、虫の音も、どこかで途切れている。
それは静けさではない。
意図的に削られた音だった。
誰かが、ここを“戦場に変えた”痕跡。
◆◆◆
チームA。
ネロが右手を上げる。
「止まれ」
声は小さい。
だが、その一言で全員が止まる。
ラザロは岩陰へ滑り込み、
カインは踏み込んだ足を空中で止める。
リリスは一歩だけ後退する。
迷いのない動き。
後方。
そこが、自分の役割だと理解している。
そして――
ノアだけが、わずかに前にいる。
◆◆◆
ネロが地面を見る。
踏み跡。
折れた枝。
削れた土。
だが、それは不自然だった。
「……雑だな」
カインが鼻で笑う。
「バレバレじゃねぇか」
ネロが首を横に振る。
「違う」
一拍。
「見せてる」
さらに続ける。
「こいつらは“見せ方”を知ってる」
ラザロが低く言う。
「ダリオですね」
ネロが笑う。
「正解だ」
◆◆◆
ノアが静かに言う。
「誘導」
ネロが頷く。
「だが悪くない」
視線が全員を捉える。
「ここで整理する」
一拍。
「確認事項だ」
空気が締まる。
撃ち合いは、まだ始まっていない。
だが――
勝敗は、すでに動き始めている。
◆◆◆
ネロが指を一本立てる。
「カリナ」
カインが即座に言う。
「俺が行く」
ネロが頷く。
「正面から来る」
「止めろ」
カインが笑う。
「潰す」
◆◆◆
二本目。
「ダリオ」
ネロの目が細くなる。
「攪乱」
「誘導」
「思考をズラす」
撃つ前に勝負を終わらせるタイプ。
ネロが言う。
「俺が見る」
ラザロが短く言う。
「最適です」
◆◆◆
三本目。
「カサンドラ」
リリスが言う。
「分析役」
ネロ。
「目だ」
ラザロが補足する。
「位置を割られる」
ネロが頷く。
「だから――」
一拍。
「動きを読ませるな」
◆◆◆
四本目。
「ルアン」
空気が一段重くなる。
カインが言う。
「頭か」
ネロが答える。
「戦場そのものを作る」
ノアが言う。
「全体を見ている」
ネロ。
「だから」
「崩せば、全部崩れる」
◆◆◆
最後。
ネロの視線が森の奥へ向く。
「アシュレイ」
沈黙。
ラザロが言う。
「射程不明」
ネロが低く言う。
「つまり――」
「どこからでも来る」
リリスが静かに言う。
「見えない攻撃」
ネロが笑う。
「そうだ」
◆◆◆
ネロがまとめる。
「カリナ=前」
「ダリオ=混乱」
「カサンドラ=目」
「ルアン=頭」
「アシュレイ=距離」
一拍。
「全部揃ってる」
カインが笑う。
「最高だな」
ネロ。
「だから――」
低く言う。
「一気に崩す」
◆◆◆
視線がノアへ向く。
ネロが言う。
「お前が起点だ」
ノアは頷く。
「分かってる」
その目は、すでに戦場の奥を捉えている。
索敵ではない。
最短で“勝ち”に触れる動き。
ネロが続ける。
「位置を取れ」
「穴を開けろ」
ノア。
「了解」
◆◆◆
リリスが小さく言う。
「私は後方」
ネロ。
「絶対に前に出るな」
リリスは頷く。
その手には、小さな注射器。
透明な液体が揺れている。
カインがそれを見る。
「頼むぞ」
リリス。
「限界を越えたら使う」
一拍。
「越えなければ使わない」
◆◆◆
ネロが言う。
「動くぞ」
全員が散開する。
森に溶ける。
◆◆◆
一方。
チームB。
ルアンが手を上げる。
「停止」
全員が止まる。
自然と円が形成される。
カサンドラが端末を見る。
「敵、分散」
「だが統制あり」
◆◆◆
ルアンが言う。
「ネロが指揮」
ダリオが笑う。
「崩せば終わる」
カサンドラ。
「ノアは索敵」
カリナ。
「先に行く」
ルアンが即座に言う。
「無理です」
「見つかります」
◆◆◆
カサンドラ。
「ラザロは射撃支援」
ダリオ。
「動きを縛られるな」
ルアン。
「遮蔽物を使う」
◆◆◆
カリナ。
「カインは?」
ルアン。
「正面突破」
「あなたが止める」
カリナが笑う。
「任せて」
◆◆◆
そして。
アシュレイ。
ルアンが言う。
「あなたは自由」
アシュレイ。
「了解」
カサンドラ。
「位置共有はこちらで管理」
ダリオ。
「好きに撃て」
◆◆◆
ルアンがまとめる。
「ネロを崩す」
「それで終わり」
カサンドラ。
「情報支援」
ダリオ。
「攪乱」
カリナ。
「前衛」
アシュレイ。
「狙撃」
◆◆◆
ルアンが静かに言う。
「これは戦闘ではありません」
一拍。
「構造破壊です」
◆◆◆
ネオンの声。
「両チーム停止確認」
「完全に読み合ってる」
ソフィアが言う。
「いいわね」
「撃つ前に勝負が始まってる」
◆◆◆
森の中。
誰も撃っていない。
だが。
全員が理解している。
次の一手で、
戦場が動く。
◆◆◆
ネロ。
「行くぞ」
ルアン。
「開始」
◆◆◆
同時に――
二つのチームが動く。
だが。
完全な同時ではない。
わずかに。
ほんのわずかに。
最初に動いたのは――
ノアだった。
音もなく。
気配もなく。
森の奥へ消える。
その動きは、索敵ではない。
戦術でもない。
――「結果」に直行する動きだった。




