284 チョークブラザー
階段を上っている最中に、再び針による攻撃が俺を襲った。
今までも、ここに来るまでに何人もの黒装束を倒している。しかしそれまでとは違う、鋭い投擲だった。
「エフテルか」
掴んだ針は、金色に輝いていた。
すぐに投げ返してやろうとしたが、流石元暗殺者。どこから投げられたのか分かりにくいし、投げたであろう場所にはもういない。
「…厄介だなあ、本当に」
“月の果実”のように、“黒星”とレイも敵対していると判断するべきだ。
アーシさんからの刺客には負けない。トラップも、恐らく問題ない。
だが、相棒と、自ら手塩に掛けた弟子たちだけは少しだけ苦戦するかもしれない。
階段が突然倒れ、急斜面となったので手摺の上を歩く。
2階に到達したところで、ガラスが割れる音とともに、目の前の壁に穴が空いた。
慌てて窓から見えない場所に身を隠す。
「ロンタウまで敵か…ッ!」
ガラスの音は聞こえたが、銃声は聞こえなかった。
つまり、どこからか超長距離射撃をしている。
今の一撃は手心だ。わざと外し、存在を教えてくれたのだ。
西側からの狙撃だったということは、逆側の部屋に隠れれば射線は通らない。
部屋に飛び込むと、目の前を拳が掠めた。
「流石お嬢。ドンピシャじゃねえか」
その1室には、コウチとカーリが控えていた。
「よう、2人とも。1週間ぶりだな」
「よ、お師匠さん。まさかお師匠さんと戦うためにこの1年鍛えられてるとは思わなかったぜ」
「それは俺もだよ」
可能性の1つとしてだけ考えていたが。
「カーリは良いのか?」
部屋の隅でお行儀良く座っているカーリは目を伏せた。
「わたくしは、全て知っておりますので。ロンタウさんと協力して、この部屋にお師匠様をおびき寄せただけで、もう良いでしょう…」
カーリは知っている。己の父が脅しで殺すといっているわけではないと。この勝負に俺が敗北すれば、間違いなく命を奪う。そんなことに手を貸すことはできないと。
「ま、なんとなくお嬢がやる気なくなるペナルティがあるってのは分かる。だが、ここまでやってきたんだ。腕試しさせてくれよ」
コウチは槌を持っていない。それどころか上裸だ。
「…まさか俺にも脱げって言ってる?」
「当たり前だろ!」
熱血な…。
まあ、武器で殴り合わなくていいのは気が楽か。
渋々服を脱ぐと、カーリが赤面していた。別に初めてでもないだろうに。
「へ、なんだかんだ良い筋肉してるぜ」
「お前の方が凄いよ。ウエカ村長並みじゃねえか」
出会ったころは細身の少年だったのに…。
「お師匠さん。もう言葉での会話はナシだぜ。あとは肉体言語だ!」
「相変わらず暑苦しいなお前は!!」
会話しながら、先ほどショウに行ったことを再度実行する。
姿勢を可能な限り上下させずに移動することで、相手の距離感を狂わせる。
注視していなければ、接近したことにも気づけずに攻撃を受けてしまう、はずだった。
「ん、手加減は不要だぜ」
「もうお前化け物だよ!」
しっかりと顎を捉えたはずだったのだが、奴の首の筋肉は強靭で、一切揺れなかったらしい。
お返しとばかりに振るわれた拳をクロスガードで防ぐと、骨が軋んだ気がした。
「二代目暴腕はお前で決まりだな」
「照れるぜ」
立て続けにコウチの拳が振るわれる。
左、左、右、横から、そして回し蹴り。
俺は全てを避けながら、少しずつ攻撃を加える。
屈んで拳をコウチの厚い胸板に打ち付け、回し蹴りは跳躍して避けて、逆に飛び蹴りをお見舞いする。
顔面で蹴りを受けたコウチはよろめきながら鼻血を噴き捨てた。
「レイさんが力なら、お師匠さんは速さとか技だな」
「そうだぞ。俺は技巧派の“マルチウェポン”だからな」
「流石、俺の最愛のお師匠さんだぜ…!」
突撃してくるコウチの懐に深く潜り込み、肘を鳩尾に深く突き刺した。ここは急所。どれだけ筋肉を付けようと、これで、
「何ッ!?お前!!」
「お師匠さんの攻撃は、死ぬほど重いが、レイさんよりは軽い!!」
顔を真っ青にしながら、コウチが俺を抱きしめ、地面に引き倒した。
肘をそのまま取られ、本来曲がらない方向に力を加えられる。
「コウチ!」
「来るなカリシィル!」
堪らずカーリが駆け寄ろうとしてくるが、それは俺が制する。こんなことでアーシさんに負け認定を喰らったら堪ったものではない。
「行くぜ、お師匠さん」
身体を捻り、コウチの首に足を掛けた。
「良いぞ、我慢比べだ」
コウチは俺の腕を折りに来ており、俺は足でコウチの首を絞める。
ビキッという本来鳴らないはずの音が脳内に響いた。俺の腕の筋が悲鳴を上げている。
「強くなった、なぁ、コウチ!!」
「せ、せめて…せめて…!お師匠、さんに成長したとこ見せんだよ…!」
俺の身体はどんどん赤く、コウチの顔はどんどん青くなっていく。
「兄貴みてえだって、思ってん…だ、尊敬してる、一生届かねえ…でも…、でも…!」
そのまましばらく固め合う。
ゆっくりとカーリが近づいてきて、俺の肩を叩いた。
「お師匠様。落ちています」
見ればコウチは笑顔のまま意識を失っていた。
俺自身、必死になりすぎて気づいていなかった。
「俺も、お前のこと弟だと思ったことは、沢山あるよ」
痛む腕を軽く振りながら、立ち上がった。
その辺に落ちていた服を着ながら、カーリに訊ねる。
「もしかして、俺に勝ったら褒美があったりすんのか?」
「ええ。お師匠様を好きにしても良いそうです」
「はは、負けたら殺すとか言ってるくせに、どの口が…」
衣服を整え、コウチにも服をかけてあげる。
「カーリ、コウチを頼んだ」
「はい。お師匠様もお気を付けて。特に、姉妹と、レイ様に」
「だなあ…」
レイとは恐らく五分だし、姉妹は本気で対人となったら分からない怖さがある。
「ま、心配すんな。親の怖さは一番カリシィルが知っていると思うが、俺の強さも知ってるだろ」
「…はい」
泣きそうな顔のカーリを軽く抱きしめると、小さく息が漏れた。
「あの、村に帰ったら、また…」
「ああ。そうだな。だから、信じて待っててくれ」
カーリの長い黒髪を何度か撫でてから、俺は部屋の扉を開けた。もちろん壁に隠れて、扉だけ。
すると、やはり扉が開いた瞬間に銃弾が床にめり込んだ。
「死ぬだろこれは」
狩り用の弾丸ではないにせよ、当たれば無事ではすまない。
さて、どうやって出ようか。完全に出口がロックされている。
「あ、面白いこと考えた」
ロンタウは狙撃するとき、尋常ではない視力でこちらを視認して狙撃してくる。なので、変なことをすれば狙撃が止まるはずだ。
「カリシィル、ちょっとあっち見ててくれ。ああいや、別に見ててもいいけど」
言いながら、まず上着を部屋の外に投げ捨て、次にズボンを投げ捨てる。最後に下着をポイっと投げて、全裸でキメラを持って部屋から出た。
「…勝った」
銃撃はない。
念のためキメラを持ったが、使わなくて済んだ。
ははは、良い歳こいて男性免疫ゼロでやんの。
俺はしばらく全裸のまま、館を練り歩いた。
面白いと思っていただけた方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします
作者のモチベーションにつながり、更新の力になります
ぜひよろしくお願いします!
あと、評価じゃなくて感想でも喜びまくります!




