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異世界転生したけどスキルも職業もなくて無職追放されたので草むしり係やってます  作者: Y.K
第9部

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ソラリード聖国編

陽光に照らされた白い城壁が、遠くからでも眩しく光を放っていた。

俺たちが辿り着いたのは、光の大聖堂を擁する国――ソラリード聖国。


「……すげぇな。まるで街全体が磨き上げられた石像みたいだ」

鍬を肩に担ぎながら、思わず口をあける。

どこを見ても白亜の石造り、整然と並んだ街並み。道端には色鮮やかな花が植えられ、兵士たちは無駄のない動きで行き交っている。


「ここは“太陽神に祝福された国”。秩序と清浄を第一とする土地です」

隣でセレーネが小さく微笑んだ。

「……だからこそ、影の侵入にはもっとも敏感なはずですが」


その時、俺たちを見つけた子供たちが駆け寄ってきた。

「英雄さまだ! 無職の英雄さまだ!」

「光の奇跡を起こした人だ!」


「いやいや、奇跡って……」

俺が慌てて手を振る前に、大人たちも次々と集まり、頭を垂れる。


「――“太陽神の使徒”よ、よくぞ聖国へ」

人混みを割って現れたのは、金糸の法衣を纏った神官だった。

鋭い眼差しと威厳ある声。だがその口元は、妙に笑みを含んでいる。


「お、おい……“使徒”って俺のことか?」

「もちろんです。影を祓い、人々の記憶を結び直す……それは神が与えたもうた奇跡にほかなりません」


……待て待て。俺はただ鍬で掃除してただけだぞ?

ドン引きしつつも、群衆の「救世主コール」が街全体に広がっていく。


リオンが俺の肩を叩き、にやりと笑った。

「おい、“英雄”からついに“使徒”か。肩書きがどんどん豪華になってくな」


「やめろ! 俺はただの無職掃除人だ!」

叫んだ声は、人々の歓声にかき消された。


――こうして、俺たちのソラリード聖国での騒がしい幕開けは始まった。


華やかな歓迎の行列を抜け、俺たちは大聖堂の内部へと案内された。

天井まで届く巨大なステンドグラスから、陽光が降り注ぎ、床の大理石に虹色の光を落としている。


「……きれい、だけど」

セレーネが低く呟いた。

「光が強すぎますね。影を押し込めすぎると、必ず歪みが生じるものです」


リオンも腕を組みながら首を傾げる。

「確かに……ここまで整いすぎてると、逆に不気味だな。兵士たちも妙に無表情だったし」


俺は鍬を杖代わりにしながら、堂内を見渡した。

一見すべてが清らかだが――床の隅や柱の影に、妙な“濃さ”を感じる。

光が強いほど、影も濃くなる。そんな当たり前のことを、ここは無理やり覆い隠しているように見えた。


「おい、見ろ」

リオンが顎で示した先――

壁際に並んだ参拝者の一人が、ふと膝をついた。肩が震え、うつろな瞳からは涙が零れている。


「……忘れたくない……忘れたくない……!」


周囲の信徒が慌てて抱きかかえるが、その口から同じ言葉が繰り返される。

影の残滓だ。あれは、俺が見てきた“記憶の侵食”の兆候に間違いない。


「なあ……歓迎ムードなのはありがたいけどよ」

俺は低く呟いた。

「この国、もう影に侵され始めてるんじゃねぇか?」


セレーネの顔が緊張に包まれる。

「……そう。だからこそ、彼らは“あなたを使徒”と呼んだのです。自分たちではもう抑えられないと知っているから」


――祭りのような熱狂の裏に、抑え込まれた影が静かに蠢いていた。

聖国の光は、すでに限界を迎えようとしている。


その夜。

俺たちは大聖堂に隣接する迎賓館に泊められた。豪華な調度品に囲まれているのに、どこか落ち着かない。


「……静かすぎるな」

リオンが窓から外を見張りながら呟く。

街は眠っているはずなのに、兵士の足音だけが規則正しく響いていた。


セレーネは机に広げられた聖典をめくり、眉をひそめていた。

「やはり……。この国の“光”は、影を追い払うのではなく、“封じ込める”ことを目的としている。まるで蓋をした鍋のように」


「なら、いつか爆発するってわけか」

俺は鍬を壁に立てかけながら、深く息を吐いた。

「――って、おい」


床下から、かすかな呻き声が響いた。

耳を澄ますと、それは複数の声が重なり合ったものだった。


「……わすれたくない……」

「……光が……まぶしい……」


次の瞬間、迎賓館の床に亀裂が走り、黒い腕が一斉に飛び出した!

影の根だ――しかもここまで濃いのは初めてだ。


「ユウマ! 来るぞ!」

リオンが剣を抜き、セレーネが防壁を展開する。


だが影の腕は、防壁をすり抜けてこちらに迫ってきた。

「なっ……!?」

セレーネが目を見開く。


「ただの影じゃねぇな……“封じ込められて歪んだ影”か」

俺は鍬を掴み、叫んだ。

「――草むしり奥義! “総掃除スラッシュ”ッ!」


鍬の白光が影の腕を裂く。だが――

裂かれた影はすぐに再生し、形を増していく。


「ちっ、効きが薄い……!?」


影の腕の中心から、人影がゆっくりと姿を現した。

全身を鎖で縛られ、額に光の印を刻まれた――かつての“聖騎士”だ。

虚ろな瞳の奥に、真っ赤な影の焔が灯っていた。


「……ユウマ殿……」

セレーネが震える声で告げた。

「これは……“光に縛られ、影に堕ちた者”。聖国の歪みそのものです!」


俺は鍬を握り直し、歯を食いしばった。

「つまり……また掃除の出番ってことだな」


鎖に繋がれた聖騎士が、呻き声と共に剣を振り下ろしてきた。

その軌跡は黒と白が入り混じり、まるで“影と光”そのものを斬り裂く刃のようだった。


「ぐっ……重い!」

リオンが受け止めた瞬間、膝が床に沈む。

「影の力と聖国の“光封印”が合わさってる……! 普通じゃ勝てない!」


セレーネの額にも汗が滲む。

「彼は……国に仕える忠義を忘れられず、影に囚われたのでしょう。だから防壁が効かない……!」


――忘れられず、囚われてる。

その言葉が胸に刺さった。


「……だったら」

俺は鍬を構え直し、深く息を吸い込んだ。

「“忘却”で無理に消すんじゃなくて……“解いてやる”しかねぇだろ!」


白光が鍬に集まり、仲間たちの声が響く。

「ユウマ! やれるのか!」

「信じます……あなたの新しい力を!」


俺は鍬を床に突き立て、叫んだ。

「――草むしり奥義! “解呪掃除パージ・リリース”!!」


床から白い紋が広がり、鎖に繋がれた聖騎士の身体を包む。

光の鎖が一つひとつ外れていき、そのたびに影が悲鳴を上げた。


『やめろ……我らは縛られてこそ……存在できる……!』


「縛り付けて守ったつもりでも、それはただの牢獄だ!」

俺は鍬を振り抜き、最後の鎖を砕いた。

「掃除ってのは――余計なもんを取り除いて、すっきりさせることなんだよ!」


白光が爆ぜ、聖騎士の体から影が吹き飛んだ。

重苦しい空気が一気に晴れ、迎賓館を覆っていた黒い気配が消えていく。


聖騎士は倒れ込み、うっすらと涙を流していた。

「……ああ……やっと……眠れる……」


彼の剣が床に落ち、静寂が訪れる。


「ユウマ殿……!」

セレーネが胸に手を当て、深々と頭を下げた。

「あなたの“忘却”は……やはり消去ではなく、“解き放つ力”なのですね」


リオンも頷き、肩を震わせて笑った。

「ったく……また妙な掃除技を増やしやがって。でも、助かったぜ」


俺は鍬を担ぎ直し、深く息を吐いた。

「新しい国ってのは、やっぱり掃除のネタに事欠かねぇな……」


――そのとき。

外から鐘の音が鳴り響いた。

「緊急の集会だ!」

兵士の声が広場に広がり、人々がざわめき始める。


俺たちは顔を見合わせた。

ソラリード聖国――ここでの掃除は、まだ始まったばかりだ。

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