87 祭の日‐エフテル
「ずっとお師匠様を独占していたい気持ちはございますけど、流石に申し訳ありませんので」
そう言って、一緒に朝食を済ませた後、カリシィルは去っていった。
まあ、カーリも1人で祭りを楽しみたいだろう。
俺も、少し1人でぶらついてみようかな。
出店には先ほどまでお世話になった飲食物を販売しているもののほかにも、遊びを提供しているお店もある。
輪を投げて棒に引っ掛けると景品がもらえるものや、全力で鉄の玉を槌で殴り、どこまで飛ぶか競うものなど、色々ある。
まあ正直、狩人なら大体一定水準はこなせるようなものなので、一般人向けのこの出店を制覇するような大人げない真似はしない。
そんな出店の中で、人だかりを作っている出店があった。かなりの歓声があがっており、盛り上がっている。
「ちょっと様子を見にいってみようかな」
人混みを掻き分け、様子を見にいくと、その店は、木の的を狙って、鉄の針を決められた位置から投げて、当てた場所によって得点が加算され、景品がもらえるようだ。
「うわ、すごいな」
歓声が上がるのも納得だ。
今挑戦している人は、かなりの腕前のようで、的の中心にすべての針が刺さっている。かなりの距離があるのに、この命中精度。狩人の素質があるな。
どんな人がやっているのか、一目見ようと、ジャンプしてみた。
「…最低だ」
俺はその場を後にした。
「ちょっとちょっと!!どこいくのさ師匠!!」
ジャンプした時に目が合った、エフテルがこちらにやってきた。人混みは、主役を避けるように割れている。
「お前なあ。狩人が…ってか、特に針使いのお前がこういう催しに参加しちゃダメだろ。素人の大会にプロが参加するようなもんだぞ」
「だって、店主がやれるもんならやってみろって言ったんだよ」
確かに一般人向けにしてはかなり難しい距離、小さい的。意地悪な店ではある。
「だからって、お前…」
狩人になる前から卓越した投擲技術を持つエフテルにやらせたら、まあこうなる。小さな的の中心、高得点の部分は当然小さいのだが、角度を変えて全部の針が中心に突き刺さっているのは感嘆を越えて恐怖だ。
「で、おじさん。全部当てたら金一封だっけ?」
悔しそうな出店の店主に、得意げに眉を上げたエフテルが詰め寄る。
そんな呼び込みをしていたのであれば、店主が悪いな。金がらみのことでコイツが来ないわけがない。
「い、いいい、インチキだ!」
あ、店主がキレた。
「んー?インチキってなにさ、どうやってインチキするのぉ?」
「うぐぐ…」
まあ、木の的に、針を投げるだけの種目に、インチキもなにもないわな。
「えへへ、臨時収入ー!」
ちゃりんちゃりんと音が鳴る袋を店主からもらったエフテルは、ご機嫌に道を歩く。
なんとなく、そこで別れるのもなと思い、エフテルについていっていた。
「金一封って、いくらだろー?」
ちょっと休憩できるスペースに2人で腰掛け、エフテルが巾着袋を開けた。
「ふんふんふ~ん…、いちにの…って、少なッ!」
「どれ」
隣から覗き込んでみると、なんとあんなにちゃりんちゃりんと音が鳴っていたのは全て1クレジット硬貨だったようだ。全て足しても、100クレジットにも満たない。
「騙された!いや、騙されてはないのかな?うーん、まあ、お金もらえたからいっか!」
普通の人なら怒るところだが、エフテルは違う。ほんの僅かな金額だろうが、お金をもらえば大層喜ぶ。
「師匠は、もう出店で遊んだの?」
「いや、軽く飲食したくらいだな」
「勿体ない!こんなに楽しいお店が沢山あるのに!」
「そうなのか」
エフテルは飲食よりも、遊びのほうに夢中になっていたようだな。
「んじゃ師匠、一緒に遊ぼう!まだまだ師匠からもらったお金はあるし!」
「よし、じゃあ、ご一緒させてもらおうかな」
休憩スペースを2人で出て、先ほどの遊べる出店のコーナーに戻ってきた。
「見てこれ!鉄砲蛙の幼体釣りだって!面白そう!」
「飼う余裕ないだろ…って、鉄砲蛙はマズイだろ!通報しろ!!」
鉄砲蛙は、ストーンベリーの収穫依頼のときに対峙した獣だ。危険度2で、大人の骨を容易に粉々にする威力の水鉄砲を放つ。当然、一般人が飼える獣ではない。
ちょっとした騒ぎになり、店主はギルド職員に連れていかれた。
まったく、油断ならん。
「あはは!面白かったねぇ!」
「面白かったか…?」
俺としては、心配の方が勝つ。既に購入してしまった人の分は、ギルドが回収してまわるそうだが…。
「ま、それはそうと、師匠と遊べる何かを探さないとねー…」
キョロキョロと辺りを見回しながら、エフテルと歩く。
どうやら、2人で参加できるような出店を探しているらしい。複数人前提の店なんかなかなかないと思うが。
「あった!」
「おお、なんだ?」
店を見てみると、よくわからないが、人間が2人、何かに挑戦しているような絵が描かれた看板が上がっていた。
「まったくどんな店か分からないんだが…」
「入ってみよ!」
露店ではなく、しっかりとした店なので、普段から営業している施設なのだろう。
扉をくぐると、とても長い廊下のような空間が広がっていた。
「ようこそ!穴抜け屋へ!」
店主が挨拶してくるが、店名を聞いても全くピンとこない。
「ここはどんなお店なの?」
エフテルが訊ねる。
「2人1組で、穴抜けに挑戦してもらうお店ですよ。特に男女だと盛り上がります!」
「やる!」
俺が詳しく聞こうとする前に、エフテルはお金を払ってしまった。
まあ、たまにはやったことないことに挑戦するのも必要か。
「ルールは簡単!」
この細長い廊下の奥から、様々なポーズの人型に切り抜かれた木の板が迫ってくるので、それを潜り抜けろとのこと。木の板が割れてしまったり、木の板に弾かれて脇に落ちてしまったらチャレンジ失敗らしい。
これは良いのだろうか。なんだかとても権利的に危ないお店な気がするが、気のせいだろうか。
「じゃあ、スタート!」
俺とエフテルはスタート位置に着く。足元の、色が付いているところから出てはいけないらしい。
「最初は簡単だな」
「ルール説明も兼ねてるんだろうね」
迫ってくる木の板には、2人の人間が直立したような穴が開いている。
ただ突っ立っているだけでクリアだ。
木の板は、ただたっているふだけの俺達をすり抜けていった。
これ、左右で木の板を持って従業員が走ってるのか。なんと大変な…。
「次、いきなり難しいじゃん!」
俺が店の仕組みに感心している間に、次の木の板が迫ってきたようだ。
形は、1人分の直立と、その上に大の字の穴が空いている。
「担ぎ上げろってか!?」
「師匠、あたしを持ち上げて!」
「いや片腕じゃ無理だろ!」
「股のとこに手をかけていいから!」
「ダメに決まってんだろ!?」
言い合いをしているうちに、木の板はどんどん迫ってきている。
俺がエフテルの股間を持ち上げる?いやいや、普通に無しだろそれは!
「ほら師匠、じゃあ、これならいいでしょ!」
エフテルが上着を脱いで、股のところに重ねた。
いやそれでも…!
「くそ!」
俺はエフテルの股に手をかけ、片腕で持ち上げる。
俺の手に持ち上げられたエフテルは、空中で両手両足を穴に合わせて広げた。
木の板は無事にすり抜けた。
「ふう…なんとかなったね」
「もうお前お嫁にいけねえよ」
恥じらいを持て恥じらいを。
「残念ながら師匠以外にはこんなことさせませーん。女の子の大事なところですよ?服を何重に重ねようが、コウチくんにすら触らせないよ」
「…お前!」
一瞬ドキッとしてしまった。
って、次の板が迫ってくる。
次の板は、2人の人間が抱き合ってキスをしているようなシルエットに切り抜かれている。
「これ以上やってられるかー!!!」
俺は木の板に飛び蹴りをして砕いてやった。
§
「ったく、男女でなら盛り上がるって、こういうことか…。下品な店だった」
俺はエフテルと店を出ながら、ため息をついた。
「そうかなあ。好きな人となら盛り上がれるんじゃない?告白の勇気がない両想いの2人とかでくれば、カップル成立しそうだよ?」
「こんなんでいいんかい」
とにかく疲れた。
「楽しかったねー!」
でもまあ、エフテルは喜んでいるし、いいか。
「次はどこ行く!?」
にっこにこのエフテルが振り向く。
「俺は疲れた。休憩させてくれ」
精神的に疲れた。
「ん、そっか。んじゃあそろそろ師匠を解放しないとね。独り占めは良くない」
お嬢様もそうしたみたいだし。という小声も聞こえた。
「じゃ、あたしは午後まで適当に遊んでるから。師匠も、少し休んだら祭りを楽しんでね!」
「おうよ」
エフテルは手を振りながら、人混みに消えていく。本当に元気なやつだ。
「さて、次はどうするかな…」
俺はベンチに腰掛けつつ、空を見上げた。
面白いと思っていただけた方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします
作者のモチベーションにつながり、更新の力になります
ぜひよろしくお願いします!
あと、評価じゃなくて感想でも喜びまくります!




