祠の怪物! 無職、呪いの巣を掃除する
祠の奥から噴き出す黒煙は、やがて巨大な獣の形を成した。
牙は石柱のようにねじれ、目は赤く爛々と光り、背からは黒い羽が何枚も突き出している。
まるで「忘れられた怨嗟のゴミ」を寄せ集めて作られた怪物だった。
『……忘却に捨てられし声……ここに集い、形を得た……』
その声は低く、重く、祠全体を震わせる。
リオンが剣を構え、前に出る。
「今度は“掃き溜めの副産物”ってわけか……! だが、やるしかねぇ!」
セレーネはすぐに防御結界を展開し、俺とリオンを包み込む。
「ユウマ殿、ここまで来たら“浄化”だけでは足りません。
あなたのリサイクルの力で、この怪物そのものを処理しなければ!」
俺は鍬を握りしめ、苦笑した。
「ゴミを集めりゃ、ゴミ山ができる。……そりゃ掃除あるあるだな」
怪物が吠え、黒煙の翼を広げる。
周囲の地面からは腕のような影が伸び、街へ這い出そうとしていた。
「……よし。なら徹底的に掃除するしかねぇだろ」
俺は鍬を肩に担ぎ直し、怪物を睨み据えた。
「祠ごとまとめて――俺が片づけてやる!」
怪物が吠え、祠全体が爆ぜるように震えた。
黒煙の翼からは鋭い羽が飛び散り、石畳を削りながら降り注ぐ。
「くっ……防御を!」
セレーネが結界を張るが、羽の衝撃でひびが走る。
リオンが剣を振り払い、突進してきた黒腕を斬り払う。
「ユウマ! あいつ、普通に斬っても再生するぞ!」
「なら……リサイクルだ!」
俺は鍬を振り抜いた。
「――リサイクル・スイープ!」
黒と白の粒子が溢れ、怪物の一部を包み込む。
呪いの霧は鍬に吸い込まれ、刃の模様がより濃く刻まれていった。
「……おおっ、効いてる!」
リオンが歓声を上げたが――すぐに俺の顔色が変わった。
「……ぐっ……!」
腕の黒紋が一気に広がり、肩から胸へと走る。
まるで怪物を削るたびに、その残滓が俺に移ってくるようだった。
セレーネが息を呑む。
「やはり……処理すればするほど、呪いはユウマ殿の体を蝕む!」
俺は苦笑いしながら、鍬を肩に担いだ。
「リサイクルってのは便利だけど……結局、負担はこっちに来るんだよな」
怪物は傷ついた部分を再生させながら、さらに巨大化していく。
『……掃き溜めの器……無職の器よ……汝こそ我らの棲処……』
「……なるほどな。掃除人を“ゴミ箱”にしようって腹かよ」
俺は歯を食いしばり、踏み込んだ。
「だったら上等だ! ゴミ箱の本気、見せてやる!」
鍬が黒白の閃光を放ち、怪物と正面からぶつかり合った。
鍬を振り抜くたびに、怪物の体は削れ、呪いが吸い込まれていく。
だが同時に俺の腕の黒紋は胸を越え、首元へと迫っていた。
「……っ、はぁ……はぁ……!」
視界が揺れる。息が苦しい。
まるで肺まで黒い煙で満たされているようだった。
「ユウマ!」
リオンが俺を支え、怒鳴る。
「もう無理だ! これ以上吸ったら、お前が先に消える!」
セレーネも必死に呪文を唱え、光で黒紋を抑え込む。
「……時間を稼ぎます! リオン、あなたが前に!」
リオンが頷き、剣を振り上げた。
「上等だ! 俺が正面で押し留める。その間にセレーネが呪いを薄める!」
「おいおい……二人だけに任せられるかよ」
俺は鍬を握り直したが、手が震えて力が入らない。
リオンが俺の肩を叩き、真剣な目で言った。
「お前が全部抱え込む必要はねぇって、もう学んだろ?
今度は俺たちが前に立つ番だ」
セレーネも同じ眼差しで告げる。
「ユウマ殿……あなたは“仲間持ち無職”です。
だから、信じて預けてください」
俺は言葉を失った。
無職だから――雑用だから――全部引き受けるのが当たり前だと思っていた。
でも今、この二人は迷いなく俺の代わりに前に立とうとしている。
「……ったく。頼れる仲間持っちまうと、無職も楽じゃねぇな」
かすれた声でそう呟き、鍬を下ろした。
リオンが前に踏み出し、セレーネの光が彼を包む。
俺の代わりに――二人が怪物へと立ち向かった。
リオンが前に出て、剣を振り抜いた。
「おおおおおッ!!」
炎のような気迫を帯びた一閃が、怪物の翼を切り裂く。
だがすぐに黒煙が寄り集まり、再生しようとする。
「今です!」
セレーネの光が弾け、怪物の再生速度を鈍らせる。
「怨嗟の時間よ――遅れよ!」
怪物の巨体が軋み、動きが鈍った。
その隙を見逃さず、リオンが剣を突き立てる。
「ユウマ! 今だ、トドメはお前の掃除だ!」
「……ったく、結局俺の番かよ」
俺は鍬を握り直した。
腕の黒紋は痛む。視界は霞む。
だが、仲間の背中が俺を支えていた。
「……任せろ。俺が片づけないと、掃除は終わらねぇからな!」
鍬に黒白の光が集まる。
今までのリサイクルの力だけじゃない。
リオンの剣の誓い、セレーネの時間の加護――その全てが重なっていた。
「――雑用奥義!」
俺は声を張り上げた。
「“掃き溜めの理・リサイクル・フィナーレ”ッ!!」
鍬を振り下ろすと、怪物の全身が光に包まれた。
黒煙は悲鳴を上げながらもがき、やがて粒子となって砕け散る。
残ったのは静かな祠と、夜風に舞う白い光だけだった。
「……終わった、のか?」
リオンが肩で息をしながら振り返る。
セレーネが微笑んだ。
「ええ……呪いの巣は、完全に掃除されました」
俺は鍬を杖代わりにして立ち、息を吐いた。
「……大掃除は……みんなでやると楽だな」
夜空には星が瞬き、祠を照らしていた。




