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129 ヒシガツマ防衛戦〜増援

「何が起こったかよくわからねえが、お嬢とアルカさんの作戦なんだろ!?」


興奮しながらカーリの返り血を拭ってやるコウチ。


「わたくしの作戦というより、アルカさんの追い込み猟ってだけですわよ」


砂煙の中では何も見えない。

それを目くらましとして利用していた尾塊狼だが、特別な器官を備えているわけでもなし、自分も当然視界が悪くなる。

そんな中、命の危険を感じ、全力で追ってくる相手がいる状況で、正常な判断ができるわけもない。

アルカは砂煙の中から尾塊狼が離脱しそうなときは炸裂機構を使って押し留め、カーリは騒慌虫の鳴き声を頼りに待ち伏せをして、何も見えないながらに回転刃を押し込んだのだ。

説明を受けたコウチは、すげえすげえと興奮していた。


「まあ、わたくしからすればコウチ、あなたの踏ん張りとアルカさんの敏捷性の方がすごいと思いますけども。騒慌虫の鳴き声を聞くなんて狩人なら誰でもできますから」


確かにカーリの言う通りではあるのだが、咄嗟の機転が素晴らしかった。敵味方の視界を塞いで音を頼りに戦うなど。


「でも一番すごいのはお師匠様ですわ!あの何も見えない状況で騒慌玉を見事に命中せしめるのですから!」

「それはそうだね」


相変わらずカチカチとレバーを引いているアルカも俺のそばまでやってきた。


「流石師匠。師匠に頼んだカリシィルお嬢様の判断も良かった。師匠に頼れば間違いなし」

「いや、今回は俺はほぼ何もしてないし、できなかったから…」


まあ苦戦するだろうとは思っていたが、ここまでだとは思わなかった。もっと事前に注意点や対策を教えられればなどと後悔してしまう。


「そこの芋虫は復活しましたの?」

「誰が芋虫だって?」


と、言いつつもやはり蹲っているエフテル。


「いつも騒慌玉を投げるのは得意とかなんとか言っているくせに肝心なときに役に立たないのですから」

「誰があんた達の窮地を救ってやったと思って!」

「あら、うちのコウチなら砂潜みの空気砲くらいどれだけでも耐えられたかもしれませんわよ?」

「もう絶対無理して助けたりしてやんないわ」

「ええ、無理は良くありませんわ。死なれたら困りますのもの」


おや?喧嘩に見えたが、実はカーリなりの心配だったのか?

最後に言い放ったその言葉には少しだけ穏やかな雰囲気が込められていた。


「ところで、アルカさんはさっきから何をカチカチやってるんだ?」


コウチが指摘する。

するとアルカは俺に細剣を渡してきた。


「師匠、炸裂機構壊れちゃった。最後、トドメを刺そうと思ったのに動かなかった」

「んー?」


なるほど、それで不満げだったのか。


「こう見えて武器には詳しい、見せてみ」

「こう見えてもなにもオタクじゃんっあ!」


うるさい芋虫を軽く足先で小突いて、武器を眺める。

あー、噴射口のところがちょっと詰まってる…というか溶けてる?


「アルカ、これあれだ、炸裂機構を連続で使いすぎだ」

「あーー」


アルカとカーリとコウチが納得したように頷いた。


「本来必殺技みたいなものだから、連発は想定されていない。アルカみたいに炸裂機構を移動方法に使う奴なんて見たことがない。だから武器がちょっといかれちゃったんだな」


細剣をアルカに返すと、アルカは細剣に小声で「ごめんね」と言っていた。

さて、これからどうしようか。

とりあえず他の獣が寄ってこないように尾塊狼を解体して、そのあとが問題だ。

エフテルは戦闘不能、アルカの武器も不調。

一度帰りたいところだが、先遣隊からここを引き受けた以上、戻るわけにもいかない。


「お師匠さん、俺とお嬢が…」


俺の意図を察してコウチが口を開いたところで、元気な声が砂漠に響いた。


「じゃーーーーーーーん!」


助かったー!


「おーい、ここだ!」


俺は居場所を知らせるように大きな声を出す。

すると、割と近くの砂丘から、2人の女性狩人が姿を現した。


「ドッカンドッカンいってるから、ちょっと心配したじゃ…って、エフテルちゃん大丈夫じゃん!?」


ミーンが後輩のエフテルが芋虫になっているところに駆け寄る。芋虫は軽く手を挙げて返事をしていた。

なるほど、アルカの連続炸裂機構を聞きつけてここまでやってきてくれたのか。


「“豊穣の奏”のお二人は、どうしてここへ?」


カーリが訊ねる。

準備ができ次第、“豊穣の奏”もヒシガツマ村の防衛に加わるとは言っていたが、まさか最前線まで来るとは思わなかった。

カーリの問いには、ハルゥが答える。


「ロンタウさん…ヒシガツマ村の専属狩人さんが、皆さんが戻らないのを心配しててね。夜に戻るって言ってたのにって」


ハルゥが相変わらずの上目遣いでこちらを非難するような視線を送ってくる。


「ダメじゃないですか、女の子との約束を破っちゃ。怒ってましたよ?」


胸をツンと押される。


「女の子…?38歳が…?いてッ」


脛を芋虫エフテルに蹴られた。

周りの女性陣からも冷たい目線を送られている。

助けて。


「というか、あのボイン先輩、38歳なんじゃん!?わけー…」


ミーンの能天気な声が話の流れを変えてくれる。

まあ結果としては、ロンタウの心配は当たったわけだ。


「悪い、エフテルとアルカが戦闘不能だ。ここを代わってもらうことはできるか?」

「お願いしますわ」


俺とカーリが頭を下げ、コウチも続いて頭を下げる。アルカは首をわずかに下げた。


「もちろん、そのつもりで来ましたから。ここからはわたしたち、“豊穣の奏”がここを引き受けますっ」

「じゃーん!」


ビシッと敬礼するハルゥに、ミーンも続く。


「ありがとう、キャンプはそこに展開してあるから、使ってくれ。俺たちは一旦村に戻るよ」

「じゃーん!エフテルちゃんも、お大事にね?」


ミーンが倒れているエフテルの頭を軽くなでてから、キャンプに向かう。


「アルカちゃんも戦闘不能?大丈夫?」


ハルゥもミーンに習ってアルカに手を伸ばすが、アルカは回避する。


「大丈夫。無傷。武器が壊れただけ。触らないで」

「あはは、相変わらずだなあ」


ハルゥは気にしていない様子で笑い、俺に向き直る。


「道中に危険な獣はいなかったので、大丈夫だと思います。皆疲れてると思うので、無理せずゆっくり戻ってくださいね」

「ありがとう、助かるよ」


改めて“四極”は“豊穣の奏”にお礼を言い、最前線を後にする。

俺達を見送って手を振ってくれているハルゥとミーンに軽く手を振り返して、ヒシガツマ村を目指し砂漠の道を歩く。

ちなみにエフテルは俺が背負っている。歩く振動が辛いとのことなので、担架で運ぼうかとも思ったのだが、


「師匠がおぶってくれればいいよ」


とのこと。

なら自分で歩けよと思いつつも、さっき蹴ったり、触診とはいえ身体を触った負い目があるので、素直に背負うことにした。

今、獣と遭遇するのは非常に困るなあと思いながらヒシガツマ村へ歩みを進める。


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