第1話:聖剣の宿命と、すれ違う恋心
新連載です。
10話くらいでサラッと読めるので、よかったら最後までお付き合いくださいませ(^^)
聖剣には、鞘がない。
建国以来、そう語り継がれてきた。
神より授けられた聖剣は、常に抜き身のまま存在する。
ひとたび振るえば大地を裂き、空を焦がし、人の身では近づくことすら叶わない。
強大すぎる力。
ゆえに、その剣を直接扱う者はいない。
いや――扱えないのだ。
だからこそ、魔王が復活する時代には必ず現れる。
聖剣をその身に宿す乙女が。
人々は敬意と畏怖を込めて彼女たちを呼んだ。
――聖剣の乙女、と。
現代に選ばれた乙女は、公爵令嬢セレスティア・フェルノア。
そして聖剣の主は、第三王子アルフレッドだった。
かつて。
彼女が誰よりも愛した人。
そして今は。
誰よりも遠い人だった。
幼い頃の記憶は、どれも穏やかだ。
王宮の庭園。
色鮮やかな花々。
噴水の音。
『セレス、こっちだ!』
楽しそうに笑いながら駆けていく少年の背中を、夢中で追いかけた。
木登りが得意なアルフレッドは、いつも少しだけ先を走っていた。
セレスティアの母は王家の縁者であり、公爵家は頻繁に王宮へ招かれていた。
自然と顔を合わせる機会も増え、気付けば二人はいつも一緒にいた。
年頃になり、アルフレッドの婚約者候補として様々な礼儀作法を王宮で学ぶようにもなった。
けれど、その関係は学院時代に壊れた。
アルフレッドを慕う侯爵令嬢たちの画策。
捏造された噂。
裏切りを示す偽の手紙。
何も知らぬまま、アルフレッドは怒りを向けた。
『君には失望した』
『二度と私に近づくな』
『心まで醜い女だったとは思いたくなかった』
忘れられるはずがない。
あの日の声を。
冷え切った瞳を。
まるで見知らぬ他人を見るような視線を。
胸の奥に刺さった棘は、今も抜けないままだった。
セレスティアは否定した。
手紙は偽物だと。
そんなことをした覚えはないと。
けれどアルフレッドは聞いてくれなかった。
あれほど冷たい目で見られたのは、後にも先にもあの時だけだ。
これ以上、嫌われたくなかった。
だからセレスティアは弁解をやめた。
婚約者候補の座から静かに身を引き。
恋心ごと、胸の奥へ押し込めた。
――なのに。
なぜ今さら。
魔王復活と共に、聖剣が彼女を選んだ。
遠征前には聖剣降臨の儀が執り行われる。
乙女であるセレスティアが聖剣をその身に宿し、アルフレッドへ力を手渡す神聖な儀式だ。
皮肉だった。
遠ざけようとした相手と、誰よりも深く繋がる役目を与えられたのだから。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
儀式を行うたびに、彼女の身体は少しずつ削られていった。
最初は軽い倦怠感だった。
いつもより長く眠る日が増えた程度。
だから誰も気にしなかった。
けれど。
遠征を重ねるたびに異変は大きくなっていく。
朝、目を覚ましても身体が動かない。
起き上がるだけで息が切れる。
食事も思うように喉を通らない。
お気に入りだったドレスは、いつの間にか少し緩くなっていた。
鏡に映る自分は日に日に痩せ細り、頬の血色も失われていく。
当然、家族は異変に気付いた。
「また痩せたのではなくて?」
朝食の席で母が眉を寄せる。
「顔色も悪いわ、お姉様」
妹のエミリアも心配そうに見つめてくる。
父もまた、聖剣の儀の後に決まって体調を崩す娘へ疑念を抱いていた。
――聖剣が原因ではないのか。
セレスティア自身もそう思っていた。
けれど。
それをアルフレッドへ伝えるつもりはなかった。
魔王討伐は、この国の命運を懸けた戦いだ。
命を懸けて前線へ立つ彼に、余計な憂いを与えたくない。
もし知れば、きっと彼は迷う。
たとえ嫌われていたとしても。
アルフレッドは、そういう人だから。
だから知らなくていい。
嫌われたままで構わない。
ただ。
無事に帰ってきてほしかった。
それだけは、今も変わらなかった。
明日も18時更新です!
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