124 ヒシガツマ防衛戦〜七色剣山①
「じゃあ、よろしく頼むぞ!」
「おまかせあれ!」
荷物をまとめた先遣隊の狩人たちにエフテルがビシッと敬礼した。
アルカが提案したとおり、先遣隊は俺たちと入れ替わる形で村へ戻ることになった。
理由はわからないが、今は襲撃が落ち着いているのだ。休めるのであれば、休むべきだ。
先遣隊の面々が足場の悪い砂漠を歩いていく。その足取りは、よく見ると、やはり疲れを感じるものであった。
そんな背中を俺たちは見送る。
一線を退いてなお、自分の帰る場所を守るために戦い、見事に役割を果たしたのだ。
俺にできなかったことをやり遂げたと思うと、少し心が沈みつつも、だからこそ今回こそ失敗はできないと改めて認識する。
「ふんふん!」
先遣隊の背中が見えなくなると、アルカはやる気満々といったように細剣を抜き、息まいていた。
「今からそんなに力入れてたら疲れちゃうよ。夜まではあたしたちが頑張らなきゃいけないんだから」
エフテルに諌められ、一度は剣を収めたアルカだったが、しばらくするとまた剣を抜いてソワソワし始めた。
「ほら2人とも、まずやることがあるだろー」
「あ、はーい」
エフテルは俺の意図に気が付いたようで、俺が背負っていた大きいバックパックを奪いとり、近くの岩陰に運び込んだ。
「あ、キャンプの設置だ」
アルカもエフテルに続き、地面に敷くシートや日避けの布などを広げ始めた。
「今日はしばらくこの辺で待機することになるし、コウチとカーリが消耗して戻ってくることも考えられるからな。キャンプの設置は必須だ」
「だから今やってるじゃん!」
文句を言いつつ、荷物を広げていくエフテル。
こうして口酸っぱく言わないと自発的にやらないからな。
ゆくゆくは俺の指示なしで活動していくことになるんだ。やるべきことに自分で気が付けるようにならないと。
一度取り組んでしまえば、その手際は大したもので、すぐにキャンプの設置は完了した。昔は俺が一人で設置していたので、その頃から考えると大きな進歩だ。
「2人ともお疲れ様。俺が周辺を警戒するから、一旦休んでて大丈夫だぞ」
「やったー!」
「うん」
長丁場になるからな。休めるときに休まないといけない。
俺は少し高くなった岩場に上り、キャンプ周辺と、ヒシガツマ村へのルートを警戒する。
太陽が最も高い時間は過ぎている。
気温の高い砂漠といえど、夜に近づけば暑さは和らぐ。
逆に、最も気温の高い時間にずっと走り続けてここまできたのだ。2人も疲労は溜まっただろう。
しばらくは俺が見張りをすることとしよう。
それに、師匠としてはカーリやコウチをいち早く見つけてやりたいしな。
それから数十分。残念ながら、見つけたのは弟子たちではなく、慌ただしく砂煙を上げながら走る七色剣山だった。
「方向的にヒシガツマ村方面だな…ったく、何をそんな急いでいるんだか…」
俺はポーチから騒慌玉を取り出し、投擲。
七色剣山に引っかかったソレは、甲高い音を立て始めた。
「仕事だね」
「お、いつぞやの亀さんじゃん」
音を聞きつけた姉妹は、きちんとキャンプから臨戦態勢で飛び出した。
走っていた七色剣山は、騒慌虫の鳴き声で足を止め、そこに追いついたエフテルとアルカを敵だと認識した。
狩りが始まる。
「さーて、4人がかりで苦戦したキミだったけど、今のあたしたちはあの時とは違うよ~?」
「うん、いけ好かない女から特訓をやむを得ず受けたからね」
「いけ好かないって…」
思わず苦笑する。
アルカの言う、いけ好かない女というのはハルゥのことだろう。
エフテルとアルカは、同じ武器種で格上の“豊穣の奏”から指導を受けた。
エフテルも、同じ針使いのミーンから指導を受けている。
七色剣山が背負っている甲羅は、様々な鉱石の結晶が生えており、とても堅牢なものである。
2年前はその圧倒的な防御力に苦しめられた“四極”だった。
坑道に閉じ込められた人たちを救出し、七色剣山との直接対決まで持って行けたところまでは良かったものの、甲羅に篭られてはなすすべがなく、決め手となったのはカーリの気合いと、コウチの覚悟だった。
もちろんエフテルとアルカが役に立たなかったわけではなく、主役の2人のフォローはしっかりしていたし、前段の坑道内部では活躍を見せていた。
しかしあくまで対七色剣山といった場面のみを切り取れば、できることは少なかったといえるだろう。
針と細剣、防御力が高い相手に対しては相性が悪い武器種の2人だが、その表情に不安の色はない。
「回転攻撃と、結晶飛ばしと、突進に注意すれば良いんだったね」
「そうだよ。まあ、私はあんまりやれること無いから、囮やるね」
「ん、了解!お姉ちゃんに任せなさい!」
アルカはそれ以上は深く聞かず、七色剣山の前に躍り出た。
丁度良い、修行の成果を見せてもらおう。
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