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120 アルカの休日

「じゃ、次は私の番だね」


賭場から出た俺達4人は、アルカのおすすめの場所へ向かう。


「エフテルさんは大丈夫なのか?」

「お姉ちゃんなら適当に逃げるから。目的地も伝えてたし、そのうち合流できるよ」


コウチに対して、アルカがそう答えた。

逃げ切ることは容易だろうと俺も思うが、その後が怖いよな。少なくともあの賭場には二度と行くことはできまい。


「それで、アルカさんはどのような場所に連れて行ってくださりますの?」

「皆きっと満足すると思うよ。すごいんだ」


アルカが得意げな顔で俺達を先導する。

よっぽど自信があるのだろう。アルカがそこまで言うのだ。楽しみになってきた。

そして案内されたのは、


「本屋か」


俺は納得した。

確かにアルカには「英雄狩人スミスの冒険」という愛読書があるのだった。

俺もアルカから借りてひと通り読んだが、実際の狩りとリンクしている部分も多く、作者は元狩人だろうと思っていた。


「おお、本屋か。しばらく追えてないんだよな、スミス」

「同志!?そんな、同志!」


アルカがガクガクと震えながらコウチを見る。そんなに驚くことか。本当にこの本が絡むとキャラが変わるな。


「でも大丈夫。そんな同志にもこの本屋は丁度良い。最高の書店」


俺達は書店に入る。

他の本には目もくれず、一直線に歩いていくアルカについていく。そこには、「英雄狩人スミス」の特設コーナーがあった。


「この本屋では、街よりも早く最新刊が入荷する。普通ならありえない。だからすごい」

「街より早く…そんなことありますの?」


どや顔のアルカが言い放った言葉に、本気で驚くカーリ。

本のことはあまり詳しくないので、なにがそこまですごいのか分からない。ので、聞いてみる。


「それの何がすごいんだ?」

「本っていうのは、原本を複製する必要があって。その複製ってのは手書きなわけだから、とっても手がかかる。でも需要があれば、複製も多く作られる」

「ふむふむ」


そうか、何気なく読んでいた本だったが、原本があるわけだ。自分が読んでいるものが原本だと思い込んでいたが、そんなことがあるわけない。


「ということなので、本を書く人は、複製を沢山してもらうために…つまり売れるために、需要が出るように、沢山の人の目につくような場所に売り込む必要があるの」

「ああ、それで街の本屋に持ち込まれるってことか!」

「そういうことだね。普通の本は、街の本屋に原本が持ち込まれて、その複製が各村の本屋に渡って、そこで複製されて売られる。つまり、各村に最新の本が届くのって、街から半年遅れとかになりがちなんだよ」

「なるほどなあ。納得。それならこの村の本屋でスミスの新刊が町より先に売られていることの凄さが分かったよ」


つまり原本がこの村に持ち込まれているってことなのか…?


「ところでアルカさんはどうして街よりこの村の方が早く本が出ることに気が付きましたの?」


確かにカーリの言う通りだが、なんとなく俺は知っている。


「月1回くらいは街に行って、スミスの新刊が出ていないか確認してるから」


そう、アルカが頻繁に街に行っていることは知っていた。一応これでも“四極”の活動方針を決めている身なので、そういう伺いは受けていた。

エフテルとアルカが狩人免許試験を受けに街に行ったときは片道5日かかったが、今は街道が整備されて格段に速度が上がっている。とはいえ、片道2日はかかるので、アルカの熱意はすごいなあと思う。


「エフテルちゃん帰還しました~!今、何の話?」


俺達がスミスのコーナーで話していると、後ろから明るい声が聞こえた。エフテルが戻ってきたようだ。


「おかえり。本の出版の流れについて教えてもらっていたところなんだ」

「あ、そうなんだ。まあ興味ないと知らないよね」


自然と会話に入ってきたが、よくもまあ平然としてるなコイツ…。


「これはッ!!」


突然アルカが大声を上げた。

狩りのときよりも素早く、かつ繊細な動きで1冊の本を手に取るアルカ。

それを宝物のように天に掲げて、叫ぶ。


「もう、新刊が、出ている!」

「おお、すごいタイミングだな」

「ちょっと買ってくる」


スタスタと俺達を置き去りにして支払いに向かい、戻ってきたアルカは普段の無表情が嘘のようににやにやしている。

そんなアルカに、エフテルがお姉さん風を吹かしながら言う。


「ねえアルカ、今日はアルカだけが楽しむ日じゃなくて、皆で楽しみを共有する日なんだよ」


その通りだが、仲間から金を巻き上げようとしたヤツが言う言葉ではないかな。

しかしその言葉を受けたアルカは一瞬止まって、納得したかのように頷いて言った。


「じゃあみんなでスミスを読もう。ここには1巻から最新刊が揃ってるし」


買わずに読んでもいいのか?と思ったが、店主さんは笑顔で頷いてくれた。良い人だ。


「えー、つまんなーい」


あまり本を読むタイプではないエフテルから不満の声が上がり、


「空想の物語よりもお師匠様の話の方が面白いと思いますわ…」


とカーリも渋っている様子。

しょうがない、助け舟を出そう。


「この本、結構リアルに描かれているから、俺でも参考になるところもある。ファンタジーと切り捨てずに、読んでみてくれ」

「お師匠様がそうおっしゃるのでしたら、分かりましたわ」


カーリは1巻を手に取った。


「じゃ、俺は続きから…」


とコウチは新しい巻から3つ前くらいのものを手に取る。

俺とアルカは最新巻を。

エフテルはどこかへ行った。


「これどうぞ」


店主さんが、全員分の椅子を持ってきてくれる。


「あ、すみません」


至れり尽くせりの対応に恐縮しつつ、甘えることにした。

基本的にこの「スミス」は1巻で1つの物語が完結する。何か獣が現れて、討伐して、終わり。そんな感じの流れだ。

少し読み始めて、皆の様子を伺う。

元々ファンであるアルカコウチが熱心に読んでいるのはさておき、カーリも真剣に読んでいる。しかも、「まあ!」や「なるほど…」などと口に出ているので、物語に没頭しているのだろう。物語の構成がとても上手いんだ。

作者はどこのだれか明らかになっていないが、この人物に実際の狩人の教本などを書かせたら、情報不足で命を落とす新人はかなり減ると思う。

と、皆真剣に読んでいるのに、俺だけが読まないわけにはいかない。

自分の手元の本の文章を読んでいく。

前回は石でできた巨人、ゴーレムを討伐したスミスだったが、今回は2つ首の巨大な竜と戦うらしい。

その竜はなんと透明で、姿が見えない。しかも、牙には触れるだけで死んでしまう猛毒があるらしい。

…多少誇張されているが、どっかで聞いたことがある話だな?

透明な竜を討伐しようとしたスミスだが、同時に大量の小さな竜が村を襲う。子分の竜の大群は仲間に任せて、スミスは透明な竜との決戦に挑む。

どこかで聞いた話だな?

そして今回は珍しく、この巻だけで完結はしておらず、透明な竜と戦いはじめたところで物語が終わってしまった。

続く、と書かれている。


「つづ…く…?」


アルカが絶望の表情を浮かべている。確かにこんないいところで終わってしまっては、こんな顔にもなるだろう。

しかし、何も知らない読者なら、だ。

俺には分かる。

続きはまだ書けないんだ。体験していないから。

そして作者が誰かも分かってしまった。なるほどこの村が一番早く最新巻を読むことができるわけだよ。

気づいてしまえば、「スミス」という名前も、ほぼそのまんまじゃねえかと思う。


「師匠!続きが気になる!どうなると思う!?」


しかしこの様子ではアルカは気が付いていないようだ。


「あー、今回ばかりはスミスも危ないかもな」


とりあえず、本人に確認するまでは黙っていよう。


「む、スミスは負けない。どんな強敵だって今まで倒してきた」

「そうですわ!最新巻の内容はまだ分かりませんけど、このスミスさんという狩人はお師匠様の一歩手前くらいには強い狩人ですもの!」


変なのが増えた…。


「確かに、師匠ならどんな獣も魔物も倒せそう。スミスよりすごい」


お前はそっちに同意をするのか…。


「ごめん、お師匠さん、その最新巻貸してくれないか?」

「あ、悪い、どうぞ」


コウチは最新巻まで追いついたようだ。読むのが早いなあ。


「で、どうだった、面白かったか?」


一応、カーリに聞いてみる。


「ええ、もちろんファンタジーに脚色されている部分もありましたけれど、基本は現実の狩人を踏まえたものになっていて、とても興味深く、勉強になりましたわ。この本の作者の方、元狩人なのではないでしょうか」


現狩人だな。


「ふ、カリシィルお嬢様もやっとスミスのすばらしさに気が付いたね。全巻買ってきなよ」

「ええ、そうしますわ」


カーリは1巻から最新巻までを持って、店主の元に行く。

ちょっと気になって値段を見ると、1冊5000クレジットくらいする。複製の手間を考えればこれでも安いのかもしれないが、これが何十冊もあればかなりの金額になる。


「いつも借りて悪いな。俺も買おう」


俺だけ懐を痛めずに読むのは皆にも作者にも悪い。そう思って本を手に取ろうとしたが、その手をアルカに掴まれた。


「いや、師匠には私が貸す。それでいいの」

「それでいいのか?」

「うん。それがいい」


よくわからないが、アルカがそう言うのであれば、従おう。


「にぶい」


本を読みながらボソッとコウチが呟いた。

え、そういう話?

やがてコウチが最新巻を読み終わり、持っていない巻を購入し、全員で本屋から出た。

カーリは一気に大荷物だ。


「エフテルは何してたんだ?」


一緒に本屋から出てきたエフテルに訊ねる。


「世界の暗殺器具って本読んでた」

「こわっ」


気が付けば、夕方を超えて夜になりかけている。

随分と本屋に長居してしまったようだ。


「朝から色んな店を回ったな」

「そうだね!」


道具屋、焼肉屋、茶屋、賭場、本屋。皆のおすすめのお店は、どれも素晴らしいものだった。


「たまにはこういうのも悪くないね」


アルカが言う。


「本当に丸くなりましたわよね、アルカさん」


少し驚いた様子でカーリが言った。確かに、出会った当初のアルカならばありえない発言だ。


「私もだけど、お姉ちゃんもね」

「そういうことは言わない方がいいんだよ」


エフテルは人当たりが良いように見えるが、どこかで一線を引いていた。そういえば、アルカ以外に寝ているところを見られたくないというのもあったな。

思い出したので、聞いてみる。


「今だったら、全員でキャンプしても問題ないんじゃないのか?」

「あーーーーーーーーー、非ッ常に悩むけど、確かにもう大丈夫かもね。やってみないと分からないけど」

「そうか」


そんな回答が返ってきたというだけで、如何に“四極”の絆が深まったかが分かるというものだ。


「有意義な休日になったな」


仲間のことも知ることができて、自分たちが大きくした村のことも知ることができた。


「…」


なんとなく、沈黙が訪れる。

まだ解散したくないといった感じだろう。俺もそうだ。

全員の視線が俺に向く。


「じゃ、腹減ったし、いつもの酒場で夕食にしようか。もちろん、俺の奢りで」

「やったー!!」


結局、今日が終わるまで賑やかな時間は続いた。

戦いばかりでは辛い。

こうした日常を過ごすことが大事なんだ。

そう実感した。

明日からはまた、訓練の日々が始まる。

特にエフテルとアルカはハルゥとミーンにそれぞれ武器の扱いを教わることになっている。

それが終われば、ウエカ村長の許しを得て、遠征だ。

森に潜む透明な竜のこともある。

気になることはあるが、今の俺にできることは、この“四極”を導くことだけだ。

しかしそれもいつまで必要なのかな。

もう十分独り立ちしても良い実力になっている。

実は、弟子たちが俺に頼っているのではなく、師匠であることを俺が長引かせているだけなのかもしれない。

最近、そう思う。

弟子離れについて、真剣に考えるときが来ている。


また少しお待たせしてしまいますが、ある程度ストックができたらまとめて投稿したいと思います。


頑張って書きますので、感想や評価での応援よろしくお願いします!

皆さんの誰が一番好きなキャラかとか聞きたいです!

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