285 タイラントキル
やがて、2階の一番大きな部屋に辿り着く。
部屋には窓はなく、代わりに円形のテーブルや高そうなシャンデリアが並んでいた。ダンスホールとでもいうのだろうか。
豪奢な部屋の真ん中に、大剣を床に突き刺して待つレイがいた。
「どうだ、余裕だろ」
レイの方から気安く話しかけてくる。
「まあ、刺客はな。身内の方がよっぽど怖いわ」
結局エフテルとアルカの姿は見つけられなかった。今もどこかに潜んでいるのだろうか。
「言ったろ、相棒なら負けねえって。だから酔狂に付き合ってやることに問題はねえ」
大剣を抜き、俺に向けた。
「だからお前は俺様にも勝てる」
目の前で特大の火花が散った。
レイの渾身の振り下ろしと、複合武器キメラが交差したからだ。
遅れて甲高い金属音が響く。
「ははッ!流石だ!あのデュアルビーストですら喰らってたのによぉ!!」
「炸裂機構がないからだよ…!」
横向きにしっかりと持ったキメラの柄に、レイの大剣が噛みついている。
なんとか耐えているが、力では暴腕のレイに勝てない。少しずつ押し込まれていく。
「どうした、カートリッジはねえのか!?」
「人間同士で炸裂機構を使う馬鹿がどこにいる!」
「ここだよ」
レイはカートリッジを挿入し、レバーを引いた。
爆音とともに、俺は地面を転がる。
カートリッジを挿入する際に一瞬片手になったので、その隙になんとか逃れることに成功した。
床には大きな穴が空き、カーペットが沈み込んでいる。
「そこまですんのか、今日って」
「ああ。する」
レイが大剣を肩に担ぎながら、大きな口を弓なりにして笑った。
「俺は特に恩を感じている人間がこの世に3人いる。この俺がだ」
「聞いてほしそうだから聞いてやろう」
少し息を整えるためにも、時間を稼ぐ。
「まずお前だ相棒。お前は俺の人生の全てだ」
「おう、ありがとう」
「そんで2人目、ロンタウ。相棒の命を自らの命と引き換えに救った」
「そうだな」
「最後に、アーシ・ダーシー。アイツがいなければ、相棒の腕は治っていない」
「…そうだな」
一応、その恩は俺も感じてはいる。
「滅多に恩なんてものは感じねえが、もし仮にそんなもんがあったら全力で返す。なあ、分かるだろう?」
「賛同したくないが、言いたいことは分かったよ」
つまり、アーシさんが喜ぶように全力で戦うということだ。
「シリアルキラーってレギオンいたろ?」
急に話が変わった気がした。
「アイツ、今大剣使いの人間みたいな見た目してるらしいぜ。相棒、練習だよ」
「ふふふ、はは!ありがとう。いいよ、そこまで言うなら全力だ。死んでも文句言うなよ!!」
2人でほぼ同時にカートリッジを挿入、レバーを引く。
レイは俺に烈火のごとく突撃し、俺はそのレイを迎え撃つようにキメラを投擲する。
流石の直撃コース。レイはその炸裂機構の推進力を使って、俺のキメラを叩き落とした。
だが、こちらにはあちらにない機能がある。
「多段炸裂機構ッ!!」
レイが叫ぶとほぼ同時、地面に落ちたはずの斧槍が、爆発とともに打ち上がった。
一瞬の怯みを見逃さず、俺は細剣部分でレイに飛び掛かる。
ギリギリのけ反って避けられるが、細剣ゆえ、取り回しが効く。そのまま返す刀でもう一度切りかかる。
「さっさと終わりだ!」
「終わるかよ!」
レイはわざと俺の刃に額を押し当て、振り切ることができないよう力を殺した。細剣部分は柄から飛び出るため、ミヤからもらった布を巻いていない。つまり、剝き身の刃に自ら当たりに行ったのだ。
力が相殺されたのもあるが、俺が躊躇ったのもある。
身体を押されて、空いた隙間に足をねじ込まれた。
「ぐふッ…」
肺の空気が一気に押し出され、視界が明滅するなか、
なんとかレイの剣戟に合わせてキメラを構える。
連続攻撃を捌く自信がなかったので、少し宙に浮きながら受けることで思惑通り大きく吹き飛ばされることに成功した。
壁面に激突する前になんとか受け身を取り、キメラの斧槍を引き寄せて回収する。
右手には斧槍を、左手には細剣を持ち、しっかりとレイを見据える。
レイの額の出血は思いのほか多く、右目にかかってしまっている。
「おいおい、前見えてるのかそれ」
「ああ、視界は良好だぜ」
「そうかそうか」
右目が見ているのは左側。
故に俺は執拗に左側から攻撃をしかける。
槍で突き、斧で薙ぎ払い、攻撃の隙間を細剣で埋める。
レイは流石に俺の相棒だ。
あの大きな大剣で見事に攻撃を受けきっている。
「くっ…強いな、レイ!」
そんな苦戦しているような演技をしながら、連撃のペースを一段階上げた。
「舐めんな、狙いは読めてんだよ!」
今の速度を限界のように見せて、慣れたころに加速する作戦は通用しなかった。
レイの俺への評価が高すぎるので、俺の相棒がこんなに弱いはずがないとか思っていそうだ。
「じゃあ、本気で行くぞ」
「ああ、来いッ!!」
俺は先ほどのように斧、槍、細剣での攻撃を繰り出し、純粋に速度を上げる。さらに槌の部分での打撃や、体術を組み合わせてレイを追い立てていく。
極めつけは、炸裂機構だ。
左腕の下からカートリッジが飛び出すように装備を改造していた。これで両手が塞がっていても炸裂機構を使用できる。
「ッてめ…!」
目ざとい、俺が連携の中でこっそりレバーを引いたことがバレた。
「だが遅い!」
炸裂機構の推進力を乗せた斧の横振り。
脅威の膂力で獣すらも両断する一撃を受けられたが、一撃では終わらない。
推進力を利用して、何回も横回転しながら斧をレイに叩きこむ。
何かが軋むような音がした。
大剣が折れる。
そう判断したレイは、俺のように飛び上がり、吹き飛ぶことで逃れようとする。
だが、この武器は普通の武器ではない。
ミヤが俺のために作ってくれた特別な武器なのだ。
「逃がさねえ!」
レイが空中にいる間にもう1回転、勢いを付けて斧を投擲した。
空中では避けようがない。大剣ごしではあるが、レイはダイレクトに斧を受け、苦悶の表情を浮かべる。
「多段炸裂機構だ」
最後にもう一度レバーを引くと、斧から爆発が起こり、レイを地面に叩きつけた。
天井付近から地面にぶつかったレイは、大きくバウンドして、そのまま床に転がる。
「やべ、殺したかも」
俺はレイに蹴られた腹が死ぬほど痛い。多分どこか折れてるか潰れてる。
何とかレイのところまでたどり着くと、白目で気絶しているが、息はしている相棒があおむけで転がっていた。
目立つ外相は、やはり額の切り傷。結構深いのか、まだ血が止まっていない。
「俺はな、肉虫も持ってきていたんだ」
ポーチから丸い肉虫を取り出し、レイの傷口にねじ込む。
痛いのか眉をしかめていたので、もっとねじ込んでおいた。
「あ」
そういえばと思い、レイの身体をまさぐる。
あった。
応接室の鍵だ。
これでもうすぐこの余興も終わる。
誰もいないダンスホールは、静かで広い。
念のため、声をかけてみた。
「エフテル、アルカ、いないのか?今がチャンスだぞ」
返事はない。
一体いつ出てくるのか恐怖であるが、ビビっていても仕方ない。
俺はなんとなくレイの手を自分の胸の上で組ませてやってから、痛む腹を押さえてゆっくりと1階の応接室に向かった。
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