呪い付き無職!? 英雄の代償と仲間の決意
王都の広場。
人々が安堵の声を上げる中で、俺はひとり膝をついていた。
リオンとセレーネが駆け寄り、俺の両脇を支える。
「ユウマ! お前、やっぱり様子がおかしいぞ!」
「……腕を見せてください」
袖をまくった瞬間、二人の息が止まった。
皮膚には黒い紋様が浮かび、じわじわと広がっている。まるで呪いそのものが血管を流れているようだった。
「……マジで、呪い付き無職になっちまったな」
俺は無理に笑おうとしたが、声が掠れていた。
リオンが拳を握りしめ、低く唸る。
「ふざけんな! お前がこんな犠牲を背負う必要はないだろ!」
セレーネは必死に治癒の術を施すが、光は黒に飲み込まれていく。
「……駄目です。私の魔法では抑えられない……」
俺は二人の手を軽く押しのけ、立ち上がった。
「心配すんな。無職の仕事ってのは、ゴミ箱みたいなもんだろ。
みんなが背負えないもんをまとめて引き受ける。それが、俺の役目だ」
リオンが叫ぶ。
「そんな役目、俺たちが一緒に背負えばいいだろ!」
セレーネも強く頷いた。
「そうです。ユウマ殿だけに押しつけません。
これは“仲間の戦い”です。あなたが崩れる前に、私たちが支えます!」
俺は一瞬、言葉を失った。
……忘却も、掃除も、リサイクルも。
結局は“俺ひとりで抱える”ものだと思っていた。
だが――この二人の目を見て、胸の奥に熱が灯った。
「……あぁ。そうだな。無職は無職でも――仲間持ちの無職、ってやつか」
リオンとセレーネの笑みが、広場の光よりも眩しく見えた。
「分担……か」
俺は腕に広がる黒紋を見下ろした。
じわじわと進行していくそれは、確かに俺ひとりでは抑えきれない気配を放っていた。
リオンが剣を地面に突き立て、真剣な表情で言う。
「俺の剣は“誓い”を媒介にできる。
仲間と血を交わし合えば、呪いも一部は俺に移せるはずだ!」
「……またお前は無茶を」
思わず苦笑する。
「剣士が呪い背負ってどうすんだ。剣振れなくなったら意味ねぇだろ」
リオンは鼻で笑った。
「剣が振れなくても、仲間が笑ってりゃ意味はある。
それに……お前の肩に全部乗っけて平気な顔してる方がよっぽど無茶だ」
セレーネも一歩前に出た。
「私も時の加護を扱えます。
“記憶”を分け合うように、“呪いの時間”を伸ばして希釈できるかもしれません」
「……希釈?」
リオンが首をかしげる。
セレーネは頷いた。
「毒も水で薄めれば飲めるように、呪いも時間を分散させれば致命にはならないはずです」
俺は思わず吹き出した。
「お前らな……俺よりよっぽど頭いいじゃねぇか」
けれど、胸の奥がじんわり熱くなる。
呪いを“共有する”なんて発想、俺にはなかった。
リオンがにやりと笑った。
「無職は無職らしく、全部引き受けりゃいいって顔すんな。
俺たちがいるんだから、三人で分担するんだ」
セレーネも真剣な眼差しで続ける。
「ええ。仲間だからこそ、痛みも重荷も、共に」
俺は二人を見渡し、鍬を強く握り直した。
「……よし。じゃあ試してみるか。“呪い分担の共同作業”ってやつを」
夜。
城下町の外れ、崩れかけた祠の前で俺たちは集まっていた。
月明かりが差し込み、黒紋が浮かぶ俺の腕を蒼白に照らしている。
「……ここなら結界の干渉も少ない。試すなら今です」
セレーネが静かに言った。
リオンは剣を抜き、刃先で自分の掌を切った。
「俺の血を媒介にする。ユウマ、お前も」
「……やれやれ。無職の俺が、こんな血の儀式やる羽目になるとはな」
俺も掌を切り、鍬の柄に血を垂らす。
セレーネはその上に手を添え、淡い光を灯した。
「時よ――分かたれし痛みを希釈せよ。三つの心で、一つの呪いを担う」
黒紋が脈動し、鍬を通じてリオンとセレーネへと広がっていく。
リオンの額に汗が滲み、セレーネの肩が震えた。
「ぐっ……こいつは重ぇな……!」
リオンが歯を食いしばる。
「……ですが、確かに薄まっています……!」
セレーネの声が震える。
俺の腕の黒紋は、先ほどより明らかに淡くなっていた。
三人で分担したことで、致命的な圧力が消えている。
「……すげぇ。マジで効いてるじゃねぇか」
俺は驚きと同時に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
リオンがにやりと笑い、俺の背中を拳で叩いた。
「どうだユウマ、もう“ひとりで背負う無職”なんて言えねぇな」
セレーネも柔らかな笑みを浮かべる。
「ええ。これからは“仲間持ち無職”です」
俺は笑いながら、鍬を掲げた。
「……いいな、その肩書き。ちょっとダサいけど、気に入ったぜ」
三人の笑い声が、月夜に静かに響いた。
「……ふぅ。なんとか形になったな」
俺は鍬を肩に担ぎ、夜空を見上げた。
黒紋はまだ残っているが、以前のように焼けつくような痛みは消えている。
リオンが大きく伸びをし、豪快に笑った。
「これで一件落着だな! 呪いだろうが、三人で分け合えば怖くねぇ!」
セレーネも安堵の息を漏らす。
「ええ……ひとまず、街の平穏は守られました」
俺は苦笑した。
「無職にしちゃ上出来だろ。……って、あれ?」
風が止んでいた。
祠の奥、ひび割れた石像の目が、ぼうっと赤く光っている。
「……なぁ、セレーネ。あれ、今まで光ってなかったよな?」
俺が指差すと、セレーネの顔から血の気が引いた。
「……まさか。呪いを“分散”したことで、別の場所に流れ込んだ……?」
次の瞬間、祠全体が低く唸りを上げ、地面が震え始めた。
石像がひとりでに砕け、黒い煙が噴き出す。
『……掃き溜め……集められた……怨嗟……我らの巣と化す……』
リオンが剣を抜き、歯を食いしばる。
「ちっ……今度は祠そのものが敵ってか!」
俺は鍬を構え直し、にやりと笑った。
「リサイクルも分担も、まだまだ使いこなせてねぇみたいだな。
……でも上等だ。掃除の仕事が減らねぇのは、もう慣れた」
月光に照らされ、黒煙が獣のような影を形作っていく。
夜は、まだ終わらなかった。




