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294 それぞれの結果

別行動をしていても、いつもの酒場に向かうと結局顔を合わせるのはよくあることだ。


「休憩時間じゃないのか…?」


顔を真っ赤にして酒を呷るロンタウと、椅子にもたれかかって大口を開けて寝ているレイを見て、思わずそんなことを漏らしてしまった。

特にロンタウは午後からの訓練は到底不可能に見えるほど酔っている。


「レイ、仲良しだからってあまりロンタウを甘やかすなよ」

「違ェわ。今日はその女の勝ちだから訓練は終わりなんだよ。酒も俺様の奢りだ」


寝ていたわけではなく、不機嫌ゆえに目を閉じていただけだったらしい。


「勝ち?お前が負けるとは想像できないが」

「相棒の期待を裏切っちまった哀れな男よ、俺は…」


なんかこっちもナイーブになってるな。

俺はハルゥとミーンに目配せをして、許可を取ってからレイたちのテーブルに着く。


「で、何してたんだお前らは」


慰めるようにレイの肩をポンポンと叩くと、大笑いしながら何か言おうとしたロンタウの口に肉を詰め込んだレイが代わりに話す。


「コイツの場合は遠距離アタッカーだから、距離を離す訓練をした。ようは見つけたらぶち殺すから逃げろ隠れろっていう訓練だ」

「ぶち殺すってのは?」

「顔をぐちゃぐちゃにする」


なあ、俺の相棒怖いよ。

でも見る限りロンタウの顔はぐちゃぐちゃになっていない。つまり逃げ切ったということか。


「こそこそ隠れやがって、中々見つからねえ」

「それ以外にもあるだろ、負けたとこ。指導役にちゃんと説明しなー?」


ロンタウはより上機嫌になり、レイはより不機嫌になった。


「コイツ、隠れてるだけじゃなくて俺様に豆鉄砲で攻撃までしてきやがる。それなのに、見つけられなかった。これで満足か!?」

「特級のくせに、特3級のくせに1級狩人に負けましたって言いな?」

「あんま調子乗んなよこのアマッ!!」

「あ~ん!助けて指導役~!」


抱き着いてくるロンタウはとても酒臭い。

なんで泥酔してるんだコイツ。


「でも、そう考えるとロンタウにその訓練は不要そうだな」

「悔しいが、そうなる」


ロンタウを追い回していたレイが、再び不機嫌そうに大きな音を立てて椅子に座る。


「だから明日からは、見つかった状態からどう逃げるかっていう訓練をしたら良いだろうな」

「そうだな、流石相棒、それが良い、そうしよう、なァ!?」

「ああいいよいいよ~なんでもいいよ~」


ロンタウは酔っていて、まともに考えずに返事をしている。きっと明日地獄を見ることだろう。


「あたしらが最後か~」


酒場の入り口からなじみ深いエフテルの声が聞こえてきた。そして多人数の足音も。

エフテルとアルカ以外の全員は顔を青ざめさせている。あのルミスですらだ。というかルミスはそっちにいたのか。


「お師匠様ァあ!」


カーリが飛びついてくる。

…なんか普通に泣いてる。

“月の果実”のメンバーもミヤに飛びついたり、各々が何か、そう、遭難した雪山から生存したかのような勢いで泣いていた。

俺にくっついていたカーリをアルカがグイグイと引きはがしていくので、


「どんな訓練をしたんだ?」


と聞いてみた。


「今日は恐怖心を克服する訓練。色々やったよ」


アルカが淡々と教えてくれた訓練の内容はどれも狂人の行いだった。

ナイフで薄皮だけを切り刻まれている間に動いてはいけないという訓練や、落ちたら死ぬくらいの高さの落とし穴だらけの道を目隠しをしながら進む訓練。

極細の針を眼球に少しずつ近づけ、眼球に軽く当たるまで目を閉じてはいけない訓練。

その他もろもろ。

物理的な怪我は負わないが、心に大怪我を負いそうな訓練ばかりだった。


「廃人を作ろうとしているか?」

「いや?あたしらが一番強くなれた方法をマイルドにして実践してるだけだけど」


これで…マイルドなのか…。

ただ実際に、誰も怪我はしていない。

もしかしたら一番指導に向いているのはこの姉妹なのかもしれないと思った。同時に指導方法に問題があるなとも勿論思ったが。

それぞれの話を総括すると、着実に訓練の成果は出ているようだった。

“黒星”の武器が出来上がり次第、少し慣らしのために依頼を受けて、その後シリアルキラーを討伐しようと考えている。

ラージマザー大討伐のための迎撃装置の練習なども本当はもっとしたい。

焦るつもりはないが、早くシリアルキラーを討伐しておきたいという気持ちはあった。

武器が完成するまで、おおよそ2週間程度。この2週間で全員の対人戦闘力を底上げして見せる。


「あ、そうだ。うちのお嬢とそっちのおふたりさんのどっちか、摸擬戦してみない?結構自信あるよ、こっちはさ」


エフテルが「おふたりさん」というところでミーンとハルゥを指した。

ふむ、面白い。こちらもわずかな期間ではあるがだいぶ教えることは教えた。


「ぜひお願いしたいな。な?」


俺からも2人に視線を送ると、ゆるゆるとハルゥが立ち上がった。ミーンが一瞬引き留めようとしていたが、諦めていた。


「ではわたしが先輩の教え子として、行きますっ」

「へえ、そう言い方する。じゃあ、やっちゃえ、お嬢!」

「わたくしの意思は聞かれませんのね…」


とかなんとか言いつつ、わたくしもお師匠様の弟子ですので…とかなんとか、カーリは酒場の外に出た。

ハルゥも細剣を掴んで、ルンルンと酒場の外に向かう。


「ちょっとお待ちになって!あの、ハルゥさん、何故武器をお持ちに?」

「え?」


逆に何故武器を持たないのかという目線をカーリにぶつけた後、2人の視線が俺に視線が向く。


「だってシリアルキラー戦って普通に武器使うだろ。武器使って訓練しないとじゃないか?」

「…まあ、良いでしょう。コウチ、回転刃を!」

「俺はお嬢の召使いじゃねーっすよ…」


しっかりとコウチから回転刃を受け取ったカーリが武器を構える。勿論刃は回転していない。

奇しくも武器の形状、長さは似ている。

俺達のことは村人も知っているので、喧嘩だとは思っていない。むしろ何かの催しものを楽しむかのように人だかりができた。


「じゃあ、はじめ!」


俺の号令がなった瞬間に駆けたのはハルゥ。

アルカが異常すぎるだけで、ハルゥも細剣使いとして素早い身のこなしを魅せる。

上段に見せかけた横薙ぎ。これが最初の一撃だ。


「その程度の速度なら見慣れております!」


カーリは自分で言うとおり、しっかりとそのフェイントを見抜き、回転刃を地面に立てて、その陰に隠れるようにして身を守る。


「ふん…」


アルカが不機嫌そうに鼻を鳴らした。

そう、細剣使いはどんな状況からでも相手の弱点を狙う武器。

攻撃の軌道を見てから変化させることなど容易い…。

横振りから突如細剣を逆手に持ち替え、剣先はカーリの脇腹の直前で止まった。


「お姉さんの勝ち~」


ハルゥは嬉しそうに酒場の席に戻る。

カーリはその場から動けず、俯いたまま固まっていた。


「実戦だったら、死んでたね」


そんなカーリをアルカが立ち上がらせる。


「ま、明日からはもっと扱いてあげるよ!」


エフテルも逆側から駆け寄り、珍しく慰めていた。

コウチも行こうとはしていたが、なんとなく入りにくそうで諦めていた。

得るものはあった。これを活かして明日からもっと頑張れば良い。

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