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異世界転生したけどスキルも職業もなくて無職追放されたので草むしり係やってます  作者: Y.K
第9部

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鐘が告げる集会

鐘の音は、ただ事ではない緊張を街全体に叩き込んでいた。

聖堂の鐘楼から響く低い音が、何度も何度も重なって、広場の石畳を震わせる。


「……これは、ただの祈りの合図じゃない」

セレーネが目を細めた。

「“緊急集会”を告げる鐘です。聖国中の市民に、広場への参集を命じています」


リオンが肩の剣を握り直す。

「集会、ねぇ……さっきの影騎士の件と繋がってるのか?」


「間違いないでしょう」

セレーネが小声で続ける。

「影に侵された騎士が出た……その事実は国にとって大きな脅威。

上層部は民衆を前に“正義の演説”を行うはずです。……その裏に、必ず思惑がある」


俺は鍬を担ぎ直して、ざわつく人波を見渡した。

兵士たちが人々を誘導し、広場の中心には仰々しい壇が組まれていく。

荘厳な布がかけられ、その上には黄金の十字と光を象徴する紋章。


「……こりゃ、ただの演説じゃ済まなさそうだな」


リオンが眉をひそめる。

「ユウマ、どうする? 俺たちまで巻き込まれるぞ」


「巻き込まれるんじゃなく、潜り込むんだ」

俺は苦笑した。

「どうせ掃除の現場ってのは、人が一番集まる場所に決まってる。

ゴミが隠れるのは……人混みの影だ」


セレーネは一瞬目を丸くし、それから口元に小さな笑みを浮かべた。

「……あなたの理屈は不思議ですが、なぜか納得してしまいます」


鐘の音が止み、広場の喧騒が静まり返る。

重厚な扉が開き、聖国の上層部が姿を現した。


黄金の法衣を纏った大神官。

鎧を光らせる聖騎士団長。

そして――玉座のごとき椅子に座る、蒼白な顔の“聖王”。


群衆のざわめきが広がる。

「聖王陛下だ……!」

「こんな時に……直々に……」


俺は鍬の柄を強く握った。

――ここで何かが始まる。


荘厳な沈黙を破ったのは、黄金の法衣を纏った大神官の声だった。

深く響く声が、広場に集まった群衆の耳を貫く。


「――集えし民よ。今こそ耳を傾けよ」


その瞬間、群衆は一斉に頭を垂れた。

誰もが自然と膝を折り、大神官の言葉を待つ。


「影は芽吹いた。闇は再び牙を剥き、この聖国の秩序を蝕もうとしている」

声は厳粛に、しかし不思議と心を縛りつける力を帯びていた。

「だが恐れることはない。我らには“光”がある」


掲げられた聖杖が白く輝くと、群衆から安堵のどよめきが起きる。

その後ろで聖騎士団長が剣を掲げ、鋼の声で続いた。


「光を信じる者は守られる。影に触れた者は、裁かれねばならぬ!」


「裁き……?」

俺は小さく眉をひそめた。

ただ守るだけじゃなく、“排除”の色が強すぎる。


セレーネも小声で囁く。

「……やはり。影の出現を理由に、“秩序強化”を推し進めています」


その時、椅子に座る聖王がゆっくりと立ち上がった。

蒼白な顔に、不気味なほどの光が宿っている。

「……民よ。影を許すな。影に染まる者は人にあらず。

彼らを焼き払い、光だけの国を築くのだ」


広場に沈黙が落ちた――直後。

「光万歳!」

「影を討て!」

「聖王に従え!」


熱狂的な声が次々と上がり、空気が一気に狂信的に染まっていく。


リオンが低く吐き捨てる。

「……くそ、これは“演説”なんかじゃねぇ。“洗脳”だ」


俺は鍬を握り直した。

胸に、影の王の最後の言葉がよみがえる。

――“均衡の裏側”に芽吹く影。


光を掲げるこの国の在り方が、その均衡を崩しているんじゃねぇか……?


「……均衡、か」

俺は喉の奥で呟いた。

鍬の柄に伝わる温もりは、まだ戦場で掴んだ“記憶の光”を宿している。


セレーネが視線を寄越す。

「ユウマ殿……お気づきですか?」

「……ああ。影は確かに脅威だが、今のこれは……」

言葉を探していると、彼女が静かに言葉を重ねた。


「光だけを掲げれば、必ず影は濃くなる。

この聖国は、“秩序”の名のもとに光を強調しすぎている。

結果――影が呼び寄せられているのかもしれません」


リオンが険しい表情で腕を組む。

「……じゃあ、あいつらが“影を狩る”なんて叫んでる限り、逆に影は増えるってことか?」


「皮肉なものです」

セレーネは肩をすくめた。

「均衡を失った祈りは、救いではなく呪いに変わる」


その時だった。

「――影に染んだぞ!」

甲高い叫びが群衆を突き抜けた。


人混みの中央で、一人の若い兵士が突き飛ばされる。

腕に黒い痣が浮かび上がり、周囲の人々が恐怖に震えながら距離を取った。


「やめろ! 俺は……俺はまだ……!」

兵士は必死に否定するが、聖騎士たちが即座に取り囲む。


「影に触れし者は、光に浄化されねばならぬ!」

剣が振り上げられ、群衆が歓声をあげる。


「待てッ!」

俺は思わず声を張った。

「そいつはまだ……人間だろ!」


一瞬、広場が静まり返った。

数百の視線が俺たちに突き刺さる。

大神官の目が細められ、聖王の唇が冷たく歪む。


――やべぇ。完全に目をつけられた。


聖騎士の剣が振り下ろされようとする瞬間、俺は鍬を突き出して割って入った。

甲冑と鍬の柄がぶつかり、火花が散る。


「邪魔をするな、異邦人!」

聖騎士の怒声が響く。


「邪魔じゃねぇ!」

俺は睨み返した。

「こいつはまだ“影そのもの”じゃない! ただ、均衡を押しつけられて揺らいでるだけだ!」


兵士は涙を滲ませて呻く。

「……信じて……くれ……」


その言葉に、群衆のどよめきが広がった。

「だが痣は……影の証だ!」

「浄化しなきゃ皆が危険だ!」


聖王の声が頭上から響く。

「民よ、惑わされるな。光に従わぬ者は影に呑まれる。均衡を乱す者は――切り捨てねばならぬ!」


その瞬間、兵士の痣が脈打ち、影の触手のような黒が広がる。

人々が悲鳴を上げる。


「……っ!」

リオンが剣を構え、セレーネが魔力を溜めた。

だが俺は両手を広げて二人を制した。


「違ぇんだよ!」

俺は兵士に駆け寄り、その肩を掴んだ。

鍬から白光を流し込むと、兵士の胸から黒い靄が噴き出す。


「――草むしり奥義! “記憶結びメモリー・バインド”!」


光の縄が兵士の体を縛り、痣の影を押さえ込む。

彼の瞳にうっすらと涙と光が戻っていった。


「……忘れたくない……仲間の顔を……守りたいんだ……!」


その言葉が鎖に刻まれ、黒い痣が裂けて消えていく。


広場にざわめきが走る。

「影が……消えた……?」

「本当に……助かったのか?」


聖王の眉間に深い皺が刻まれる。

「……異邦人。お前の力は、均衡を乱す……」


俺は鍬を肩に担ぎ、睨み返した。

「違ぇよ。俺はただ――掃除してるだけだ。人の“残したい記憶”をな」


静寂のあと、兵士たちから小さな声が広がった。

「……ユウマさま……」

「影を、追い払った……」


その波は次第に広がり、聖騎士団すら一瞬足を止める。


だが――聖王の瞳は氷のように冷たく輝いていた。

「……ならば、次の集会で裁きを下そう。光か、影か。無職の英雄よ、覚悟しておけ」


広場に重苦しい鐘の音が響き、俺たちの戦いが新たな段階へと突き進んだ。


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