136 ヒシガツマ防衛戦〜作戦会議③
「で、ロンタウ。まさか本気で俺の戦力をあてにしてるわけじゃないだろうな」
小声で訊ねる。
「指導役のことは、片腕でも並みの狩人よりは強いと思っているが、今回は違う。普通の獣ならば良し、例のヤツならばヒシガツマ村の皆には即刻避難してもらう。その判断を少しでも早くするために指導役には来てもらう」
「なるほど、な」
最悪のケースは、俺とロンタウで決死の足止めをしている間に“四極”がヒシガツマ村で避難を呼びかけるといったところか。
「ロンタウから、シタコ村長にはこのあと伝えてくる。既に避難に時間のかかるような人たちから順にアオマキ村に一時避難してもらっている。その範囲を少し広げてもらおうってな」
そういえば俺達がヒシガツマ村に来たとき、シタコ村長は船の手配に大忙しだった。念には念を入れた一時避難が功を奏している。
「普通の新種の獣であることを祈るばかりだな」
「なに、もしそうじゃなくとも、指導役を道連れにするつもりはないさ。2人ならやれるよ」
それだけ言って、ロンタウは早速シタコ村長の方に向かった。
入れ替わりで“四極”の面々が俺の下にやってくる。
「聞こえてたけど、心中計画?」
エフテルが物騒なことを言う。
「違うよ、そんなんじゃない。ここで死んだらレイに本気で殺されるよ」
コマンダー戦。“四極”の皆と運命を共にしようとしたとき、レイには命を救われたが、そのあとすごい剣幕で怒られた。あと、今でもネチネチ言われている。さっぱりした性格のアイツからするとここまで根に持つのは珍しい。
「死んだら殺せないでしょう。そういう冗談で話から逃がすつもりはないよ」
後ろからはアルカがしがみつき、物理的に逃がさないようにしている。
「師匠が死ぬときはあたしらも死ぬときだからね。少なくともあたしら2人は」
「わたくしたち4人とお師匠様は運命共同体でなくて!?」
気持ちは嬉しい。だが、ここらでハッキリ言っておく必要がある。
「これから少し真面目な話をするぞ」
アルカも正面に動かし、4人の前に立つ。
「先ほどの話を聞いていたと思うが、最悪お前たちだけでヒシガツマ村に戻ってもらうことになるかもしれない。それは、俺達だけの問題じゃない。このヒシガツマ村に住んでいる人たちの命がかかっている。もし、残りたいなんてごねるやつがいたとすれば、それは俺の指導不足だ。分かるな?」
別に英雄である必要はない。だが狩人は人のために活動するべきだ。専属狩人であればなおさら。
「でも、あたしたちを狩人にしてくれたのは師匠で、師匠がいなければきっとあたしたちはここにはいなくて…」
エフテルが言いたいことも分かる。ヒシガツマ村の住民より恩人の命の方が重いと言いたいのだろう。しかし、それを口に出したら俺の弟子ではいられなくなる。
それにだ。
「俺を失うことばかりを恐れているようだが、仲間を失うことを考えたことはあるか?毎回4人無事に帰れるとは限らない。例えば、1人が死んだら残りの3人は後を追うのか?1人が他の3人を生かすために自分を犠牲にしたとしても、それを無駄にするのか?」
「それは…」
コウチについては俺は心配していない。アイツは将来親の跡を継いで自分の村の専属狩人になるつもりだし、彼女もいる。
カーリは多少俺に傾倒しているところはあるが、実家のこともあるだろうし、きちんと狩人養成所も出ている。それに何より物事を客観的に見ることができる子だ。
その証拠に、コウチとカーリは今の話を受けて、辛そうではあるが、きちんと受け止めている。
問題は残りの2人だ。
「チームは運命共同体で、家族みたいなものだ。でも、欠けることはある。それこそ、昨日の尾塊狼のときや炎愛猿のとき。エフテルが死んでいたらアルカはどうしていた?」
「…お姉ちゃんが死んだらなんて考えられないよ」
どちらも突然の出来事で、エフテルが自分を犠牲にしたとかではない。心の準備ができない別れ。だが、狩りの中ではあり得ることだ。
「実際、仲間の死をきっかけに解散するチームも多い。だが、狩人は仕事だ。割り切ることも、覚えてくれ…る必要はないか。だが、心の準備だけはしておいてくれ」
いつか誰かが死ぬかもしれない。今回はその可能性がいつもより少しだけ高い。それだけのことなのだ。
「まだ出撃までは時間がある。もちろん俺は死ぬつもりはないし、お前らを死なせるつもりもない。だが、その可能性がある、ということだけ覚えておいてくれればいい」
カーリとコウチが頷くのは見えた。
アルカは不安そうに姉であるエフテルに視線を向け、そのエフテルは下唇を噛み締めながらこちらを見ていた。
「じゃあ、各自招集がかかるまでに準備をして、休んでいてくれ。またな」
俺はテントから出る。
偉そうに語ってしまったが、俺もそんな覚悟はできていなかった。
チームの相棒、レイが死ぬことなんて考えたことはなかった。
右腕を失ったときは生きがいであった狩人を辞めることとなり、半ば自暴自棄になり旅に出た。
そして新しい自分の拠り所となった“四極”が全滅の危機に瀕したときは、運命を共にしようとした。
仲間が死んだときにどうするか。仲間を家族に置き換えてもいい。この問いに答えは存在しない。
だが、考えたくないことが起こりうるこの職業において、事前にイメージしておくことで、不測の事態に対して二次被害を抑えることができる。
「あいつらの誰かが欠けたら…」
問うた俺が逆に考える。
自殺はしないだろう。深くかかわった人間が増えすぎた。
だが、
「狩人に関わることは二度とないだろうな」
1人でも欠けたら、俺は指導役を続けられる自信はない。
だから最善を尽くすのだ。
欠けたらどうするかを考えてみる必要はあるが、実は答えを出す必要はないのかもしれない。結局はそうならないように全力を尽くすのが先だ。
別れが来た時に、心の準備をしていたとしても受け入れがたいことはある。そのときに心が壊れてしまわないように、覚悟だけはしておけばいい。
「んー、やめやめ」
考えれば考えるだけ不安になる。今は俺にできることをしよう。まずは俺にできる準備をしよう。
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