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異世界転生したけどスキルも職業もなくて無職追放されたので草むしり係やってます  作者: Y.K
第9部

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無職英雄、記憶で影を縛る!

閃光と闇の衝突が広場を引き裂いた。

瓦礫が宙を舞い、空気が焼け焦げるように震える。


「ぐぅっ……!」

俺は鍬を必死に押し込みながら、喉の奥で呻いた。

試作奥義の光は確かに影を弾いている。だが――吸い込まれる勢いの方が強い。


『……足掻け……足掻くほど……甘美な力……』

影の王の声は重低音となって大地を震わせた。

そのたびに広場の影が伸び、兵士たちの足を絡め取ろうとする。


「ユウマ! 持ちこたえろ!」

リオンが剣を突き立て、影を断ち切った。だが切っても切っても、影は再生する。


「……っ、影の根は尽きぬ。記録から生じた存在だからです!」

セレーネの叫びが飛ぶ。

「忘却が吸われている今、ユウマ殿の従来の奥義では押し切れません!」


「知ってるよ……!」

歯を食いしばりながら、俺は光をさらに込めた。

――だが、限界は近い。

鍬の柄がビシリと罅割れ、手のひらに痛みが走った。


『……終わりだ……』

影の王が両腕を広げる。闇が空を覆い尽くし、広場全体が夜よりも深い黒に沈んだ。


兵士たちが絶望の声を上げる。

「もう……光が届かない……!」

「う、動けない……!」


「ふざけんなよ……!」

俺は吠えた。

「まだ掃除は終わってねぇ! ――便所掃除も草むしりも、最後の最後まできれいにしてなんぼだろ!」


鍬を高く掲げると、白光が今までとは違う形で揺らめいた。

光は細かな粒子となり、兵士やリオン、セレーネの体に吸い込まれていく。


「え……? 力が……満ちてくる……!」

「剣が……軽い!」

「これは……新しい……記憶の共有……?」


そうだ。

思いつきだったが――俺の“忘却”を一人で抱え込むんじゃなくて、仲間たちに分け与える。

残す記憶を“共有”することで、影に吸われない力を作り出す。


「行くぞ……新技だ」

俺は鍬を振り下ろし、叫んだ。


「――草むしり奥義! “共有掃除メモリー・リンク”ッ!!」


白光が一斉に仲間へと繋がり、全員の武器と身体が輝いた。

影の王の赤い眼がわずかに揺らぐ。

『……ぬ……人の記憶が……一つに……?』


「さぁ、ここからが本番だ!」

俺は仲間と並び立ち、闇に挑んだ。


白光の鎖が、俺と仲間たちをつないでいた。

温かい力が胸に流れ込み、まるで心臓の鼓動が重なっているかのようだ。


「……すげぇ……! 俺の剣、まるで羽のように軽い!」

リオンが剣を振り抜くと、黒影が紙を裂くように吹き飛ぶ。


「私の魔力も……影に吸われない!」

セレーネの杖から放たれた光弾が、影を正面から弾き飛ばした。


「ユウマ殿……これはまさか、記憶の共有……?」

彼女の声は震えていた。

「互いに“残す記憶”を分け合い、支え合う……これが忘却の力の新しい形なのですね」


「ま、試作だがな!」

俺は苦笑いしつつ、鍬を振り抜いた。

「俺だけで掃除するより、みんなでやった方が早いって話だ!」


仲間の背後で兵士たちも声を上げる。

「俺にも力が……!」

「忘れてた笑顔が、胸に……!」


その光景に、影の王の瞳がぎらりと赤黒く燃えた。

『……人の記憶を束ねるだと……小賢しい……!』


闇が一気に収束し、巨大な影の刃となって振り下ろされる。

大地が震え、建物がまとめて呑み込まれるほどの圧力。


「くっ……!」

リオンが剣で受け止めるが、膝が沈む。

「こいつ……重すぎる!」


セレーネも魔力で防壁を張るが、ひびが走る。

「このままでは押し潰されます!」


俺は鍬を握り締め、全員へと叫んだ。

「――支えろ! ここは俺ら全員の掃除場だろうが!」


白光がさらに強く輝き、兵士たちの声が響く。

「ユウマさまを忘れない!」

「俺たちの英雄を……守る!」


その想いが光の柱となり、影の刃を押し返していく。


『……馬鹿な……! “無職”風情がここまで……!?』

影の王の咆哮が広場を震わせた。


だが俺は笑った。

「無職だろうが関係ねぇ。みんなで掃除したら――世界だってピカピカにできるんだよ!」


影の刃が押し返され、瓦礫の上に立つ俺たちを中心に白光の輪が広がっていった。

仲間の息遣い、兵士たちの叫び、子供の笑顔――すべてが胸に流れ込み、俺の鍬とひとつに溶け合う。


「……くくっ」

影の王が、低く笑った。

『小さな光で何を守れる。闇は必ず人を呑む……!』


全身から黒霧が噴き上がり、広場を丸ごと影の牢獄に変える。

伸びる黒腕が次々と人々を絡め取り、記憶を削ろうとする。


「忘れさせねぇ!!」

俺は鍬を振り抜いた。

だが――影は厚い。単純な力押しじゃ、押し返しきれない。


「ユウマ殿!」

セレーネの声が響く。

「あなたの“忘却”は、ただの消去ではない……! “選び取る力”です!」


「……そうだな」

俺はにやりと笑った。

「なら、新しい掃除法を試すか!」


鍬に仲間たちの光を集め、地面へ突き立てる。

大地に白い紋が広がり、黒影の腕を絡め取った。


「――草むしり奥義!」

声が自然と腹の底から響く。

「“記憶結びメモリー・バインド”!!」


白光の縄が影を縛り、仲間の記憶を鎖に変える。

リオンの戦場での誓い、セレーネの小さな微笑み、兵士たちの「生きたい」という叫び――全部が鎖となって影を封じた。


『……ば、馬鹿な……人の記憶ごときで……!』

影の王が暴れるたび、鎖がぎしぎしと鳴る。

だが切れない。


「無職だって、繋がりを武器にできるんだよ」

俺はゆっくりと影へ歩み出す。

「お前みたいに“忘れさせる”んじゃなく、“残したい”って気持ちがここにある限りな」


黒い巨体がのけぞり、広場が白光で満たされていった。


光の鎖に締め上げられた影の王は、地を割るような咆哮を上げた。

『……ぐっ……人の……記憶ごときで……我が……!』


闇が広場全体を覆い尽くそうと渦巻く。

だが――仲間の声がそれを押し返した。


「ユウマさまを忘れるわけがない!」

「雑用魂を、俺たちは見てきた!」

「無職の英雄ばんざい!」


白光が広がり、黒霧を食い破る。

俺は鍬を振り上げ、最後の力を叩き込んだ。


「――草むしり奥義!“総掃除パージ・クリアランス”!!」


白光の奔流が影の王を呑み込み、闇は音を立てて崩れ落ちた。

広場を覆っていた牢獄は消え、青空がのぞく。


影の王の体は、霧散する寸前に声を残した。

『……だが忘れるな……影は必ず再び芽吹く……“均衡の裏側”に……』


完全に消滅し、静寂が訪れる。


「……ふぅ」

鍬を支えながら、俺は空を見上げて息を吐いた。

「結局、掃除ってのは終わりがねぇんだな」


セレーネが微笑む。

「ええ……けれど、あなたがいる限り、何度でもやり直せます」


リオンも頷いた。

「影が芽吹くなら、俺たちで何度でも刈り取ればいい」


民衆の歓声が広場を包む。

「無職の英雄だ!」

「未来を繋ぐ人だ!」


……やっぱり“無職”の冠は外れそうにない。

でも、不思議と嫌じゃなかった。


俺は鍬を担ぎ直し、仲間たちに笑みを向けた。

「さぁ、次の国だ。まだ掃除は山ほど残ってる」


その瞬間――吹き抜けた風に、どこか冷たいざわめきが混じった。

影の残滓が、遠くの地平でうごめくのが見えた気がした。


「……やれやれ。通過点にしては騒がしいな」

俺は小さく笑い、鍬を握り直す。

「次は、どんな汚れが待ってるやら」


こうして俺たちは、新たな国へと歩みを進めた。


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