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292 ハーベストリーズン

“豊穣の奏”の2人が指導役となって、“月の果実”の狩りに随伴していた日。

俺は指示などのほとんどを“豊穣の奏”に任せつつ、シリアルキラーのことを考えていた。


「全員で行くのも、どうなのかと考えている」


今回は船上戦で、ヒシガツマ村周辺に出没した漁師擬きを狩りに来ている。

船の上には俺とロンタウ、“豊穣の奏”、“月の果実”が乗り、俺たち2人は万が一のときのための控え要員だ。


「まあそうだな。原則として、狩りってのは1チームで行うもんだとされてる。今までイレギュラーが多すぎて感覚が麻痺ってた部分はあるけど」


ロンタウの言うとおり。

多くてもだいたい5人くらいが一番良いとされている。獣からすればいくら格下とされている人間だとしても、あまりに大勢だと警戒されてしまうこともある。それに、自分たちの攻撃が味方に当たってしまう恐れもある。そのため、ほぼ全員で参加したデュアルビースト戦も、実際に戦っていたのは俺を含む3人だ。

そして今回のシリアルキラー戦。

順当に考えれば特級の3人と実力的には特級のロンタウの4人で狩るのが妥当だろう。


「指導役は“豊穣の奏”と“黒星”をどうするか悩んでるんだろ」

「流石ロンタウ、鋭いな」

「分かるよ、流石に」


そう、そこを悩んでいた。

1級狩人は確かに最強の狩人と言っても過言ではない。自然災害のような危険度6を狩ることができる存在だ。

では、その上に位置する特級狩人とは?

それは最早人知を超えている存在である。

ロンタウが分かりやすい例だ。

彼女のように数km離れたものを視認し、的確に狙撃できるものは人間の常識から外れている。

レイのように、1人で1tを持ち上げる人間もいない。

ルミスや俺のようにハイスタンダートで特級狩人になる方が珍しいのだ。

勿論実際には実績なども考慮されるため、そのような特異な部分がなくても1級の中で目覚ましい活躍を見せた狩人が特級に認定されることもある。先ほども名前を上げたが、まさしくルミスがこれに当たる。

では、“黒星”はどうか。

あり得ない投擲技術のエフテル。

他の追随を許さぬ速度のアルカ。

レイに迫る勢いの怪力のコウチ。

他の3人とは違って特化型ではないがハイスペックでまとめ役のカーリ。

十分特級の資質はあると言えるだろう。

では、“豊穣の奏”は?

投擲技術は並みだが、知識面や立ち回りで実力を補っているミーン。

流れるような剣捌きで相手を紙のように切り裂く、細剣使いのお手本のようなハルゥ。

どちらも常識の範疇に収まる。

厳しいことを言えば、カーリ1人では特級に認定されることはかなり難しいだろう。だが、チーム単位で実績が見られるため、そういう意味で認定されることはある。

つまり、“豊穣の奏”はカーリが2人いるような、お利口なチームなのだ。

勿論評価される部分はある。

突発的な事態、特に緊急時に最善の行動を迷わずに選ぶことができるという、【マルチウェポン】の中でも唯一に近い才能を持つ2人だ。

だが、それはギルドには評価されず、実際に強敵と相対した際に毎回勝利に作用するかと言われると怪しい。

ギルドが決めた特級というくくりに拘っているわけではないが、特級ですらレギオンには勝てないのであれば、1級に勝ち目などない。


「正直無理する必要はないんじゃないのとは思うぞ、ロンタウは」


漁師擬きが船体に取り付いたらしく、船上が激しく揺れる。

降り落されないように“月の果実”や乗組員たちが必死でしがみついている中、俺やロンタウ、ミーンとハルゥは普通に立っていた。やはりレベルは高いのだ。


「特級になることが目標なのか、そもそもあの2人は」

「どうなんだろう…でも、レギオン討伐には乗り気だったはずだ」

「別にレギオン討伐依頼の必要要件が特級なだけで、特級になりたいかってこととは別の話だろ。ロンタウは特級になりたいがな」

「あ、そっか。それも確かに、そうなのか」


目から鱗。

そういえば、あの2人はどうして【マルチウェポン】に居続けてくれているのだろう。

人助けや俺への好意という部分は聞いていたが、それだけで命がけでレギオンと戦うか?


「ロンタウは特級になるからな」


2人のことを考えていたら念を押された。


「分かった分かった」

「なんせ、もう唾付けられちゃったみたいだしな」

「…なんのことやら」


それ以上追及されなかったので、許されたと考えていいだろう。

狩りはいよいよ大詰めだ。

強制揚陸装置が漁師擬きに命中し、甲板に打ち上げられる。2本の長い腕を持つ、ぬるぬるとした巨体が暴れていた。

既にミヤの銃撃や迎撃装置で傷ついていたようで、だいぶ苦しそうにしている。


「たぁああー!」


ミヤの炸裂機構が長い腕を1本両断。

痛みに気を取られているうちにショウとエツが正面で武器を構え、そしてレバーを引いた。

それで狩りは終了だった。


「危なげなく勝ったな」


やはり“豊穣の奏”は指導がうまい。

“月の果実”は異例の昇格スピードにより、どうしても同期よりも強いが同級よりは練度が低い。

それをここまで危なげなく勝利に導くことができるのだから、純粋に凄いのだ。


「じゃあ、一区切りついたし、聞いて来いよ。【マルチウェポン】のクランマスターさん」


人の背中を大きく叩いて、楽しそうに笑いながらロンタウは船員の輪に加わっていった。

“月の果実”は剥ぎ取りを行っており、“豊穣の奏”は一息吐くように座り込んで、2人で雑談していた。

そんな2人に近づき、持っていた飲み物を差し出した。


「お疲れ様」

「あっ、おつじゃん!」

「お疲れ様です」


2人の表情は明るい。


「よくやり切ったな」

「いえいえ、あの子たちが優秀なので、特に何もすることがありませんでしたよ」


とはいうものの、どの迎撃装置を使うかどうかはほとんど2人が指揮していた。


「全員ほぼ無傷だ。素晴らしい先生だよ」

「でも先輩もそれくらいできるじゃん?」

「あー、いや…」


俺は2人死なせかけたから…。

海に飛び込んでいくコウチとアルカの姿が脳裏に浮かんだ。


「2人に突然なんだけど、変なこと聞いても良いか?」

「なんじゃん?」


恐らく自分たちの話をされていると勘違いしている“月の果実”たちの視線をチラチラと受けながら、俺は先ほどロンタウに気づかせてもらった話を聞いてみる。


「君らはどうして【マルチウェポン】に入っているんだ?」

「え、クビですか!?」

「いやクビじゃないよ!?」


あまりにもデカい声で言われるものだからデカい声で返してしまった。


「いやほら、“豊穣の奏”は成り行きで加入したみたいなところがあったじゃないか。それなのに、命を懸けてレギオン討伐なんかをしてくれる。ここまでしてくれる理由って何なのかなって思ってさ」

「…」


2人は一瞬顔を見合わせてから、じとーっという視線を向けてきた。


「先輩、なんかまた余計なこと考えたじゃん。巻き込むわけにはいかないとかそういう…」

「それとも、やっぱりわたしたちが弱いからですかね?ちょっと自覚はしてますが」


鋭い。

こういうところが本当にこの2人の強みなのだ。

考えていたことを素直に当てられてしまったので、最早白状した。要はそのとおりなんですと。

それを聞いた2人は各々考える。

先に口を開いたのは、ミーンだった。


「前に言ったときと変わってないじゃん。人のために働きたくなった。世界を守るためにレギオンと戦うじゃん」

「それ本気で言っているのか?」

「勿論」


ミーンは即座に頷いて見せた。確かにその表情に噓偽りはないように思える。


「レギオンは放っておいたら駄目じゃん。実力が足りないからって、関わらなかったら後悔するじゃん。だから、戦うじゃん」


じゃんじゃん言っているが、まるで主人公のような奴だ。


「ハルゥも同じか?」

「わたしもそういう責任感みたいな部分はありますねー。でもまあ、メインはやっぱり仲間外れが嫌かなってところです」

「仲間外れ?」

「はい。いつも仲間外れにされてきたので。でもここでは違いました。結構これでも【マルチウェポン】には恩を感じているんですよ」

「そうなのか」

「はい。それに一番は、やっぱり先輩です。前も言いましたが、結構ホントに好きですから。だから一緒にいたいんです」


いつものこちらを意識した色気を出したような話し方ではない。自分の気持ちと向き合うように、静かに気持ちを吐露していた。


「分かった、ありがとう」


そこまでの想いがあるならば、俺が何かこれ以上言う必要はない。

狩人は、良くも悪くも自己責任の世界だ。

戦う理由が自分にあるのならば、誰にも邪魔をすることはできないのだ。

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