89 祭の日‐アルカ
さて、そろそろお昼となる。
午後から開催される、この祭りのメインイベント、専属狩人決定戦はもうすぐだ。
「本格的に動く前に、腹ごしらえをしておきたいところだな…」
早朝にカーリと軽く食事をしたが、それからエフテル、コウチと時間を過ごして、それなりに腹は空いている。
あの3人と過ごしたのであれば、せっかくなら最後の1人とも時間を過ごしておきたい。
「とはいえ、目立ちたがらないからな…」
時間も有限な中、どうやって探そうか。
「誰か探してるの?」
「アルカを探してたんだが、逆にお前はどうやって俺を見つけたんだ?」
「師匠は目立つよ。なんというか、雰囲気が独特だから」
「そ、そうか」
まさか飲食店が多く並ぶスペースに来るだけで、お目当てのアルカに会えるとは思わなかった。
「それで、師匠はどうして私を探してたの?」
「アルカと一緒に過ごしたかったからかな」
「わあ、嬉しい」
アルカが無表情で腰のあたりにギューッと抱き着いてくる。無表情だが、素直に喜んでいるのが伝わる。
「アルカはお昼ご飯は食べたのか?」
「ん、朝から色々、ずっと食べてたよ。でもまだ食べられるから、師匠も一緒に食べよ」
「おう、そうだな」
図らずとも、俺の望む展開になったわけだ。
「何か食べたいものはあるか?」
「ん-、この辺の露店は制覇したから、今は2週目なんだ。だから師匠が食べたいものを食べよ」
「俺が食べたいものか…」
実はこの俺、食べ物の好き嫌いがほぼない。それは嫌いなものがないということに加えて、特段好きなものもないということだ。だいたいなんでも美味しくいただくことができる。
「アルカは、この辺の露店の料理は全部食べたんだろ?」
「うん、食べたよ」
「じゃあ、アルカが一番おいしいと思ったお店に案内してくれ」
「うん、分かった」
とことこと歩くアルカの後ろをついていく。やがてたどり着いたのは、焼いた肉を提供している店だった。
というか、ほぼほぼ肉屋ばかりである。
ヒシガツマ村は、砂漠ゆえ、肉や魚以外の食品はほとんどがアオマキ村からの輸入品である。なので、この村で採れる食材といえば、肉や魚なのだろう。一部サボテンのような例外はあるにしても。
「このお店のどこが特に気に入ったんだ?」
「ここ、色んな種類の肉が置いてある。特に、球吐き鳥の肉とか、七色剣山の肉とか、あとは…びかいろう…?どくうちわらし…?とにかく色んな肉があった」
「七色剣山!?尾塊狼!?毒打ち童!?」
どれも危険度4以上、毒打ち童に関しては危険度5だ。
どの肉も食べたことがないので、興味があるが、どちらかと言うと、どうやってその肉を手に入れているかの方が気になる。基本的に食用とされていない獣の肉は市場には出回らない。
とにかく、注文してからだな。
「すみません、この、き…危険度4セットを2つお願いしまーす」
「あいよ!」
読んでいる最中に、料理名のあまりの直球さに驚いた。
危険度4セットって。
肉を焼いてくれている間に、店主に訊ねる。
「危険度の高い獣の肉ってあまり出回らないじゃないですか。どうやって仕入れているんですか?」
「お、気になるかい?簡単には教えられねえなあ。もっと買ってくれたら…」
「…分かりました。もう2セットください」
「まいど!」
危険度4セット、3本の串焼きで1500クレジットなので結構な値段だ。まあ、元の獣の危険度から考えたら妥当なのかもしれないが。
「で、どうやって仕入れているんですか?」
「俺が狩ったんだよ!こう見えても、2級の狩人でね!」
肉を焼きながら、店主が答えた。
「狩人が本業…?」
アルカが呟く。
「専属狩人をロンタウに取られちまってからは、料理人が本業かもなあ。この祭りに備えて、一狩りしてきたってわけよ」
「もしかして、ヒシガツマ村になる前の、どこかの集落で専属狩人だったんですか?」
「おうよ。でもま、どの狩人もロンタウには叶わねえ。あいつは1級になれる狩人だよ」
ふむ、おかしいな。
「別に専属狩人が1人である必要はないでしょう?皆さんも狩人を続ければよかったのに」
「いやあ。俺らじゃギリギリ危険度5を狩れるくらいでな。はっきり言って、ロンタウの足手まといなんだ。意識の差もある。だから、身を引いたのさ」
「むーん…」
いまいち納得できないような、できるような。
狩人は基本的には高給取りなので、やめたがる人はあんまりいないんだけどな。まあ逆に、命がけでもあるから、やる気がないならやめた方がいいに越したことはないが。
「ははっ、納得できねえ顔してるな。俺たちはロンタウに道を譲った。だから出しゃばらねえ。そんだけの話よ」
プライド…矜持…そういった類の話だろうか。いまいち余所者の俺達には分からない話だ。きっと、このヒシガツマ村になるまでの間に、色々なことがあったのだろう。それは、当事者にしか分からないことだ。余所者が興味本位で首を突っ込んでいい話ではないのかもしれない。
「あいよ、おまたせ!」
焼きあがった肉が、俺達に手渡される。すかさずアルカが受け取った。
「師匠、あそこで食べよ」
店のすぐ前に椅子とテーブルが置いてあったので、そこで食べることに。
どの肉も、なかなかうまい。食用とされている生き物の肉よりもうまいかもしれない。
「アルカはよく食べるなあ」
「ん、お腹いっぱい食べられることのありがたみを知ったからかな」
ふ、深いことを言っている。
「でもエフテルはあんま食べないよな」
「お姉ちゃんは食費を削って遊びに使うタイプの人間だから」
「あーーーー」
実際そうだった。アイツ、今日なにか食べているのだろうか。景品でもらった何かを食べているんだろうか。
「沢山食べる子は嫌い?」
「いや、いいんじゃないか?食べればよく育つよ」
どこがとは言わないが、実際に遺伝子が近いはずの姉と大差を付けている部分がある。
「…師匠もやっぱ好きなんだ」
「な、なにが?」
「胸」
「い、いやぁ~、そんなことないけどなあ…」
「これ、目立つし重いし、見られるし。良いことない。でも、師匠が好きなら、報われる」
「好きだよ」
俺は弟子のメンタルケアを怠らない男だ。
「…触ってみる?」
アルカが、食べていた串を皿に置いて、胸を張る。
なんという威力。見ているだけで吹き飛びそうだ。
「や、やめておこうかな。俺は師匠、アルカは弟子だからな」
一線を越えてしまうわけにはいかない。
「師匠のそういうところ、私嫌いだよ」
アルカは不貞腐れたように、食事に戻ってしまった。
これでいい、これでよかったんだ。
「そういえば、2人の借金もだいぶ減ってきたよな」
話題を変えようとしたら、これしか思いつかなかった。
「はじめは150万ずつだったのが、増えたり減ったりして、残りは数十万…なんなら今の手持ちで返せそうじゃないか?」
「………」
アルカは、黙って、食べる手も止めてしまった。
何かまずいことを言ったか…?
しばらく気まずい空気が流れて、やっとアルカが口を開いてくれた。
「…今は、まだ無理。ごめんなさい」
「ああいや!いいんだ!返済に期限を設けているわけではないし、なんなら俺は返してもらわなくてもいい…」
「だめッ!それは…だめ。必ず返す、返すから、私たちの傍にいてください…」
「お、おう。分かった…」
急に大声を出すものだから、俺も周囲の人間もびっくりしてこちらを見る。しかし、今日は祭りだ。大抵の人はすぐに興味をなくして通り過ぎていく。
気まずさを抱えているのは俺と、アルカだけだ。
「…お肉、おいしいね」
「そうだな、びっくりしたよ」
「また、一緒に食事しようね」
「おう、そうだな」
これからも、いくらでもこんな機会はあるだろう。
「この幸せがずっと続くように…」
アルカが呟く。
「そうだな。これからも、怪我とかしないように気を付けながら、頑張っていこうな」
「…うん」
こうしてアルカとの時間は静かに、楽しく過ぎていった。
すみません、完全にストックが切れました。
キリが良いので、ここで一旦おやすみし、またある程度書き溜めたら投稿を再開します。
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追記
11月6日から更新再開します




