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異世界転生したけどスキルも職業もなくて無職追放されたので草むしり係やってます  作者: Y.K
第9部

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グランフェルド到着!無職、異国の空気にむせる

王都を後にして三日。

石畳の道はやがて土に変わり、森を抜けると広大な平野が広がっていた。遠くに見えるのは、漆喰の城壁に囲まれた国――グランフェルド王国。


「おお……すげぇな」

思わず声が漏れる。王都よりも質実剛健って感じで、飾り気は少ないが、とにかく“デカい”。前世で見た工場地帯を思い出す。でっかい煙突やら倉庫が並んでいたあの灰色の街並みに、どこか似ている。


「ユウマ、顔が曇ってますよ」

セレーネが心配そうにこちらを覗き込む。銀髪が風に揺れて眩しい。

「い、いや……ちょっと工場勤務の頃を思い出しただけだ……ほら、始業ベルが鳴る前に走って集合場所に行くやつ……」


「俺にはよくわかんねぇけどよ!」リオンが苦笑する。

「まぁ、ここからが本番だ。王様がわざわざ送り出したんだ。どんな依頼か、楽しみじゃねぇか!」


……楽しみ、ね。俺としては「無職」と書かれた名札を首から下げて隣国に入る時点で、楽しさのかけらも感じないんだが。

しかも道中、宿屋の主人や旅人に自己紹介するたびに、同じ反応をされた。


「職業は……無職です」

「お、おぉ……!? あの“無職の英雄”……!」

「いや、なんでそこで目を輝かすんだよ! もっとこう、気まずそうにしろよ!」


旅立ちの日の朝は、爽やかなはずが……俺にとってはすでにツッコミで喉が枯れる修行の日々の始まりだった。


城門をくぐると、そこは王都とはまるで違う世界だった。

石畳の道はきっちり磨き上げられ、左右には整然と並ぶ石造りの家々。行き交う人々の衣服も質素ながら清潔で、どこか工場の制服みたいに揃っている。


「おおっ……なんか整いすぎてねぇか?」

俺は思わず目をしばたたかせる。

王都の雑然とした活気を思い出すと、この規律正しさは逆に落ち着かない。


「秩序を重んじる国柄なのでしょうね」

セレーネが静かに呟く。

「確かに活気はありますが……不思議です。笑い声が、ほとんど聞こえません」


リオンは眉をひそめた。

「みんな働いてはいるが、顔が無表情だな。まるで……任務をこなしてるだけみたいだ」


確かにそうだった。市場には野菜や果物が並んでいるのに、誰も「美味しい!」とも「安い!」とも言わない。

客と商人は淡々と品物と金を交換するだけ。まるで流れ作業のベルトコンベアーを見てる気分だ。


「うわぁ……なんか嫌な既視感……これ、俺の前世の会社と同じ空気じゃねぇか」

口に出した瞬間、背筋がぞわっとした。


「ユウマ殿」

セレーネが俺の手をそっと握る。

「この国には、きっと何か……笑顔を奪う“影”が潜んでいます」


すると、通りの角から白銀の鎧に身を包んだ兵士たちが現れた。彼らは行進しながら、まるで機械の歯車のように同じ動きで頭を下げる。


「ようこそ、無職の英雄殿」


その声は礼儀正しいのに、どこか無機質で、心がこもっていない。

俺は思わず鍬を握りしめた。


「おい……これ、笑顔だけじゃなくて感情そのもの忘れてないか……?」


重厚な城門をくぐった先、黒曜石の壁に囲まれた広場は異様な静けさに包まれていた。人々は笑顔を見せているのに、声にならない。口元は笑っているのに、瞳はまるで水面に映る月のように冷たく揺れている。


「……なあセレーネ。これ、やっぱおかしくねぇか?」

「ええ。笑いながら心が動いていない……まるで感情そのものを、誰かに奪われているようです」

セレーネの声には微かな震えが混じっていた。俺は無意識に鍬を握りしめる。


やがて、玉座の間へ通された。黒と金で飾られた広間の奥で、グランフェルド王がゆったりと腰を下ろしていた。

髭を蓄えた壮年の王は、ゆっくりと立ち上がり、俺たちに向かって威厳ある声を響かせる。


「無職の英雄、ユウマ殿……。そなたの武勇はすでに我が国にも伝わっておる。王都を襲った“影の獣”を退けたのは、他でもないそなたと聞く」


「いやいやいや、俺じゃなくて、ほら、こっちの勇者様とかセレーネとかが……! 俺は草むしってただけ!」

慌てて否定する俺を、リオンが横でうなずきながらも複雑そうに見つめる。


だが王の眼差しは、妙に空ろだった。笑ってはいる。けれど、心の奥が見えない。

――これは。昨日の“影の囁き”と同じだ。


「ユウマ殿」王は再び口を開いた。

「我らの国には、さらなる“影”が迫っておる。勇者と共に、どうか我らを救ってはくれぬか」


その瞬間、俺の視界にノイズが走った。

白い空間で告げられた女神の声――「忘却」――が脳裏にちらつく。

そして、どこからかまた低い声が響く。


『……忘れよ。痛みも、誇りも。残るは空虚。そこにこそ道が開かれる……』


「おい……勝手に俺の頭ん中でナレーションするな!」

真顔でツッコむ俺を横目に、セレーネの琥珀の瞳が険しさを増していった。


「影の気配が……来ます!」

セレーネが杖を握りしめると同時に、広間の天井が不気味にうねり始めた。黒い靄が渦を巻き、巨大な人影のようなものが浮かび上がる。


「は、早く! 勇者よ!」

グランフェルドの王が青ざめ、勇者に叫んだ。

「そなたが……この国を守るのだ!」


「ま、任せてください!」

勇者が剣を抜く。だが、振り下ろした瞬間、影の塊はふっと形を変え、まるで何もなかったかのように剣をすり抜けた。


「なっ……俺の聖剣が効かない!?」

「そんな、浄化魔法も通じません!」セレーネの声に緊張が走る。


リオンが前に飛び出し、影に斬りかかろうとした。

「俺がやる! 見てろ、ユウマ!」

しかし彼の刃もまた、影を裂くことなく霧散してしまう。


……マジかよ。これはもしや。

嫌な予感が背筋を走る。


俺の脳裏に、またあのノイズが走った。

【……忘却を重ねよ。記録は削ぎ落とされ、新たな頁が開かれる】


「ちょ、勝手にスキルが進化してんだけど!? これ、アプデか?」

俺は叫びながらも、手にした鍬を高々と掲げた。

気づけば周囲の兵士たちの無表情が一瞬ゆらぎ、広間の床に散らばる煤が光を帯びて消えていく。


「な、なんと……影が後退しておる!」

王妃が驚きの声を上げる。


「草むしり係の力が……本物だと、また証明されたな」リオンが歯を食いしばりながら笑う。

セレーネは小さく頷き、震える声で呟いた。

「ユウマ殿、それが……あなたの新しい【忘却】の形なのですね」


俺の額から汗が滴り落ちる。頭の奥がじんじんする。何かを忘れていく感覚。

けど、不思議と心は軽かった。


「……まあいいや。俺は無職だ。けど――無職なりに、世界ごとピカピカにしてやる!」


広間に響いた俺の宣言に、再び大歓声が沸き起こった。

勇者パーティは青ざめた顔で俺を見上げ、王と王妃は涙を浮かべて合掌する。


だが天井の影は完全には消えていない。むしろ、奥で黒い芽のようなものが蠢いていた。

――忘却のスキルが、新たな段階へと進もうとしている。


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