88 祭の日‐コウチ
飲食店、遊興店と見て回ったので、俺は特産品を売っているような店を見に来ていた。
露店でヒシガツマ村の特産品である綺麗な石を加工したアクセサリーが沢山売られている。
「指輪、ネックレス、色々あるんだなあ…」
レイあたりに買って帰ってやろうか。いや、レイがもらっても喜ばないか。
でも村の女性陣で知り合いと言えば、あとはハカくらいしか思い浮かばないのだが。
「ん?いらネ。鍛冶の邪魔ダロ」
脳内のハカが拒否してきたので、やはりレイに何か買っていってやろう。
「あれ、お師匠さん。こんなところで意外だな」
聞き慣れた声に呼ばれ、振り返るとそこにはコウチがいた。
「おおコウチ。って、大荷物だな」
見ればコウチは両手に大きな袋を抱えて、重そうにしている。
「ああ、どうしても、もうヒシガツマ村に来ることがないんだと思うと、お土産を買ってしまって。故郷の皆にも渡したいし」
ちらっと見せてくれた袋の中身は、保存が効くように箱詰めされた食料や、人形や、何かのオブジェのような工芸品がギッシリだ。
「お前何人家族?」
「いや流石に全部家族用ではねえよ!隣の家とか、仲が良い友達にとか…」
「あと彼女にとか?」
「そう、彼女にとか…って、お師匠さん、なんだそのにやけ面は!」
「いや?幸せそうでいいなあって」
恋人がいると強くなれるんだとか言っている狩人も見たことがある。まあ、結局は守るべきものがあると覚悟が違うってだけで、それが彼女である必要はないと思うが。
「せっかく男2人だ、恋の話をしないか…?」
「お師匠さん、ちょっとキモイな」
「しょうがないじゃなか!こちとら狩人一筋で数十年!彼女なんてできたことがねえ!」
良い感じになった女の子もいたが、なぜか去っていく。
そのことを聞いたコウチは、
「それ、レイさんのせいだろ」
と言った。
「え?なんでレイ?」
予想外すぎる名前を聞いて、聞き返す。
「だって、あの人、お師匠さんのこと大好きだろ。女なんかには渡さんって普通に思ってそう」
「いやいや、流石にそんなことは………え、まじ?」
脳内に過去の記憶がよみがえる。
依頼で守った村の女の子と良い感じになって、2人きりで食事に行くことになった。が、なぜか食事処にはレイもいて、3人で食事をした。
ラブレターをもらったこともあった。レイにいたずらだと説得され、結局待ち合わせ場所にはいかなかった。
「あの野郎ッ!」
俺の春をことごとく滅しやがって!お前のせいで俺は常時夏だったのか!
「まあ、悪い人ではないんだけど、人相と態度が悪くてほんのちょっとお師匠さんに対して執着が強いだけだから…」
それって悪い人じゃないか?我が元相棒ながら、なかなかヤバいヤツなんじゃないか?
俺が悩んでいると、コウチがさらにフォローしてくれる。
「それにほら、女絡みで崩壊するチームも多いっていうだろ?もしお師匠さんが彼女作ってたら、特級狩人にはなれてなかったかもしれないぜ」
「それも…そうか」
確かに、がむしゃらにここまでやってきたからこそ、今があるんだ。そう考えよう。
「でもこれからは春を求めてもいいんだよな」
「いやあ、それもちょっと…俺は遠慮していただきたいが…」
「どうして!」
困ったように首を捻るコウチに詰め寄る。
「だって、どう見てもエフテルさんたちとか、お嬢とか、お師匠さんにメロメロじゃないか。こんな状況で彼女なんか作ってみろよ。殺されるぞ」
俺が?俺の相手が?
どっちもあり得るな…。
「しかしコウチ、勘違いしているぞ。うちの女性陣に好かれている自覚は確かにあるが、あれは敬愛だ。恋愛ではない」
なんならアルカに関しては敬愛というより親子愛的なものだと思っている。
「はぁ…、いつか刺されても知らねっすからね…」
コウチは深々とため息をついた。
「ただまあ、指導役をしていると、出会いがないのは事実なんだ」
「まだ続けるんすかこの話…」
おう、まだ続けるぞ。こんな機会、見逃してたまるか。
「基本はアオマキ村に常駐することになるが、アオマキ村の女性ってギルドから派遣されてる受付嬢と…くらいだろ」
一瞬ハカが脳裏によぎったが、あれは恋愛対象には成り得ない。
「あれ、ロンタウ姉さんは?」
「ロンタウって、俺のこと好きなのか?」
「いや別にそんなことねえと思うけど。でもまあ、今後に期待っていうのはあるんじゃないのか?」
ロンタウ、ロンタウか…。
確かに美人で、スタイルも良い。同じ職業なので、話も合う。
「ただ、実はロンタウってかなり年上なんだよな」
「え?」
「36歳だってさ」
「えええええ!?」
「だよな、驚くよな。俺も初めて聞いたときには驚いた」
歳の差が大きな障害になるわけではないが、流石に10歳くらいの差は…尻込みしてしまう。
「まあそれに、ロンタウは今からが勝負だからな。1級に上がって、彼女は特級までも目指してる。それこそさっきのコウチの話じゃないが、そんなロンタウを恋愛なんかで邪魔したくない」
「ふぅん…お師匠さんってあれだな、基本なんだかんだ理由をつけて受け身でいるタイプだな」
「なに!?」
「ま、そこが魅力の一つなんじゃないのか?俺には分かんねえけど」
コウチは地面に置いていた荷物を再び持ち上げる。
話は終わりだといわんばかりに。
「おい待てよ。話はまだこれからだぞ」
「…今度はなんだよ」
呆れつつも、荷物を降ろしてくれた。
「お前の彼女の話を聞かせろ」
「じゃ!」
「逃がさん!」
そんなに重たい荷物を持って、俺から逃げ切れると思ったか。
「プライバシーの侵害だ!師匠だからって聞いて良いことと悪いことがある!」
「別に師匠として聞いているわけじゃない!仲が良い、男友達として聞いているんだよ…?」
「くっ、なんだよ!“双極”ってのは面倒くせえ男のコンビかよ!」
暴れるコウチを取り押さえて、ひと段落。
「で?まず名前を教えてくれるかな?」
「コウチです…」
「お前のじゃねえよ!彼女ささんのだよ!」
「お師匠さん、俺泣きそうだよ…」
「大丈夫、誰にも言わないし、このあとなんか買ってやるからさ」
「うぅ…リイアだ…」
「リイアちゃん。良い名前じゃないか。それで?出会いは?」
「元々家が隣で、幼馴染でな…小さな村で、同年代の男女もあんまいなかったし、自然と…」
「さっき、隣の家にもお土産を買っていくって言ってたな…そうか、あれは彼女さんの家だったのか!」
「ひぃいん…」
いかんいかん、あんまりいじめるとコウチが泣いてしまう。もう泣いている気がするが。
「リイアさんは、お前が狩人をやっていることは知っているのか?」
「ああ、知ってるよ。将来的には、親父の後を継いで、専属狩人になることも知ってる」
「そうかそうか。じゃあ、もっとお前が村に帰れるように配慮した方がいいか?」
「え?なんで?」
「狩人なんて、いつ死んでもおかしくない仕事だろ?」
「それは…そうだな」
コウチも、思い知ったはずだ。ほんの少し、歯車がズレただけで簡単に命を落としてしまう職業であるということを。
「だから、会えるうちに、会えるようにしたほうがいいのかなって思ってさ。別に茶化したかったわけではなかったんだ」
本当は3割くらい興味本位だったが、残りの7割は今言ったとおりの配慮からだ。
しかし、コウチは首を横に振った。
「お師匠さん、その気持ちは嬉しいが、そういう配慮は不要だよ。俺は、この“四極”でお師匠さんたちと一緒に強くなる。そして、お師匠さんのかたき討ちをして、後腐れなく故郷に戻って、結婚する。そのために、今は全力で狩りをしたいんだ」
「コウチ…」
「だからこれからも、指導よろしくな、お師匠さん!」
コウチはニコッと笑って、席を立つ。
相変わらず重そうな荷物を持って、そのまま去っていった。
人間は、死ねば悲しむ人間が必ずいる。
それは家族だけではなく、親しい人間も。親しければ親しいほど、その心に刻む傷は大きくなる。
だからコウチは強くなるというのだ。俺達のために、そしてその彼女のためにも。
「うん、頑張ろうな」
ところで俺は、うまくコウチにまるめ込まれて、ここに置いて行かれた気がする。
まあ、良い話が聞けた。今日はこの辺で勘弁しておいてやろう。
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