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137 ヒシガツマ防衛戦〜作戦会議④

指導役としての役割ではない狩りは久しぶりだ。

この片腕でできることを模索しつつ、事前の準備を進めていく。

道具屋から出て、次は船着き場に行くこうと足を向けたとき、声をかけられた。


「先輩!」

「先輩?」


誰だ俺をそんな呼び方するのは。

振り向くと、そこにいたのは“豊穣の奏”の2人だった。


「先輩ってなんだ?」


用件を聞くより、先にそっちが気になってしまう。


「ええと、師匠…ではないですし、名前で呼ぶのは馴れ馴れしい気がしますし…先輩狩人なので、先輩…ダメですか?」


ハルゥに上目遣いで見つめられて、断れる男はいるのだろうか。


「別に構わないけども」


俺がそう言うと、不安そうだった2人は、ぱあっと表情を明るくした。


「先輩じゃーん!」

「これからもよろしくお願いしますね、先輩」

「おう…」


なんかくすぐったいが、嫌ではない。


「それで、用件は?」


どうやら俺を探していたようだが。


「先輩、作戦会議の途中でいなくなっちゃったじゃん?だからそのあとの話を伝えなきゃじゃん」

「あー、そうか、面倒かけたな」


なんとなく弟子たちに顔が合わせにくくなったのと、お互いクールダウンが必要かと思い、離席したが、よくよく考えれば話の途中だった。


「とりあえず、作戦は夜明けからになりました。ヒシガツマ村の皆さんとわたしたちが村近辺まで断慈鬼を引き付けて相手します。新種の獣は、ロンタウさんの射撃で足止め、断慈鬼と距離が離れたら交戦開始だそうです」

「そうか、ありがとう。“四極”の役割とかは何か決まったか?」

「戦闘には加わるな、ロンタウさんか先輩に何かあったときのみ、回収要員として逃げに徹しろ、とのことですね」


回収要員ね…。


「ちなみにそれは誰が?」

「ギルドの方です」

「だろうなぁ」


俺とロンタウは自分に何かあったときに回収してほしいとは思っていない。テントの中で話をしたとおり、俺達の救助よりもヒシガツマ村の住民の避難を優先させてほしい。

高い等級の狩人を大事にしようという魂胆なのだろうが、どこまでもあのギルドの観測員とは方針が合わないな。


「まあ、了解。ありがとうな」


いくらギルドから指示されようと、狩場に出てしまえば現場判断だ。好きにやらせてもらう。


「その、ごめんなさい」

「え?なにが?」


急に2人に頭を下げられて、何のことか分からず困惑してしまう。


「わたしたちがもう少し役に立てば、そちらのお手伝いに行くことができたのに…」

「ああ、そういうことか。大丈夫、人手不足は仕方がない。そもそも2級以上の狩人なんて数が少ないんだから。2人だけで3級になってるだけですごいと思うよ」


俺がそういっても、ハルゥとミーンは気まずそうにしている。


「その、今までは昇級に拘っていなくて、お金になる依頼ばかりを請けていて。もしちゃんと色々な経験を積んでいれば、今頃は2級にはなれていたんじゃないかってミーンと話してて…」

「あー…いや、結果論じゃないか?」


活動方針はそれぞれ自由だ。

“四極”は実績重視だが、安全に金になる依頼ばかりを請ける狩人もいる。

それこそ比較的安全に狩ることができて、大きな収入になる茸人だけを狩る狩人なんかもいて、流石にそこまでいくとキノコハンターなんてあだ名がついたりする。


「でも、もっと早く人のために狩りをすることの良さに気が付ければ、断慈鬼なんかに苦戦せず、先輩たちと肩を並べることができたのかなって思うと、どうしても申し訳ないじゃん…」


あのミーンが落ち込んでいる。俺はそんな彼女の肩をポンと叩いた。


「方針に良し悪しなんてない。人のためにばかり働けば、金が足りず、生活に苦慮し、装備も更新できなくて結局低級止まりになることもある」


ミーンが顔を上げてくれたので、今度はハルゥに向き直る。


「狩りやすく、利益になるものがあるなら、資金を貯めて装備を充実させることもできるし、何より安全に少しずつ実績を積むことができる。どこも悪いことなんてない」


“豊穣の奏”は、アオマキ村の茶屋で聞いた通り、方針を変えることにしたようだが、今までの活動方針が悪いわけではない。


「“四極”には俺がいて、危険な依頼を受ける前に止めることができた。だが、君たちは2人きりで、そういうストッパーがいない。実績だけを求めると勇み足になることもありえる。そこまで気負わず、いつもより少しだけ、困っている人に手を貸すくらいのスタンスで良いんだよ」


偉そうに語っているが、実際功績を焦った末が4級の昇格依頼、コマンダー戦だったと思っている。俺も反省しているんだ。


「ということだから、今回は俺たちに任せてくれ。最大規模の断慈鬼だって相当の脅威だ。2級だって負けてしまう可能性がある。そっちは任せたからな」


こちらが新種の獣を討伐したとして、断慈鬼を討伐できなければ俺達は帰る場所を失う。


「とまあ、偉そうに語ってしまったが、俺は君らの師匠ではない。それこそ先輩のアドバイスくらいの認識でいてくれ」


ちょっと偉そうだった気もする。現役時代に苦労しなすぎたせいで、指導役になってから視野が広がった気がする。

これも全て、俺を師匠と慕ってくれる4人のおかげだ。

だからこそ、今回ばかりは死力を尽くさねばなるまい。

少し自分の世界に籠ってしまったが、2人を見れば少しは明るい顔で何かを相談している。

もう大丈夫そうだな。


「作戦について、教えてくれてありがとうな。じゃあ、また」

「待つじゃん!」


俺が去ろうとすると、ガシッと右腕をミーンに掴まれた。


「な、なんだ?」

「先ほど、ストッパー役がいないと、功を焦って危険な目に遭うって言っていましたよね?」


今度は左腕にハルゥがしがみつく。


「あ、ああ。言ったな」

「じゃあそのウチらのストッパーに、先輩がなるじゃん!」

「いやならないじゃん…?」

「なんでじゃん!?」


そんなビックリされても困る。むしろビックリしたのは俺だ。


「“四極”の指導だけで手いっぱいだよ。師事するなら、他の狩人を探すと良い」


生憎、紹介できるほど顔が広くないので、突き放すようになってしまうが…。


「たまに、わたしたちが不安なときに、ちょ~っとだけアドバイスをもらうだけですから!狩場についてこいとも言いませんしっ」

「そこまで負担が減ると、今度は俺に頼らずとも2人でやっていけるんじゃないか?」

「頼れる相手がいるってだけで安心じゃん!」


なかなかに食い下がられる。

俺はこの後、夜明けの作戦開始に向けて準備をしなければならない。

こんなところで長居もしたくない…。

それに負担も大してかからなそうだし、エフテルとアルカに修行を付けてもらった恩もある。


「分かった、不安があれば、なんでも聞いてくれ。付きっきりというわけにもいかないが、アドバイスしよう」

「やったー!」

「嬉しいじゃん!」


掴まれていた腕が解放され、代わりに左右から抱き着かれた。


「…」


なんか、女性に抱き着かれるのにも慣れてきたな…。

今どきの子たちは感情表現が激しい。

ため息を吐くと、耳元から甘い声が聞こえた。


「先輩にだけですよ…?」


何か濡れたものが一瞬耳の縁をなぞり、離れていく。


「!?!?!?!?」


俺は左耳を抑えて、飛びのいた。


「なにをした!?」

「ふふふ、なにも?」


ハルゥもミーンもニタニタと笑っている。


「むッ」


ミーンがサッとハルゥの前に立ちふさがった。

そして何者かの攻撃を受け止め、そのまま投げ飛ばす。


「このエロ女め」


ハルゥ目掛けて飛び蹴りをしたのはアルカだった。

投げ飛ばされても、空中で態勢を立て直し、綺麗に着地する。

その後ろには、エフテルとカーリとコウチが控えていた。


「流石にギルティですわ!お師匠様はわたくしたちのお師匠様なのですわよ!」

「お師匠さんばっかずりいぞ!」

「コウチ?」

「いだだだだだ!」


ビシッとハルゥとミーンを指差したカーリが、そのままコウチの首を指で突き刺した。 


「ここは退却だね。じゃあ、先輩、アオマキ村に戻ったら、よろしくお願いしますね」

「ウチらも明日頑張るじゃん!」


捨て台詞のように言葉を残して、“豊穣の奏”は走り去っていく。


「逃がすか!」


エフテルはその背中に石を投げている。

危ないからやめろ?


「お師匠様、今きれいにいたしますね」


カーリが駆け寄ってきて、明らかに見ただけで分かる高価なハンカチで俺の耳を拭いた。


「やっぱりあの女、今から殺しにいくか」

「アルカさん、それやっちまったら明日ヒシガツマ村が滅びる!」


そういう問題でもないが。

ともあれ、なんだか元気そうでよかった。テントの中ではかなり厳しい問いかけをしてしまった自覚はある。


「悪は滅びた」


ある程度石を投げて、満足したエフテルも戻ってきて、俺の元に“四極”の皆が集まる。

エフテルが深呼吸して、俺の目を見て言い放った。


「さて、師匠、お話があります!」


俺の前に4人が並び、真面目な顔をしていた。

きっと、さっきテントの中で話したことへの回答だろう。

別に回答を求めるつもりはなかったが、何らかの覚悟が決まったことは伝わった。

そうであれば、こちらも姿勢を正して聞かねばなるまい。


「分かった。一旦テントに戻ろうか」


中央広場には、俺達の寝床として設営されたテントがある。

話はそこで聞こう。

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