126 ヒシガツマ防衛戦〜接敵
「あの…どういう状況ですの…?」
「お、カーリ、コウチ!おかえり。無事でよかった!」
爆弾でも使って七色剣山にトドメを刺そうか、と考えていたところで、カーリとコウチが帰ってきた。
「早かったな!」
ここに来るまでに見逃してきた数匹の獣たちを討伐してきたにしてはかなり早い。夜までかかると思っていた。
「ええ、戦闘中に先遣隊の方々が通りがかりまして」
「バトンタッチしてくれたんだよ。ここから先には獣はいないからって」
なるほど、先遣隊の狩人たちがか。あの人達も疲れているだろうに、ありがたい。
「それで、なんでこの2人は涙目で正座してるんだ…?しかも、なんかあそこに七色剣山いるよな…?」
コウチが未だに甲羅に篭って動かない七色剣山を指さす。
「いや、ちょっと狩人としての心構えを今一度しっかりと叩き込まなければいけないことがあってな。すまないが、あそこの七色剣山にトドメを刺してきてくれないか?麻痺していて動けないから、コウチでもカーリでも簡単に倒せる。逆にこいつらには何もできん」
視線をエフテルとアルカに戻す。
2人とも泣きながら頷いていた。
「お願いします、愚かなあたしの油断が招いたこの事態の、尻拭 いをどうか、コウチくん」
「やめてくれ…なんか俺が悪いことをしてるみたいだ…」
コウチは頭を抱えつつ、カートリッジを槌に差し込み、七色剣山
の方へ向かっていった。
「…まあ、とりあえず、情報共有、いたしませんか?」
カーリは助けてほしいような視線を向けてくるエフテルとアルカから目をそらしつつ、俺に言った。
「そうだな、コウチが戻ってきたらそうしよう」
ドカンという炸裂音が響き、七色剣山の甲羅に大穴が空いた。
§
「なるほど、つまり襲撃は一旦落ち着いてきた、ってわけだ」
俺はカーリとコウチに、先遣隊の狩人たちから聞いた情報を伝えた。最初の数日は危険度の高い獣も多く、大変だったが、今は落ち着いてきていると。
「実際、ここに俺とエフテル、アルカがついてからかなり経つが、現れたのは七色剣山2匹だけだ」
討伐した七色剣山は今、エフテルとアルカが解体している。
素材の剝ぎ取りを行っても持ち帰ることはできないかもしれないが、肉であれば今食べることができる。
「カーリとコウチのほうはどうだった?」
俺たちの後方を獣を狩りながらついてきた2人にも状況を訊ねる。
カーリは座って、回転刃に付着した血をふき取りながら、答えた。
「わたくしたちの方でも戦闘は3回、先遣隊の方々が代わってくださったものを含めても4回ですわね。危険度3が2匹、4が2匹、でしたわ」
「それらもほぼ瞬殺だぜ。お嬢と俺のどっちも倒せないような相手はいなかった」
誇らしげに言うコウチの頭に手を乗せると、少し照れくさそうに笑った。そんなコウチの隣で、おずおずと頭を差し出してくるカーリに少し笑いつつ、今度はそちらの方の頭にも手を乗せた。
「そうか、最早危険度3なんて敵ではないか」
危険度4ですら余裕だろう。
勿論、危険度4の上澄みの連中、もしくは絡め手を使ってくる連中には苦戦するかもしれないが、砂漠に厄介な危険度4の獣は思いつく限りでは2種類くらいしかいない。
例えば、茶線花、尾塊狼…。
「お肉取れたよ!焼こ!」
頭の中で獣たちを頭に思い浮かべていると、ずっしりと重そうな肉を持ったエフテルが戻ってきた。
先ほど怒られてシュンとしていたエフテルはもう立ち直っている。アルカはまだ少し落ち込んでいるようだ。あと、微妙にエフテルへの怒りも感じる気がする。
最早砂漠は真夜中と言ってもいい時間となっている。
あんなに暑かった砂漠が、今では肌寒くすらある。
「おお、肉!」
コウチは七色剣山の肉で喜んでいる。
俺たちは獣の肉が意外とうまいことを知っている。特に好んで食べていたコウチなんかからすればごちそうだ。
今日はこれを焼いて食べることになる。保存食は持ってきているが、長持ちするので、悪くなりやすいものから食べていきたい。
「そういえば、お師匠様。夜ですけど、戻れなくなってしまいましたね」
「ん?」
俺の隣で少し寒そうにしていたカーリが呟く。
戻れなくなったと言ったな。
先遣隊と入れ替わったのだから、当然俺たちはここで見張り兼防衛線を敷くこととなる。
「ふふ、ロンタウさんには夜に戻るって言って出てきたではありませんか」
「ああ、そうだな」
何故笑われたのか分からない。
「ロンタウには先遣隊の方から話があるだろうし、心配もされないだろ。そんなにお前たちを頼りなくは思っていないはずだ」
少し笑っていたカーリは、俺の言葉を受けて、キョトンとして、さらに笑った。
「お師匠様って本当に狩りのことしか考えていないというか、真面目な効率重視男と言いますか…」
「褒められてるのか?馬鹿にされてる?」
「いいえ、わたくしとしては都合が良いので、それで、そのままで良いと思いますわ。それに、そんなお師匠様がわたくしたちは好きなんですから」
「おお、ありがとう」
よく分からないが、改めて思い返してみても今のところ“四極”の行動に問題はない。
しかし、俺も馬鹿ではないので、今のやり取りでロンタウに関して何かあることは分かった。
現役時代は、レイや、たまにルミスと絡むくらいで、女性狩人と接することはなかった。というか女性との関わりが受付嬢くらいしかなかった。
きっとその辺の感情の機微への配慮が足りていない…のだと思うが、それを喜ばれているような気もして、正直もう訳が分からなくなってくくる。
「師匠、ほら、もう焼けてるよ」
「お、ありがとう」
気が付けば、結構考え込んでいたようだ。
隣にいたカーリはすでに肉を焼く火を中心とした輪の中で談笑しており、少し離れた場所で立ち尽くす俺に、アルカが焼けた肉を持ってきてくれた。
「お師匠様、そんなにお気になさらずとも良いのですよ!お師匠様は素晴らしい狩人ですから!」
カーリがポンポンと隣に座るように促してくるので、アルカからもらった肉を持って、カーリとコウチの間に空けられた1人分のスペースに腰を掛けた。
「同志、場所変わる?」
「いや、別に俺はここでいいけど…」
「同志、場所変わる?」
「えっと…」
「同志」
「お言葉に甘えさせていただきます」
アルカの圧に負けたコウチが席を変わっていった。
なるほど、これが女性の感情の機微ってやつか。
皆が皆、こんな風に分かりやすければいいのにな。
それからは1人ずつ見張りを立てつつ、談笑しながら夕食を楽しんだ。
こうしてゆっくりとできるだけでだいぶ襲撃が落ち着いてきていることが分かる。
「このまま何もなければいい」
アルカの呟きが聞こえた。
ちょうどそのときだった。
見張りをしていたカーリから大きな声が上がる。
「獣です!尾塊狼と、砂潜みの群れですわ!」
よりにもよって、尾塊狼か…!
先ほど今の“四極”でも苦戦する可能性があると思い浮かべた相手。
危険度4、尾塊狼が迫っていた。
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