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狐の皇子  作者: 葉月秋子


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 帰り道、アルフは悔し紛れに乗馬鞭で茂みを薙ぎ払った。

 馬場から館へ続くよく手入れされた小道の、咲きほころびたばかりの白い薔薇、マリンカが可憐な花びらをむなしく散らせていく。


 わき腹と尻の痛みがひどくなっていた。

 守り役の武骨な騎士ローワンが、大きな体で心配そうに後に続く。


 落馬はしたけれど、『落ちたまま止めてしまっては、馬になめられます』という教師の言葉通り、ちゃんと乗りなおして乗馬の授業を終えたのだ。


 今日も、兄に負けた。

 それも馬術の腕を競って負けたのではなく、馬の扱いが悪いと、馬番の小僧のように叱られて。


 何より悔しいのは、馬上の兄が、勝ち誇った笑みではなく心配そうな目で見降ろしていた事だった。

 本気で案じているのは、柔らかな子供らしい銀の耳が前に傾げられているので、よくわかる。


 笑われたのなら、次に勝てばいい。

 憐れまれるのは、我慢がならない。


 言葉を交わさずに済むように、アルフは馬番の小僧に手綱を投げ渡すと、走るように馬場を後にしたのだった。



「あっ!」


 小さな声に、アルフは立ち止った。

 茂みの影で見えなかった少女にぶつかりかけたのだ。


「ご、ご無礼をいたしました・・・」


 少女は慌ててアルフにむけて身を屈める。

 その質素なエプロンから、花鋏と摘んだばかりのマリンカの花がこぼれ落ちる。


『あ・・・』

 アルフは振り返った。

 歩いてきた道に無残に散らばる、白い花びら。

(しまった、この子が手入れしていたのか・・・)


 きまり悪くなって、鞭を持った手を後ろに回した。


 細い首と鎖骨の目立つ、雀斑を散らした同い年くらいのこの少女を、馬場の近くで何度か見たと思い出す。


「きみは?」


少女は慌てたようにつっかえながら答えた。

「ネっ、ネネです。いえ、ネネでございますっ。

 馬番のリーフの姪で、来月から南宮に小間使いとしてはいる事になっていますっ」

 答えながら、その頬が真っ赤に染まっていく。


「ああ」


 母の小間使いになるのか。


 


 


 

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