↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/346

86 祭の日‐カーリ

「お師匠様は、お肉と、お魚、どちらがお好きですか?」

「あーどっちでも…?」


弟子たちが全員ロンタウの家から出て行ったことを確認して、俺が最後に出たはずだったが、カーリに待ち伏せされていた。


「お師匠様はお忙しい方ので。最初にお時間をいただくのが一番スマートかと思いまして」


とのこと。


「それに、あの姉妹は案外単純ですから、純粋に祭りを楽しむでしょうし」


とのこと。

つまり、待ち伏せなんて思いつくのは私だけだということだろうか。まあ別に、カーリも可愛い弟子の1人だし、良いのだが。


「まず、朝食を食べますか?あまり重くないものが良いですわよね。ああ、良いのです、お師匠様はここで待っていてくださいませ」


さささっとお上品かつ素早い歩法で人混みをかき分け、出店で何かを買ってきた。


「ありがとう」

「どういたしまして、ですわ」


カーリから手渡されたのは、何やら白い玉。


「これは?」

「この砂漠で採れる、ボンチクの皮を剥いたものだそうですわ」

「ああ、あのサボテンか。へえ、食べられるのか」

「流石お師匠様。わたくし、食材の名前を聞いても分かりませんでしたのに」

「色んな採取依頼も受けてきたし、ものによっては狩りに役に立つ木の実なんかもある。暑さを忘れられる、クグリンの実なんかがそうだろ?」

「素晴らしいですわ」


…カーリと2人きりでいると、なんだか落ち着かない。

いつもよりお淑やかだし、こちらを立ててくるし、本当にお嬢様を相手にしているようだ。これがエフテルと一緒にいたりするとまた変わってくるんだが。


「そういえば、カーリの分はないのか?」

「わたくしは、その…お師匠様から少し、分けてもらおうかと…はしたないでしょうか…?」


上目遣いで、袖を掴んでおねだりしてくるカーリは、普段の姿とのギャップでとても魅力的だ。

この子が、叫びながら、ゲロを吐きながら七色剣山を両断したのかと思うと、なんだか興奮してきたな。


「それと、お師匠様…。今は、2人きり、ですわよ?」

「ん…?ああ!ごめんごめん。2人きりのときは本名で、だったな」

「もう、わざと焦らしていらっしゃるのかと思いましたわ」

「悪かったって、カリシィル」

「はぁん…」


って、なんかまるで恋人みたいなやりとりになってるな。いかんいかん、俺は師匠だぞ。


「ほら、先に食べてくれ。カリシィルのお金で買ってくれたものだろ?」


俺はカリシィルが買ってきてくれたボンチクを差し出す。


「では、口まで運んでくださいますか?あーーん…」

「ほい」


変に意識するから恋人みたいになるんだ。いつもどおり、普通にしてればいい。

シャクっとした音とともに、カリシィルがボンチクの実を一齧り。


「あら、さっぱりとした甘みが口に広がりますわ」

「そうなのか、どれ」


俺も一口食べてみる。

なるほど、淡泊な味の果実といったような感じだ。

朝ごはんには丁度いいかもしれない。


「ふふ、間接キス、ですわね」

「言うと思ったよ。俺は…というか、狩人はいちいちそんなこと気にしないからな」


狩場では道具や飲食物を回して使うのは当たり前だし、なんなら人口呼吸なども起こり得る。


「にしてもカリシィルはこういう食べ物に抵抗ないよな。こう、高貴な人は高級なものしか口にしないと思っていたよ」


家もボロ屋に住んでいたし、普段の生活とのギャップで辛くなったりしないのだろうか。


「そういう甘えは、狩人になると決めたときに捨てましたわ。それに、養成所での実地訓練は地獄でしたし…長期滞在訓練、お師匠様のころもありましたか?」

「ああ、あったあった!あれが一番キツイ訓練かもしれないな!」


武器もなし、ナイフ1本で狩場に10日間放り出される訓練だ。危険度が高い獣が出没しない、ギルドが管理している土地での訓練なので、教官も目を光らせているし、死者はでないが、トラウマにはなる。それこそ泥水を啜り、虫を食す生活を送ることになる。生半可な覚悟ではついていけない訓練だ。

とはいえ、養成所には狩人免許を取得してから行くものなので、その訓練を10日間完遂できなくともペナルティなどはない。というか、完遂できる人間のほうが少ない。


「ちなみにカリシィルは何日目まで耐えられた?」

「10日ですわ!」

「おお、すごい」


なるほど、それで劣悪な環境には耐えられるお嬢様が誕生したというわけだ。


「お師匠様は、当然10日間ですわよね?」

「俺は…一か月くらいだったかな…」


遠い目で過去を思い出す。

当時イケイケだった俺とレイは、調子に乗って教官の監視下を越えて進軍。遭難した。救助が来なければ死んでいただろう。


「な、なにか大変なことがあったのは分かりましたわ…」


何となく察してくれたのか、カリシィルは深く追求はしてこなかった。

そんな談笑をしていると、気が付けばボンチクの実は食べ終わってしまっていた。


「ん、全部喰っちまったか。じゃあ、次は俺が何か買おうかな。カリシィルは、何か食べたいものあるか?」

「お師匠様と同じものならば。もし希望を申し上げるのであれば、先ほどのように、1つのものを2人で、など…」

「ああ、いいぞ」


アルカにばかり甘えるのを許している気がするので、今後はカーリもといカリシィルも2人きりのときは甘やかしてやるとしよう。


「あちらは…なんでしょうか」

「ああ、砂漠に生息する危険度2の獣、砂潜みの肉だな。砂潜みは名前の通り、砂の中に潜み、近づいた獲物に襲い掛かる猫で、尻尾がチューブ状になっており、砂から尾の先を出して呼吸する。地上で狩りをすることもあり、その際は尻尾から空気砲を発射し、小さな動物などを食べる。って、教本で習ったか?」

「いいえ、教本では、そのような個別の獣に関する情報はあまりありませんでしたわ。そのような情報は、モンスターブックを購入するべき、と」

「ああなるほど、それもそうか」


モンスターブックとは、危険度ごとに獣と魔物の生態がまとめられた本で、俺もよく読む。


「じゃあ、モンスターブックは読まないのか?」

「うぅん…こう言ってしまうと、お師匠様に怒られるかもしれませんけども…」


とても言いにくそうにしているので、続きを促してやる。


「“四極”の皆さんと一緒に、初めて相対する獣の情報を師匠から聞く。あの瞬間が好きなんです」

「ああ、なるほどな」


俺は納得しつつ、少し笑った。

狩人に関することに関しては熱心なカリシィルが、あまり獣や魔物の情報を知らないことに納得したからだ。

他の仲間たちと、同じ立場にいたかったのだ。なんともかわいらしい理由だが…。


「それに関しては、本当は全員で予習することが好ましいんだけどな。今度からは、俺の説明を聞く前に、“四極”のメンバーでモンスターブックを読むとか、どうだろう?」

「エフテルが大人しくしていますかね?」

「はは、確かに、結局は俺の説明頼りになってしまいそうだな」


この間の、七色剣山のときのように俺の知らない生態があると、こいつらの命にかかわる。情報収集がどれだけ大切なのかという話なのだが…。まあ、俺が指導役をやっている間くらいは、情報担当は俺がやってやろう。


「って、せっかく2人なのに仕事の話ばかりしてしまってるな」


せっかくの祭りだというのに、結局狩りの話をしてしまう。いつしか姉妹に言われたように、俺はオタクなのかもしれない。

カリシィルは、そんな俺を見て、クスリと笑った。


「わたくしは、そんなラフト様が、お師匠様が好きなのです。今も昔も」

「そ、そうか?」


そういえば、カリシィルは俺が“双極”として活動していたころからのファンなんだったな。少し照れくさい。


「じゃあ、あの砂潜みの串焼き、買ってみるか!」


俺は誤魔化すように、串焼きを買ってくる。

先程約束した通り、2人で食べるために1本だけ、買ってきた。

こうしてカリシィルとの時間は過ぎていった。

ストックやばいです。

あと3話しかありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。