290 黒星の新たな力①
ギルドからの返事は思ったより早く来た。
俺達はまた酒場に集まり、“黒星”とレイの6人で手紙の内容を確認した。
正直断られるとばかり思っていたので意外だったが、デュアルビーストの素材を後から送るというのだ。
ただし、条件付きで。
「レギオン“シリアルキラー”の討伐か…」
簡単に言うと、デュアルビーストの素材で装備を作っても良いが、そしたらその装備でレギオンを倒してきてね、という話だ。
「唯一の特1級サマは何してんだ」
「まだ行方不明らしいぞ。本当に何してんだろうな」
レイが言ったのは世界で1人しかいない特1級狩人、“軽業師”カミジャオのことだ。
彼はガナワ山脈で行方不明になったのち、現在も行方不明状態が続いている。
「じゃあ特2級はァ!?」
「知らん。単純に俺達が魔獣狩りに慣れてるからだとは思うが…」
「けっ、貧乏くじだぜ」
レイとしては、俺の仇を取った以上、魔獣に拘りはない。単純に面倒な仕事を任されたなと思っているだけだ。
「バックレたら?素材はもらえるんでしょ?」
「そうはいかなくなった。見ろ、ここ」
エフテルに手紙の隅っこを見せる。元々富裕層だった彼女は、そこにある印の意味をすぐに理解した。
「ダーシー家の印じゃん!うわ、めんどくさ!」
要はこの命令はギルドだけでなく、アーシさんも噛んでいるということ。こちらがアーシさんをちらつかせたのがまずかったか。
とはいえ、俺個人としては悪くない条件だと思っている。
「元々レギオンを機会があれば狩りたいと思っていたし、場を整えてくれるならむしろ感謝したいくらいだ」
手紙から視線を外すと、全員から生暖かい視線を向けられていることを感じる。なんというか、しょうがないなというような。
いや、違うな、それもあるが、期待しているような視線。
「で?1人で狩りに行くわけじゃねえんだろ?」
レイが肩を組んでくる。
ああ、そういうことか!
「ああ、皆で狩りに行こう!行けるな?」
「もちろん!」
俺達は【マルチウェポン】だ。
頼りになる仲間がいるのだ。
§
そして数日後、手紙の返事どおりにドサッとデュアルビーストの素材がアオマキ村に届いた。
どこにこれだけ残っていたのかと思うほどの毛皮と、牙、爪。そして体組織が馬車2台で運搬されてきたのだ。
村の入り口には何事かと見物人が押し寄せているが、触れるだけで危険なものなので、流石にウエカ村長が接近禁止と叫んでいる。
「邪魔ダ邪魔ダ!どけヨ!」
やがて見物人に蹴りを入れながらハカを筆頭に工房の職人がやってきて、嵐のように素材を回収していった。
蹴られた村人は何故か嬉しそうだ。
ちゃんとうちの看板娘にもファンがいるらしい。
「コウチ、カーリ。一緒に工房に行こう」
「あたしらかわいい姉妹は?」
「かわいいかどうか村人たちに聞いてみ。10人がかわいいって言ってくれたら後から来い」
見てろよ!と言ってエフテルとアルカは人込みに突っ込んでいった。律儀に実行するんだな…。
カーリとコウチと工房への道を歩く。
2人はなぜ自分たちが先に呼ばれたのか、理解しているようだった。
「今から新しい武器種に慣れることなどできるのでしょうか…」
「俺は、大剣ならギリ使えそうな気がするぜ…」
不安そうにお互い話し合っている。
槌は対魔獣と言わずとも、魔物にすらやや不利な武器だ。ぶよぶよした体組織は、打撃に強く、魔物であれば膂力で何とかなるかもしれないが、体組織の上に毛皮がある魔獣はまずダメージを与えられない。
回転刃の安定したダメージは魔獣にも有効だが、如何せん体組織が飛び散る。一滴でも触れてはいけない呪毒に対してはあまりに相性が悪い。
ということでとりあえず工房に来てみたんだが、10年以上一筋だった武器種を今更変更すると言うのも現実的ではないよなあ。
工房に着くと、既にハカとミヤが何やら図面を見ながら話し合っている。後ろには親方もいた。
「素材はどうだ?」
そもそも魔獣の素材は装備になるのかどうか、そういう部分を聞きたかった。
ハカは手袋を付けて、デュアルビーストの毛皮を持ち上げる。
「これ、すげえナ。毛皮に見えるけど違う」
「何?」
ハカが手招きするので、もっと近くに寄ってみる。
ハカが小さなナイフで少しだけ毛皮を傷つけると、ゆっくりとだが傷が塞がっていった。
「まさか毛皮を模した体組織なのか!?」
「みたいダナー。自己修復機能付き防具、なんっちって」
どうりで全焼したはずのデュアルビーストの毛皮が再生しているわけだ。つまり魔獣は獣に寄生しているわけでなく、獣を模していたということになる。
「爪や牙も?」
「まだ見てないケド。可能性は高いよナ」
というか、ギルドがこんなことに気づかないはずがない。確かに知ってどうなるというわけでもないが、少しだけムッとする。
とはいえ、この場にはギルドの職員はいないので、頭を切り替える。
「ただ、核がないからか再生には限界があるっぽい。何回か切ったら動かなくなっタ」
「流石にそれはそうか」
既にカーリとコウチはミヤとともに図面を見ていた。
俺も一緒に覗き込むと、全部で4枚の図面が描かれている。
パッと見で分かるが、“黒星”のメンバーのための装備だ。
「なるほど、すごいな…。親方から見てどうだ?」
現役第一線を退いたものの、結局は親方を頼りにしてしまうし、なんだかんだ親方もこうして前に出てくる。
親方は髭を片手でじょりじょり擦りながら、図面を見て頷いていた。
「俺らは技術はあるが、それゆえに凝り固まった常識っつーものがある。このちみっ子にはそれがねえから、粗削りながら面白いものができあがる。逆に基礎はなってねえがな。それを俺達が補強したのが、それよ」
満足そうに頷いているところを見ると、実現可能ということだ。
「ミヤ、1つずつ説明してくれ」
「あいっ!」
良くやったという意味も込めて頭をグリグリしてやると、嬉しそうに大きな返事をしてくれた。
まず手にとったのは、ぱっと見で分かるが槌だ。
「名付けて削槌です。本来槌は重量で押しつぶすものですが、これは違います。可動レバーを引くと変形し、鋭利な器となるのです」
なんというか、変形後は巨大で縁が鋭利な横向きのバケツに棒が付いているようなイメージだ。
これで魔獣を殴れば、器となった部分に魔獣の体組織を削り取ることができるだろう。
「すげえ!…けど、これは雑に扱っていいのか?刃こぼれとか…」
今まで刃物とは無縁の世界で生きてきたコウチとしては不安だろう。その不安を見抜くように、ミヤは偉そうに頷きながら指をたてた。
「だから、可動式です。普段は槌で、ここぞというときに変形します。ちゃんとメンテナンスすれば、1回の狩りの中で壊れることはない、です!」
「ガサツな俺には助かるな」
とは言うが、コウチもなんだかんだ器用な男だ。少し慣れれば使いこなすことができるだろう。
嬉しそうな表情を浮かべて図面を持つコウチに、ミヤも満足そうだ。
「あの、次はこちらを!」
それを見て我慢できなくなったカーリが、1枚の図面をミヤに渡す。それはカーリ用の新武器だ。
「回転刀です。回転速度を上げて、より鋭利に切り裂きます。スパッといってしまえば、飛沫は飛ばないだろうという作戦です、ね」
見た目の変化は今の回転刃よりも細くなった程度でほとんどない。しかし鋭利さは増しているという。
「どのくらい鋭利なんだ?」
「今の30倍の速度で刃が回転します。少し触れただけで両断されますよ」
間違って刃を触ったりすると、ゾッとするな…。
「で、ですが、それだけの動力を確保できるカートリッジなどありますの?」
「そこがネック、です」
ミヤはしょぼんとしてしまった。
「どうしても、出力を上げるのと、稼働時間を維持することは両立できない、と思います。ハカに相談しても駄目っぽそうでし、た」
「あん、駄目ダロ普通に。30倍だぞ30倍」
単純に考えれば、今までの30倍の速度で固形カートリッジを使い切るという計算になる。
落ち込むと思われたカーリは少し考え、
「あの、最高速に達するまでの時間は?」
と訊ねた。
その質問にはハカが答える。
「従来の炸裂機構を組合せれば、一瞬で最高速になると思うゾ。毎回爆音もなるが」
滅茶苦茶うるさそう!
それでもカーリは納得したようで、静かに頭を下げた。
「そちらでお願いいたします」
「いいのか?」
コウチの武器と違って上位互換というような強化ではない。新たな強みと引き換えに、弱みも現れる。
それでもカーリは、
「従来の戦い方のまま、魔獣に対応できるようになるだけで十分ですわ。あとはわたくしの工夫次第です」
と力強く頷いた。
そこまでの覚悟があるのであれば、俺から言うことは何もない。
さて、残る図面はエフテルとアルカのものなのだが…。
「アイツらは何をしているんだ。さっさと来ると思ったのに」
「お師匠さんが意地悪したのに、ひでー…」
何を言う。
2人なら一瞬で達成できると思ったからあの課題を出したのだ。
「あの、お師匠様?」
「どうしたカーリ」
もじもじと上目遣いでカーリが話かけてくる。
「わたくしも、その、10人くらいにだったらかわいいと言ってもらえますでしょうか…?」
「ああ、カーリだったら50人でも余裕そうだな」
そんなことを言うと、カーリは顔を赤くして俯きながら長い黒髪を整えていた。
「神聖な工房の前でいちゃつくナ!」
「いてッ…何をする…!?」
ハカに尻を蹴り上げられ、抗議しようとしたらハンマーを振りかぶられた。昔にあのハンマーで親方を殴っていたところをみたことがある。
反論するのはやめておこう。
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