127 ヒシガツマ防衛戦〜尾塊狼①
「皆様、戦闘準備を!」
カーリが号令をかける前から、他の3人は動いていた。火を消し、武器を持ち、岩陰のキャンプから飛び出した。
「師匠、砂潜みと尾塊狼の概要!」
エフテルが武器を構え、敵に備えながら叫ぶ。
自分の無知を棚に上げて偉そうに言いやがる。
「詳しい説明はあとだ!足元に気をつけろ!砂潜みは砂中から奇襲してくる小型の獣だ!」
ちょうど言ったころ、エフテルが吹き飛んだ。
「はッ!?」
吹き飛んだエフテルは何が起こったのか理解できないまま、やわ
らかい砂の上を転がった。
幸い追撃はなく、その場ですぐに体制を整えて近くの岩場に上る。
「お姉ちゃん!」
「大丈夫!なんか空気の塊みたいなので吹っ飛ばされただけ!」
そう、それが砂潜みだ。
まだカーリを除く“四極”の皆は奴らの姿を捉えられていないようだが、既に周囲には砂潜みが名前のとおり潜んでいる。
数は徐々に増えている。尾塊狼より先行して、俺たちの足止めを行うつもりのようだ。
「いた!」
エフテルが針を投げる。
砂中から飛び出した小さな影に見事に命中。
針に貫かれて姿を現したのは、50cmほどの特徴的な尾を持つ猫だった。
「それが砂潜みですわ!砂に潜み、尾だけを地上に出して獲物を攻撃する獣です!尾から放出される空気砲は先ほどのエフテルのように獲物を吹き飛ばす威力があるので、注意してくださいまし!」
カーリに言われ、あたりに視線を向ける弟子たち。
ただでさえ見にくい砂潜みだが、夜の闇に紛れてなお見にくい。だがよく目を凝らすと、砂の中からゆらゆらと伸びる尾が見える。
砂潜みは、砂の中に頭から飛び込み、尾だけを出して獲物を攻撃する。
「コイツか!」
コウチはすぐ傍に潜んでいた砂潜みの尾を掴み、引っこ抜く。
「naa!?」
突然空中に放り投げられた砂潜みは驚きの声を上げ、そのままコウチの槌に打ち上げられ、落下し絶命した。
「なるほど、そういうことか」
アルカも尾を見つけられたようで、尾の根本あたりの砂中に細剣を突き刺す。すると、ゆらゆらとしていた細い尾は、くったりと地面に倒れた。
それでコツを掴んだのか、次々と砂中の砂潜みを処理していく
。
「nyaaaaa!」
時折砂潜みの空気砲を喰らい、宙に舞うが、驚くべき体裁きにより、空中で方向転換して次の砂潜みを狩る。
「アルカさん強ぇ…」
コウチが言う通り、アルカは次々と砂潜みを討伐していく。
逃げようと地上に飛び上がった砂潜みは、エフテルが撃ち落とす。素早い相手には滅法強い姉妹だ
「お師匠様、尾塊狼、そろそろ来ますわ!」
砂潜みの群れを3人に任せ、見張りを続けていたカーリが叫んだ。
俺は頷き、応えるようにいつもどおり獣の概要を説明する。
「尾塊狼は、砂潜みのように尾から空気を放出できる2、3mくらいの獣だ!ただし砂潜みのように砂中に潜ることはなく、尾からの空気をうまく使った戦い方をする!」
“四極”の皆は耳だけをこちらに向け、既に全員の目視できる距離にまで迫った尾塊狼に向けて武器を構えた。
だから俺は説明を続ける。
「尾にためた空気で一瞬浮いたり、飛びかかると見せかけて急停止したり、かなりトリッキーな動きをする!あとは、砂潜みのように空気砲を撃てるが、直接外敵に撃つ他、砂を巻き上げて目くらましをしたりする!とにかく1発攻撃を当てることが重要な獣だ、集中しろ!」
素早く、守りが弱い。まさしくアルカを獣にしたような敵だ。コウチの槌による重い攻撃ならば、うまくいけば1撃で倒せるような相手だが…。
「来る!」
コウチが槌を振りかぶり、飛び掛かりに合わせて振り下ろせるようにする。
一番近くにいたコウチに飛び掛かった…と思わせた尾塊狼は急激に尾を膨らませて空中で一瞬急停止する。
「くッ…これがお師匠さんが言った空中機動!」
タイミングを見計らって降り下ろされた槌は空を切り、地面に突き刺さる。
「コウチ避けなさい!」
完全に空振ったコウチに今度こそ尾塊狼の牙が襲い掛かる。
何とか体を伏せて直撃は避けたが、背中に爪が引っ掛かり、砂上に転がった。
「流石に防具が破れてはいないが…結構痛かったな…」
起き上がったコウチは、むくりと起き上がって自分の背中を触り確かめながら呟いた。
尾塊狼はと言えば、直撃しなかったことを理解し、すぐに“四極”に囲まれないように距離を取った。次は誰を攻撃するのか。4人をキョロキョロと見つつ、ゆっくりと砂上を練り歩く。
「お嬢様とコウチくんは相性が悪そうかな…」
エフテルが呟いた。
「いや、相性が悪いとは言えない。確かに攻撃は当てにくいが、当ててしまえば一気にトドメまで持ち込める可能性がある」
俺の言葉にカーリとコウチが頷く。
特にカーリは、回転刃を常に回転させながら体の正面に構えている。あれだけで尾塊狼は攻めにくいだろう。
「速さ対決する?」
“四極”の切り込み隊長であるアルカが尾塊狼に向けて駆ける。人間の全体の中ではトップクラスのスピードで尾塊狼に肉薄するが、尾塊狼は尾から空気を放出し、その勢いを利用してアルカから距離を取った。
「けほっ、さいあく」
アルカは攻撃に失敗しただけでなく、その場に巻き上げられた砂に巻かれてしまった。
そして、今度は尾塊狼がアルカに迫る。
離脱したときと同様に空気砲で加速した突進。
「アルカそっち行ったよ!」
砂に巻かれたアルカは尾塊狼の接近に気づけず、エフテルの声掛けでハッとする。
アルカはバックステップと同時に炸裂機構を起動させ、爆音とともに高速で離脱する。
なんとか攻撃される前に離脱できたアルカに安堵した瞬間、悲鳴が上がったのはエフテルの方からだった。
「こっちに来てたの!?」
砂煙の中から急に飛び出した尾塊狼がエフテルに飛びかかる。
しかも今回はコウチに攻撃したときのような通り過ぎざまの攻撃ではなく、前足でしっかりとエフテルを押さえつけようとしている。
「うわああ!」
針を投げるためには当然振りかぶる必要がある。手首だけで投げた針に威力は乗らない。
結果、反撃する間もなく、エフテルは尾塊狼に押し倒された。
「ziaaa!」
大きな口を開けて、エフテルに嚙みつく尾塊狼。
「くっは…!」
胴体をがっちりと嚙まれたエフテルは苦悶の声を上げた。
「エフテル!」
助けに入りたいが、何もできることがない。
幸い、ヒシゴクガツマ鉱石で補強された防具は、尾塊狼の牙を通さないようだ。しかし、少しずつ、圧力がかかり、ミシミシと嫌な音を立てている。
「お姉ちゃんを離せ!」
アルカが尾塊狼に切りかかるが、またもひらりと避けられてしまう。
尾塊狼は中々嚙み砕くことができない鎧に業を煮やしたのか、追い迫るアルカに向けてエフテルを投げつけた。
予想外のカウンターに面食らったアルカは真正面から投げつけられたエフテルと衝突し、2人でまとめて地面に転がる。
…2人とも動かない!
「コウチ、カーリ、尾塊狼と2人の間に入れ!」
「はい!」
「おう!」
追撃を受けないようコウチとカーリが倒れた2人の間に立ちふさがる。
その隙に俺は気絶しているエルテルとアルカを目指して走る。
無事であってくれ!
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