121 新たな危機
未知の敵、透明な竜が潜んでいるということで等級の低い狩人の立ち入りが禁止されているアオマキ村の森に、ギルドから1級以上の狩人が正式に派遣され、調査が開始された。
ギルドから狩人が派遣されるまでの間、“四極”は休日を謳歌したり、基礎トレーニングをしたり、先輩狩人の“豊穣の奏”に訓練をしてもらったり、充実した時間を過ごしていたと思う。
ついにギルドから狩人が派遣されたこと、また“豊穣の奏”がアオマキ村に滞在してくれていることから、多少村を離れても問題ないと村長にお許しをもらった俺達は初の遠征に向かう準備をしていた。
向かう先は北。
雪原地帯でしか出没しない獣や、この辺では異変により出現しなくなった魔物との狩りを経験しにいく。
そのために防寒対策を進め、雪上での狩りの心得を座学で学んだりしていた。
そしていよいよ2日後、遠征に出発しようとしていた。
そんなときだった。
ヒシガツマ村からの連絡船に乗ってきた、シタコ村長の伝言を伝える村人がやってきた。
ただならぬ雰囲気を纏ったウエカ村長に呼び出された“四極”と“豊穣の奏”は、いつものように酒場に集まっていた。
ウエカ村長に促され、ヒシガツマ村からやってきた村人は、緊迫した表情で言う。
「村に大量の獣が押し寄せて来ています!“四極”に支援をお願いします!」
俺はいまいち状況が掴めず、ウエカ村長を見る。
ウエカ村長も焦っている様子で、うまく話せないようだ。
質問形式で話を進めよう。
「大量の獣、というのはどれくらいの数で、危険度はどれくらいなんだ?」
「数は分からないが、ずっと散発的に獣が村に向かってきている。危険度は4以上らしい。6はいないが、5までは観測されている」
先日の蛇嵐のときよりも状況は悪い。すでに村まで獣が来ているし、危険度4以上の獣がいるならば最低でも4級以上の狩人がいないと話にならないし、危険度5ともなると、3級2級の狩人が必要だ。
「時間的猶予は?」
「5日ほどは村内部への侵入を阻止できる見込みだ。ヒシガツマ村には狩人が沢山いる。それらを総動員して、防衛線を引いているらしい」
なるほど。ヒシガツマ村の総力対獣の軍勢というわけだ。
「とにかく戦力が足りないらしい。“四極”の皆、行ってくれるかい?」
ウエカ村長の打診を受けて、
「師匠…」
アルカが袖を強く握ってくる。アルカだけではない、他の3人も既に心は決まっている。俺だってそうだ。
だが、俺はあくまで指導役であって、決めるのは当人たちだ。
「どうする?」
「行くに決まってる!」
俺が敢えて訊ねると、“四極”の皆は異口同音に力強く即答した。
それを見て、ウエカ村長と、ヒシガツマ村の使いもホッとしたような表情を浮かべる。
「私たちには聞かないじゃーん?」
そんな中、ミーンが不服そうに声を上げた。
「いや、君たちはこの村にたまたま滞在してくれているだけだから、こちらからお願いできる立場ではなくて」
と、ウエカ村長は言うが、ここに呼んでいる時点で助力を乞うているのとほぼ同義だ。
「私たち、“豊穣の奏”も同行させてください。どうやらこの村や…皆さんと関係の深い村のようですから」
ハルゥがちらりとこちらを見て、微笑む。
ウエカ村長は両手を挙げて喜ぶ。
「ありがとう!助かるよ!」
「いえいえ…今までの分を取り返さないと…」
「取り返す?」
ハルゥに聞き返すと、ミーンが代わって答える。
「これからは、人のために狩りをするって、決めたじゃーん?」
いや俺は知らないが。
しかしまあ、茶屋で偶然会った時にそんな話はしていたようではある。
心境の変化…いや、成長だ。
「いつ出発する?」
幸い俺達“四極”は遠征の準備をしていたので、今すぐにでも狩りにいくことができる。
しかし、今参加が決まった“豊穣の奏”はそうはいかないだろう。
だがことは一刻を争う。少しでも早く向かった方が良い。
「じゃあ、今すぐ俺達はヒシガツマ村に向かおう。ミーンとハルゥは、準備が出来次第来てくれ」
「助かります!」
ヒシガツマ村の使いがホッとしたように頭を下げ、ミーンとハルゥは頷いて、駆け足で酒場から出ていった。
「じゃあ、急だが、行くぞ」
「おー!」
エフテルの元気な返事をきっかけに、俺達も港に向かう。
ヒシガツマ村の使いがやってきた連絡船がまだ停泊しているだろう。
「皆!」
まだ酒場にいたウエカ村長から声をかけられた。足を止め、振り向く。
「ヒシガツマ村は大切だ。だが、一番大事なのは人命、そして君たちだ。こちらで船は総動員する。もしものときは、村人の避難と、君たちの避難を一番に考えてくれ!」
「…」
ウエカ村長からこういう慎重な意見を言われると思わなかった。
「大丈夫だって、まかせてよ!」
俺が黙っている間に、エフテルがいつもの調子で返事をする。
獣の侵攻から逃げた場合、命は助かるが、村人たちは住む場所を失い、バラバラになる。
久しぶりにメッツ村のことを思い出した。
俺とレイの故郷。
今はもう、存在しない村。
「そうか…」
「お師匠様?」
これは奇しくもあのときと似ている状況なんだ。
獣が押し寄せ、それを迎撃する。それができれば村は守られる。
あのときはそれができなかった。
だが、今回は…。
「?」
急に俺に見られた4人の弟子たちが困惑の視線を送ってくるのが分かる。
だが、これから向かう狩りへの不安は感じられない。実力が伴った自信だ。
この4人なら大丈夫だ。
それにヒシガツマ村の専属狩人、ロンタウもいるし、“豊穣の奏”も応援に駆け付ける。
大丈夫だ。大丈夫だ。
だが、なんなんだ、この、言いようのない不安は。
「おーい、師匠!変に考えこまないで!」
パシーンと背中を叩かれて、沈んでいっていた思考が現実に引き戻された。
「リベンジマッチだと思えばいいさ」
コウチにも背中を叩かれる。
「え、え?」
気が付けば弟子たち4人が笑っている。
「師匠の考えていることはなんとなくわかってるよ。昔聞いた、師匠の村のときと同じ状況なんだよね」
アルカにも何故か叩かれる。
「大丈夫ですわ!今回は大勢の頼りになる仲間もおりますし、変な獣もおりませんわ!」
控えめに、カーリにも背中をちょーんと叩かれる。
「だからさ、任せてよ。これがあたしたちの、師匠のかたき討ちの前哨戦だよ」
エフテルにもう一度殴られそうになったので、その手は受け止めた。コイツ調子にのって拳で…。
でもまあ、そうだ。
今回はメッツ村のときとは違う。
俺が不安になって、弟子に励まされてどうするんだ。
「悪い、ちょっとボケてた。行こう」
こうして今度こそ、俺達は港へ向かう。
しかし、何かを忘れている気がする。
なにか、前兆のような、化け物の尾が見えかかっているような…。
いや、迷わないと決めた。
例えどのような状況になろうとも、今度こそ救ってみせる。
それが俺の第一歩だ。
こうしてヒシガツマ村の命運をかけた狩りが始まった。
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