表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の皇子  作者: 葉月秋子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

2-8

2-8


 ここしばらく、母のところで、医師フー・ルーによく会う。


 よれよれの耳をしたこの薬臭い老人が、アルフは大嫌いだった。

 幼い頃、苦い薬を飲まされた、嫌な思い出と結びついているからだ。

 嫌がるアルフの鼻をつまむという無礼な方法で、何度も薬を飲まされたのだ。こいつには。


 プライドの高いアルフにとって、この医師は『力づくで弱いものをねじ伏せる嫌な奴』の代表格であった。

 会っても顔を背け、口もきかない。


 なぜこんなに、始終母のところにいるのだろう。


「どこかお加減がお悪いのですか、母上」


「ほほ、女子(おなご)には、男子にはわからぬ相談事が、いろいろあるのじゃ。

 心配はいらぬ。あれは腕の良い医師ぞ」


 鳥籠の数が減った居間には、今度は大きな玻璃(ガラス)の水槽がいくつも並び、綺麗な魚がひらひらと長い鰭を動かして泳ぎ回っていた。


 アルフは鼻をくっつけて、玉石と水草と色鮮やかな陶器で出来た、水中の小宮殿に見入った。

 キラキラ光る小さな魚たちが、細部まで繊細に作られた小さな宮殿の窓から出入り、瓦を重ねた屋根の周りを泳ぎ回っている。


「きれいですね、母上」


「美しかろう?

 ・・・だが、これも脆いものじゃ」


 小卓の上を指さす。


 薄緑の磁器の皿に、魚が一匹。


 いつからのせられていたものか、銀の鱗の魚は苦し気にぱくぱくと口を開け、長く透明な紅の鰭や尾はもう乾き始めて体に張り付いている。


「母上!水から出したら死んでしまう!」


 駆け寄ろうとしたアルフを、母はぎゅっと抱きしめた。


「優しい子、優しい子じゃ。

 だが、優しいだけではならぬ。

 その体には尊い帝の血と、誇り高い南家の血が流れている。

 負ける事は許されぬ。

 勝つのじゃ。全てを打ち負かし、勝ち残るのじゃ・・・」


 母の声は次第に低く、つぶやくように。


「これではだめじゃ・・・だめじゃ・・・

 早く結果を出さねば・・・

 憎い・・・憎い・・・憎い・・・」



 皿の上の魚は、もう動かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ