289 狩人が強くなる方法
「とはいえ、1年って長いよなあ~」
俺は誰もいない岩壁であおむけに寝転がりながら大きな声で独り言を言っていた。
「でも1年あれば相当強くもなれるんじゃない?」
「そうだな。ラージマザーに向けてと言うが、結局は普通に訓練するしかないんだよな」
当然のように隣に湧き出てきたエフテルに当たり前のように返事をした。
ここはエフテルのお気に入りの場所なので、ここに来ると大体エフテルがいる。そして、エフテル来ると大体アルカが来て、アルカが来るとカーリも来るのだ。
「ホントに皆いるじゃん。いつも俺だけハブられてたのかよー」
そして今日は珍しく、コウチも来ていた。というより、なんとなく申し訳なくてそれとなく俺の居場所をコウチに伝えたのだ。
「コウチがハブられているのはいつものことでしょう。というより、最近は貴方自身が奥さんを優先しているからわたくしたちとの時間が減っているのではなくて?」
「お嬢、それを言うなら、俺はお師匠さんたちの逢瀬を邪魔しないようにしていると反論させてもらうぜ」
「くっ、コウチのくせに弁が回りますわね…」
今日も“黒星”は仲良しだ。
「どうやって強くするの?特に“月の果実”とかは、結構弱いよ」
なんだかんだ言って、一番弟子のことを気にしているアルカである。決して弱いわけではないのだが、【マルチウェポン】の中では実力が低いというだけだ。
「ちなみに酒場でも言ったが、お前らの強化も必要だと思ってるからな、俺は」
「がーん」
わざとらしくエフテルとアルカが同時に声を上げた。
「師匠を特級狩人から助けたの、誰だか忘れたんだ…」
「わたしたちがいなかったらどうなっていたことか…」
ダーシー家の応接室での話をされている。
「まあそれは感謝するが、対人戦闘と狩りでは違うだろ」
この2人は対人特化すぎる。狩りにおいても元々の暗殺技術を活かして立ち回っている部分もあるし。
不服そうな2人はさておき、真面目な二人は冷静に話し合っている。
結構真面目に話し合ってくれていたので、
「お前らも加われ」
と姉妹を押しやって、再び俺は仰向けに空を眺めていた。
しばらく自分の中でぐるぐると何をすべきか考えていた。特級狩人が3人いるし、それぞれが1チームを育成するか、とか。でもレイに教わるチームが可哀そうだなと思ったり。
そんな感じでぼーっと思考していると、青い空ににゅっとエフテルの顔が現れた。迫って来る顔面を押しのけて、起き上がると話し合いが終わっていたようで全員の視線を感じた。
「それで、何か良い結論は出たか?」
代表して、リーダーのカーリが応えてくれる。
「魔獣の装備を作りましょう」
なるほど盲点だった。
§
俺達はすぐに動き出した。
まず、“月の果実”の面子が住む一角からミヤを連れ出す。
「ミヤ、来てくれるか。武器の話だ」
「行きます」
呼んだらすぐに来てくれた。
ちなみに残りの3人はアオマキ村で仲良く遊んでいるらしい。今回ばかりはミヤが仲間外れになっていて助かった。
そして到着したのは勿論工房だ。
「おうおうおう、そんなにゾロゾロとどうしたンダ?」
もう立派な職人なのに相変わらず看板娘もやっているハカが受付で対応してくれて、話を聞いてくれる。
興奮した俺の話を、うんうんと頷きながら聞いてくれて、好感触だった。
危険度6を超える危険度7の魔獣の爪、牙、そして何よりも体組織と皮。現状で最強の矛と盾になり得るのではないか。
だが、最後に言われたハカの言葉で固まってしまう。
「で、素材はドコにあんの?」
…ない。
毎回ギルドが全て回収してしまっている。
「ギルドに言ったらあると思うか?」
振り返って皆に訊ねてみると、皆首を傾げるか唸る。カーリだけが困り眉で口を開いた。
「あるとは思いますが…研究材料として重宝されているはずですわ」
「つまりおいそれと譲ってもらえるものではないと」
「その可能性が高いですわね」
確かに今まで4回ほど魔獣を討伐しているが、その素材を剥ぎ取ったことはない。
しかも、よくよく考えると防具になりそうな毛皮などは割と燃やしたりしている。
「あたしたちが狩ったものなんだからあたしたちのものになるべきじゃない!?」
「でもエフテルさん、売っぱらったならもう俺たちのものじゃないんじゃないか?」
「合意なく買い取りされただけって言うんだよそれは!」
正直魔獣を今までの獣や魔物と同じ尺度で考えていなかったので、装備にするという発想がなかった。完全に、応急解毒薬の材料としか考えていなかった。
「よし、ちょっとミサ室長に伝書鳥を飛ばしてみよう」
まだ素材が残っているといいんだが…。
その日はどうせすぐに結論が出ないということで、残された休日を楽しむこととなった。
「じゃなー。また来いヨ」
「あいー」
帰り際、ミヤとハカが妙に仲良さそうに手を挙げて挨拶をしていた。こいつらこんなに仲良かったか?
「いつの間に仲良くなったんだ?」
遠ざかる工房を背に聞いてみる。
「悔しいですが、あの人すごいです、よ。装備作りのプロです」
「まあそりゃそうだ」
狩人の片手間に武器開発をしているミヤと、あの親方の下でずっと修行をしているハカではレベルが違うだろう。
「なんだよ」
気が付くと、ミヤがむくれていた。ほっぺたがパンパンに膨らんでいる。
「今、わたしのこと馬鹿にしました」
「馬鹿にはしてない。鍛冶の技量の差を考えていただけだ」
「むー!」
得意分野で負けている部分が、一応コンプレックスではあるのだろう。珍しく声を荒げて怒っていたので、とりあえず肩車しておいた。
「ギルドに伝書鳥出すなら、ついでに飯も食おうぜ」
「同志の言うとおり。そろそろお腹空いたよ」
“黒星”の食いしん坊チームがそう言う。否定する理由はもちろんないので、そのまま酒場に向かった。
「では、わたくしは文書を作成して送付しますので」
「ありがとう、俺も行くよ」
到着するなりテーブルを確保したアルカと、早速ミサ室長に手紙を出しに行くカーリ。もちろん俺はカーリとともにカウンターに行き、文書を作成する。
「せんせ、武器考えておきます、ね」
「おうおう」
そう話しかけられて、まだミヤが頭上にいたことに気づいた。そのまま手紙を書く。
レギオン討伐のために魔獣の装備を作りたい。
ギルドに保管してあるデュアルビーストの素材を寄越せ。
…うん、こんなもんだな。
「さもなくば、ラージマザー大討伐には参加しない…っと」
ささっとやってきたエフテルが最後に一文追加して去っていった。
カーリが困ったように笑いながら手紙をたたみ、ギルドの職員に手渡す。
いやいや、そのまま渡すのかよ!
「大丈夫です。どうせこの情報は父にも筒抜けでしょうし、適度に圧力になるのではないでしょうか」
「そ、そっか…」
これが目的のためならば手段を選ばないダーシー家の血筋というものか。戦慄した。
丁度昼時ということもあり、酒場内はほどほどに混んでいる。席の確保をしてもらって正解だった。
アルカとコウチが待つ席に向かう途中、結構な数の客がトンタクルを注文している様子が見られた。
そろそろ開発から1年経つが、無事に名物として受け入れられつつあるのだ。個人的にはそこまで夢中になるほどではないと思うのだが。
「師匠、トンタクル頼んでおいたよ」
うちのメンバーもほどほどにトンタクルが好きだ…。
「てかさ、あたしらの武器もなんか考えてよ」
「ヴぇッ…」
全員分のトンタクルが届き、手を付け始めたあたりでエフテルがそんなことを言いだした。
「だって師匠だけズルいじゃん。師匠の武器が凄いのは見てて分かったから、あたしらにもなんか面白ギミックないかなってさ」
「別に面白ギミックなんてないし、キメラはお前使いこなすどころか持てないだろ」
「別にキメラを寄越せって言ってるわけじゃなくて!そうだな、なんか専用の武器がほしいの!」
そう言ってジタバタしはじめる。駄々っ子だ。
「お姉ちゃん、ご飯中だから。うるさくても良いけど、大人しくしてね」
「アルカもそう思わないの!?」
アルカはフォークを咥えながら試案する。
元々アルカの細剣は短剣と言っても良いほどに短く刀身がカスタマイズされている。つまり既にオーダーメイドなのだ。
「そうだね。ミヤ、私の細剣にも多段炸裂機構が欲しいかも」
ナチュラルに呼び捨てだ。
ただ、武器の話ということもあり、ミヤは普通に話に乗って来る。
「あの細剣は取り回しと軽さが命だと思います。多段炸裂機構はどうしても重くなってしまうので、その辺との両立は難しいかも、です」
「ん…そか、それは確かに良くないか…。じゃあいいや」
満足したようにアルカは食事に戻る。
エフテルは、ちょっと考えてみて!とミヤに丸投げして一旦大人しくなった。
ただ、実際に針や回転刃、槌などは対魔獣において不利な面はある。
その辺少し、相談してみてもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、賑やかな声に思考を中断させたれた。
「あー!なんでミヤちゃんがいるの!!」
名前を呼ばれたミヤがびくっとして俺の後ろに隠れる。
混雑していたから気づかなかったが、この酒場でエツとショウとチエも食事を取っていたらしい。
確かミヤは仲間との誘いを断っていたはずだ。
そんな人間が、別の人間と食事をしていたら良い気分はしないだろうな。
「ミヤ、諦めて行ってこい」
「や、です!せんせから武器の話したそうな雰囲気が出てました!」
心を読むな。
俺が助けてくれないと判断したミヤは、狙いを変える。
「未来、の、ママ、助けて…!」
なんとこの言葉に、エフテルとアルカとカーリが立ち上がった!
コウチは額に手のひらを当てて大きなため息をついた。
この後は、まあ、色々あって結局“黒星”と“月の果実”で一緒に食事を取ることとなった。
皆で仲良くするのが一番だと俺は思う。
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