293 スパルタントレーニング
“黒星”の新たな装備を発注してから2週間ほどが経過したある日。俺は【マルチウェポン】の全員を集めて、ある考えを伝えようとしていた。
皆には、シリアルキラー戦の方針を決めると言って呼びつけている。そのため、なんとなくだが皆の表情が硬い。レイなどの例外もいるが。
全員がいつもの酒場の席についていることを確認してから、俺は話を始めた。
「場所がハッキリしていない部分があるが、今回は【マルチウェポン】全員で狩場に向かおうと思う」
ここで少し緊張した様子なのはミヤを除く“月の果実”だ。
「大所帯だなあ。ちびっこたちを連れて行く理由は?まさか前線ではないよな」
ロンタウが自分たちでは質問しにくい“月の果実”に代わって質問を行う。
「勿論戦ってもらうわけではない。でも、ラージマザー大討伐では指揮を執ることになるのだから、実際に魔獣を見て、生態を知っておいた方が良い。ましてレギオンは普通の魔獣と違う部分も多い」
「つまりは荷物持ちだよ。良かったね」
アルカの発言にいつもどおりショウが反応しかけるが、周りに自分より目上の人間が大勢いるため控えたようだ。
「そして、じゃあ最前線で誰が戦うかという話なんだが…」
俺は3チームを順番に指さした。
それぞれが反応をする。
「当たり前だな」
と得意げなロンタウ。
「早速新武器を試せるね」
「うし、やる気はあるぜ!」
「ついに、ここまで来ましたのね…」
「お嬢ビビってんの?」
といつも通りの“黒星”。
そして、
「ウチら!?と、特級は!?」
「うわーん、先輩がわたしの相手するの面倒くさくなって見殺しにしようとしてる~」
と大慌ての“豊穣の奏”だった。
ロンタウは俺から事前に相談を受けていたため、なんとなくこの布陣に納得がいっているようだった。
対して、意外にもクツクツと喉の奥で笑っているのはレイ。怒るかと思ったが冷静だった。
「意外とクレバーだな。俺は参加しなくていいのか?」
ルミスが手を挙げ、静かに発言する。
「ああ、大丈夫だ。俺達特級3人は後詰として、今の3組の後に必要であれば出る」
「ええっ!?師匠一緒に戦わないの!?」
先ほどまでとは一転、大きな声を出すのはエフテルだ。コウチとアルカも言葉は発さなかったが動揺している。
ガンッというレイの足が机の上に乗る音が響いた。全員の注意がそちらに向く。
「レギオンってのは核が2つあったり特殊だからよ。それがデュアルビーストだけなのか、レギオン全員なのかを調べる必要がある。要はお前らは前座だ前座」
…言い方に難があるが、レイが正しい。
レイの意見を否定してほしそうに“黒星”と“豊穣の奏”の視線が俺に集まる。
落ち着かせるように静かに話す。
「まず、お前らが安心して戦える理由を2つ説明する」
まず1つ。指を立てる。
「これは消極的な安心理由な。仮に先鋒が敗北しても、俺達が勝てば呪毒はなんとかなる。もし俺達特級が負けるような相手なら、遅かれ早かれ皆負けるから」
「ラージマザーと同じ理由です、ね」
ポツリとミヤが言うとおり。
頷きながら2本目の指を立てる。
「そして2つ目は、レギオン“シリアルキラー”の特徴により、勝機があると思っている」
特にエフテルとアルカ。この2人は強く出れるだろう。
「シリアルキラーは狩人を多く吸収していて、人型に近いとされている。つまり、対人戦闘能力が重視されるんだ」
そういう意味では、この間のダーシー家の一件も役には立ったというところか。
「そこの姉妹は対人能力に限って言えばロンタウは勿論、ルミスすらも上回っていると考えている。だから、絶対勝てないとは思わないんだ」
「ロンタウは勿論ってなんだこら」
近寄ってきたロンタウに頭を叩かれた。だってお前近接タイプじゃないじゃん…。
「それって、ウチらが勝てる理由になるんじゃん?」
ミーンがおずおずと手を挙げた。
俺はしっかりと頷く。
「ここからシリアルキラー討伐までの間、みっちりと対人訓練を行うから大丈夫だ。俺と、レイと、エフテルとアルカで」
レイは獰猛な笑みを浮かべて拳をボキボキと鳴らしている。
エフテルは何故か針を手の上で回しだした。
そしてアルカはハルゥに近づく。
「細剣教えてくれたお礼、しなきゃね?」
「や、優しくしてね…?」
肩に手を置かれたハルゥは涙目だった。
§
シリアルキラーは最も狩人に被害を出しているレギオンだ。ゆえに、最も警戒されていて、最も情報も多い。
基本的には人型をしていて、ナイツのように片腕を武器に変化させるらしい。その武器というのが、狩人武器に酷似しているとかなんとか。
あの打合せの後、早速訓練が開始された。
先生役が4人に対し、生徒が5人。
なので言いだしっぺの俺が2人の面倒を見ることにした。
レイがロンタウの、エフテルとアルカはコウチとカーリの指導をしている。
俺はハルゥとミーンだ。
ずっと同じ人間を指導するのではなく、ある程度ローテーションしようとは考えている。
「はぁ!」
「声を出すと攻撃してくるのがバレるぞ」
踏み込んでこようとしたハルゥの額に長い木の棒を押し当てた。俺は少し押しただけだが、全力で踏み込もうとしていたところにぶつかったのでかなり痛そうだ。
「…ッ!」
きちんと無言で針の代わりの小石を投げてくるミーンの方は見なくても良い。適当に手で払い落していた。
「うぐっ!」
ハルゥが倒れていることを確認し、そのままミーンに接近して軽く腹に拳を入れる。投擲に夢中になっていた彼女は無防備な状態で受けてしまったらしく、大して力を入れていなかったが唾液を溢しながら膝を付いた。
「悪いが、痛みに慣れるところも訓練だ。怖がっているようでは動きが鈍る」
エフテルやアルカのように目の前に指が突き出されても目を閉じるなとは言わない。だがある程度の痛みは許容できるようになってほしい。
「容赦ないです、ねー」
俺の後ろでミヤが地面にぺたんと座ってそんなことを言っていた。
この訓練中に暇な“月の果実”はしっかりと見て学ぶように言いつけている。場合によっては参加しても良い。
初日は全員俺のところに来たが、あまりに過酷すぎて残ったのはミヤだけだった。
「終わり、ですか?」
そろそろ昼だ。ミヤ的には早く昼食にしたいのだろう。
「終わんないよ…!」
「まだ一発殴られただけじゃん…!」
指名されたときは狼狽えていた2人だが、真剣に俺が勝利を期待していることが分かると、本気で訓練に取り組むようになった。
目立つ場所は攻撃していないが、体のあちこちに痣などが見られる。
まだ訓練から3日程度だが、少しずつ動きは良くなっていた。
「まあ、これ以上やっても明日に響くし、今日は実戦はここまでにしとこうか」
なんとか立ち上がった2人の肩を軽く叩く。
するとそれだけで2人は地面に転がってしまった。物凄く消耗していたのは分かっていたからな。
「じゃあミヤ。2人が酒場に歩けるようになるまで俺と訓練しようか」
「えっ」
ミヤに俺が持っていた長い木の棒を投げ渡す。
「木の棒だって立派な武器だ。武器に失礼なことはするなよ」
こういえば、ほら。ミヤの目つきが変わる。
俺が小走り程度の速度で前進すると、しっかりと突きを放ってきた。
身体を捻って躱すと、次々に突きが繰り出される。
全てを避け、ミヤの目の前に立って小柄な弟子を見下ろした。
「…ッ!」
突然ミヤは木の棒を手放し、体を捻って拳を突き出してきた。
「うん、俺はお前のそういうところが好きだし、俺の弟子っぽいと思うよ」
俺が掴んだミヤの拳、いや拳に見えて小さな杭が握られている。
持てる全てで反撃しようとしてくるところが高評価だ。
「ただ実力が足りないんだよなー」
そのまま掴んでいた腕を取って、地面に強く叩きつけた。
うん、しっかり気絶している。
「やりすぎじゃん、どっちも…」
「いや、俺は君らがこれくらいになってくれるといいなと思っているよ」
先ほどまで休んでいた2人が、今度は逆にミヤを拾い上げる。
俺はミヤを2人から受け取って、
「じゃあお昼ご飯にするか」
と言った。
ミーンとハルゥから化け物を見るみたいな視線を受けながら、俺達はいつもの酒場に向かうのだった。
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