125 ヒシガツマ防衛戦〜七色剣山②
身軽な細剣が敵の注意を引きつけ、その隙に針を打ち込む。
これは“豊穣の奏”が得意とする戦法であり、もし細剣と針のコンビであれば定石の1つと言える。
今でこそ4人1組の“四極”であるが、最初期はエフテルとアルカの2人しかいなかった。
2人で臨んだ唯一の大物狩りは球吐き鳥戦のみ。
当時はまだまだ何もわからず、身体能力だけを武器に戦っていた2人だったが、コンビネーションだけはそのころから既に完成していた。
どちらかが囮というわけでなく、どちらも囮でどちらもアタッカー。通常は成立しないフレキシブルな戦闘は苦難を共に乗り越えた姉妹の絆によるものだろう。
そして今、その身体能力とコンビネーションはそのままに、個人の技能、武器の習熟度、役割を理解した2人は、同級狩人の中では最強の2人だと自信を持って言える。決して師匠の贔屓目は入っていない。
「じゃあ、カートリッジなしで。師匠に良いところ見せないと」
機動力が落ちる砂漠の上でも尋常じゃない速さで一気に接近したアルカ。
七色剣山の意識がそのアルカに向いた瞬間、七色剣山の頭部を狙う針が飛来した。
「おお、相変わらずの超反応」
アルカに意識を割いていたにもかかわらず、七色剣山は体を回転させて頭部を守る。
しかし、その結果引き起こしてしまう。
「gyaaaa!!」
アルカの位置を見失うという致命的なミスを。
七色剣山の後ろ脚に深々と刺さった細剣は回転する七色剣山の上を飛び越え、空中から突き出したアルカのものだ。
「攻撃できる部位を見極め、攻撃できるときにダメージを取る」
アルカが言うのはハルゥに教わったことだろうか。
突き立てた細剣をすぐさま引き抜き、今度は角度を変えてもう一度突き刺す。
「guu!」
「そして無理だけはしない。一度被弾したら負けだと思え」
アルカが離脱するのと、七色剣山が再び回転するのはほぼ同時だった。
完全に見切っている。
「kyueeeeeeeeeeeee!」
七色剣山が甲高い声を上げた。
「なるほど」
近くに仲間がいるのか。
今のは助けを求める声だ。
俺は知っているし、気が付いたが、2人はただの悲鳴だと思っているだろう。
まあ、せっかくなので黙ってみていよう。楽勝より辛勝のほうが価値があるのではなかろうか。あまり辛勝したことがないからわからないが。
「お姉ちゃん!」
「あいあい、分かってるよー!」
2人との距離が離れた七色剣山は背中の色とりどりの結晶を2人に向けて放つ。
しかしその動きを想定していた彼女たちには当たらなかった。
「にしても、違う個体だけど、動きはほぼほぼ一緒なんだねえ」
エフテルがしみじみと言う。
まあ、それは確かに不思議な気がするが、実際はそうでもない。
例えば人間が上にあるものを攻撃するときは手で攻撃するし、下にあるものを攻撃するときは足で蹴る。これは誰かに教わったりしなくても、大多数の人間はそうするだろう。
まさか手を伸ばせば届くものに対して、わざわざひっくり返って足を使う人間はそうそういまい。
つまり、自分の身体的特徴や能力を最大限に活かしつつ、楽な行動を取るのだ。
獣や魔物も同様。人間よりも身体的特徴がハッキリしており、その身ひとつで自然を生き抜く以上、行動パターンはほぼ一致する。
故に、初めて戦う相手は恐ろしいし、逆に1度対峙したことがある相手を討伐することは容易い。
などと考えているうちに、決着の時は訪れた。
後ろ足を破壊された七色剣山は回転攻撃のキレがなくなり、今度は前足にエフテルの針を受けた。
こうなればあとは甲羅に篭ってやり過ごすしかない。
だが、その行動が読まれているならば、
「攻撃がこないと分かっていれば、こっちは攻め得なんだよねえ」
「トドメ」
甲羅に篭る間もなく、エフテルの針、アルカの細剣を頭に受けた七色剣山は動きを止めた。
「ハイ余裕!エフテルちゃんの新必殺技を披露する必要もなし!」
「出し惜しみ?」
「いえいえ、妹のサポートに回っただけですよ」
「なるほど」
そんな雑談をしながら戻ってこようとする2人に、七色の剣山が降り注ぐ。
「おお!?」
しかしそこは素早い2人。
咄嗟に回避を行い、無傷。
「新手だ!」
一瞬自分が仕留めた七色剣山をチラ見し、きちんと倒れていることを確認したエフテルが叫んだ。
「師匠!索敵甘いよ!」
「なわけあるか!わざと黙ってたんだよ!」
2匹目の七色剣山はまだ遠くにいる。射程距離限界からの結晶射撃だったのだろう。
「…もしかして、コイツのあの鳴き声…」
お、アルカは気が付いたようだ。
「お姉ちゃん、今度はお姉ちゃんに任せていい?流石に遠い」
先ほどはアルカの奇襲により敵の機動力を奪うことができたからこその勝利だった。
今回は距離が開いているので、同じ戦法は使えない。
「オッケー、今度こそミーンさんから教わった新技の出番だね」
エフテルはいつも針を格納しているポーチではないところから針を抜く。
「うわ、金色の針!?」
俺は2人が“豊穣の奏”から何を教わったのかを詳しくは知らない。エフテルとアルカが修行しているとき、俺はコウチとカーリの修行を見ていた。
なので、あの金色の針は実は初めて見る。
「百発百中!」
かなりの距離であるが、針は真っすぐに飛んでいく。
もう日は落ちかけている。夕暮れの闇は、エフテルに味方した。
細い針はその姿を消し、次に起こったのは七色剣山の悲鳴だった。
「gyaaaa!」
「ヒット!よし、勝ったね。ゆっくりトドメを刺していいよ」
「自分でやりなよ…」
なにやらもう勝利を確信した様子で、2人はゆっくりと七色剣山に近づいていく。
金色の針は七色剣山の頭に刺さってはいるものの、射出機も使わない長距離投擲のため深手ではない。
にも拘らず余裕を見せているということは…。
「ミーンも頭がやわらかいなあ…」
俺はなんとなく察した。
元々同じ針使いと言えど、投擲技術は圧倒的にエフテルの方が上だ。しかしミーンは、毒針という特殊な針を使っている。針使いが少ない上に、取扱には細心の注意が必要な毒針を使う狩人はもっと少ない。
故に学ぶところがあるだろうと思い、エフテルを出したのだが…。
エフテルは対象を毒で殺すことを嫌がっていた。何故なら素材の商品価値が下がるからという俺からするとどうでも良い理由からなのだが、本人は絶対に使わない。
であれば何をミーンから教わったのか。
七色剣山は2人が接近しているというのに、ゆっくりと動いている。本来であれば針を飛ばしたり、突進してきてもおかしくはない。
「最強の戦法だ!」
「当たればね」
「あたしが当てられないとでも?」
姉妹は悠々と会話しているというのに、何故動けないか。
答えは、麻痺毒だ。
ミーンの針には死に至る毒が仕込まれていたが、エフテルのあの金色の針には麻痺毒が仕込まれているのだろう。
動きを一定時間止めるだけの麻痺毒であれば、素材の商品価値は下がらない。
よくもまあ、思いついたものだ。
俺だったら、「甘えるな、毒を使え」と切り捨てるが、ミーンはエフテルのわがままのために頭を悩ませたのだろう。
結果がこれだ。
いまだに七色剣山の動きは鈍く、ゆっくりと頭と手足を甲羅の中に引っ込めている。
確かに勝負はあった。
「この勝負…エフテルたちの負けだな」
俺はため息を吐いた。
「あーーーーー!引きこもっちゃったー!!」
エフテルの叫び声が砂漠に響く。
「…お姉ちゃん。これどうするの?」
「いやぁ…アルカ、突っつけない?」
「できるけど、致命傷は無理」
「師匠ーーー!!」
馬鹿すぎる。
麻痺毒も通常の毒と同じく、完全に回りきるまで時間がかかるし、動けなくなるまでにも時間を要する。
余裕を見せず、引っ込む前にさっさと追い打ちしていれば良かったものを、七色剣山は動ける猶予時間を使って、完全に甲羅に篭ってしまった。
こうなってしまえば、針と細剣ではどうしようもない。
「エフテル、あとで説教」
「ええええええええ!!」
狩場で油断するなんてとんでもない。
七色剣山はしばらく動けないだろうし、その間にしっかりとそのことを分からせなければならない。
無論、アルカも同罪だ。
「師匠…怒ってる…」
「2人とも、来い。座れ」
俺は2人を岩場の上に正座させ、しっかりと分かってもらえるようにじっくりとお話をした。
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