119 エフテルの休日
順番に従い、次の目的地はエフテルの行きつけのお店となった。
「エフテルの行きつけのお店、楽しみですわ~」
明らかに嫌味だ。
カーリは先ほど、自分のおすすめの店で騒ぎになったことを根に持っているらしい。
「さぞ素晴らしいところに連れていってくれるのでしょうね~」
「ふーん、なるほどね。そういうことなら、そういうところに連れてってあげよう」
カーリを見て、悪い笑みを浮かべたエフテルは進路を変更した。
「無難なところに連れて行っても面白くないもんね。お嬢様に社会勉強をさせてあげよう」
一体どこに連れていかれるのか。
エフテルが足を止めたのは、1軒の食事処だった。
「ここで社会勉強ですの?」
少し身構えていたカーリだったが、安堵しつつ、軽口を叩く。
「ま、入ろうよ」
そんなカーリを気に留めず、エフテルは店内に入っていった。
俺たちも後に続いていく。
「あー、そういう。懐かしいな」
店内を見たアルカがそう呟いたのが耳に入った。
店主が笑顔でこちらを見てくる。
「いらっしゃい!ご注文は?」
「あー、この人たちはあたしの連れだから」
エフテルが言うと、店主の営業スマイルが消えた。
「なんだ、そっちの客か。楽しく、遊んでくれよ」
そう言って店主は俺たちから視線を外す。
「?」
困惑しているしている俺たちを置いて、エフテルが厨房に入っていった。
「おい、勝手に入っちゃ…」
「いいからついてきて!」
注意しようとしたが、次のエフテルの行動で俺たちは全員黙った。
エフテルが厨房に備え付けの棚を開けると、中には食材ではなく、地下へ続く階段が見えた。
「へえ、本の物語みたいだ」
コウチがワクワクしたように中を覗き込む。
「ここがあたしのオススメのお店です。じゃ、いこ!」
「え、え…?」
コウチとアルカはなんとなく理解したようだが、カーリと俺は置いてきぼりだ。
「ほら2人ともー、なにしてんのー!早く入らないとお店の迷惑でしょー!」
迷惑らしい。
俺とカーリは一瞬顔を見合わせてから、先行する3人に続いていった。
最低限の明かりだけで照らされた階段を下っていく。
すると、徐々に賑やかな声…というか怒号が聞こえてくる。
俺は少し、緊張感を持つ。
何かあれば、弟子を守るのは師匠の俺の役目だ。
階段を下りきった先に広がっていたのは、少し客層が悪い、賑やかな酒場だった。
「やっぱり賭場だ。お姉ちゃんも好きだね」
「え、賭場?」
言われて周りを見回すと、確かにただの酒場ではないことに気が付く。
皆、カードやらなにやらで盛り上がっている。卓の上に積まれているのは、硬貨だ。
「へえ、すごい!この村にこんな場所があったのか!」
コウチは興奮した様子で店内を歩き回る。
「コウチくーん、あんまりあたしから離れないでねー」
エフテルの注意を聞き、コウチは素早くエフテルの元に戻る。
気が付けば酒場…いや、賭場の喧騒は静まり、客や店員は皆黙ってこちらを見ていた。品定めをするような、そんな目だ。
「いッ…」
「黙って。余計なこというとどうなるかわからないよ」
何かを叫ぼうとしたカーリの後ろから、アルカが口をふさいだ。
その様子を見て、少し満足そうにしたエフテルは、客に向けて大きな声で話す。
「あたしの仲間だから安心してー!今日が初めてだから、優しくしてあげてねー!」
エフテルの言葉を聞いた客たちは一瞬静まった後、ゲラゲラと笑い出した。
「いいね!新しいトモダチだ!」
「おうそこの黒髪のネーちゃん、こっちで遊ぼうや!」
「エフテル!今日こそこの間の負け分、取り返すぜ!!」
再び店内に喧騒が戻る。
「ということで、ここがあたしのお気に入りの場所。今日はあたしから離れないことをお勧めするよ」
「エフテル、現金を賭けた賭博は違法じゃ…!」
「カーリ、試しにそれをここで言ってみなよ。帰れなくなると思うけど」
エフテルの声が低くなる。
おびえたようにカーリは俺の袖をつかんだ。
「エフテル、危険な場所ではないんだな?」
念のため確認する。
「うん、危険じゃないし、村長も公認だよ。みだりに子供とかが入ってこられないように、入口が隠されてるだけで、ここにいる皆も善良な村人。まあ、お金が賭かった遊びをしているから、多少ギラついてはいるかもだけど」
村長公認なのか…。
「そういうことなら、エフテルを信じようかな。じゃあ、俺たちが楽しめるようにエスコートしてくれ」
俺はエフテルにそう言った。
エフテルは笑って頷いてから、俺たちを1つの卓に座らせた。
「…ん?お師匠様、大丈夫でしょうか…?」
いまだに怯えているカーリを俺は宥める。
「エフテルが俺たちを連れて来たんだ。大丈夫だろ。エフテルは仲間を危険に晒すような人間じゃない」
「ま、まあ、そうですけども…」
カーリは上流階級ゆえの潔癖さがある。
村長公認とはいえ、後ろめたさのようなものがあるのだろう。
「よし、じゃあ遊び方を説明するよ。実際に賭けながらね」
エフテルが悪い笑みを浮かべながらカードを手に取る。
ルールも知らない人間をカモろうとしていやがる…。
説明されたルールは単純なもので、数字が書かれたカードが配られ、一番数字が大きい人の勝ち、というものだった。
1枚ずつ配られた後、2枚まで追加で引けるが、その合計の数字が30を超えてしまうと強制的に負けとなる。つまり、30が最強の数字というわけだな。
「じゃ、やろうか。ほら皆、100クレジットでいいから出して…」
ルール説明を兼ねた戦いということで、安めの金額からスタートするようだ。
最初の参加料を卓に乗せた全員にカードが1枚ずつ配られる。
そして、さらにカードが1枚配られる。カードに書かれた数字は、1から15までで、同じ数字は2枚ずつある。なので最高の数字は15と15になり、2枚までは絶対に安全だ。
俺が引いたのは、8のカードと11のカード。合計で19。
「で、ここで掛け金を吊り上げるかどうか決められるよ。実際にやってみよ。あたしが、追加で200クレジットを賭ける。すると、勝負に乗る人たちも200クレジットを追加しなければならない」
「ふむ」
言われた通りに全員が200クレジットを卓に追加する。
「もう一枚引きたい人はいる?」
エフテルが全員を見回す。
もう一枚くらい引いてもいいかな。
「はい」
「私も」
「俺もだ」
「わたくしは結構ですわ」
俺と、アルカ、コウチに追加でカードが配られる。エフテルも追加で1枚引いた。
げ、14かよ。これで俺のカードの合計は33。負け確定だ。
「最後にこのタイミングで、賭け金をさらに上乗せするか、勝負から降りるかを選ぶことができるよ。勝負から降りても、今賭けてる分は帰ってこないからね」
つまり今全員の卓に乗っている300クレジットは帰ってこないわけだ。
「じゃあわたくし、上乗せしますわ」
そう言ってカーリが3000クレジットを上乗せした。
「!?」
コウチがギョッとする。
アルカはため息を吐き、エフテルはにこにこしたままゲームを進める。
「じゃあ、あたしたちは勝負に応じて、3000クレジットを上乗せするか、勝負を降りるかを選ぶことができるよ」
「俺は降りる」
俺のカードの合計は30を超えているので、どう足掻いても勝ち目はない。300クレジットの損失に抑えるのが得策だろう。
「…降りる」
アルカもカードを卓に伏せた。
「ええ…俺は…乗る!」
悩んだ結果、コウチは勝負に乗った。
エフテルは、にやりと笑って、
「当然あたしも乗るよ」
と言って賭け金を追加した。
「じゃあ、オープン」
勝負を降りた俺とアルカ以外のカードが晒される。
コウチ24。
エフテル28。
カーリ、30。
「これ、わたくしの勝ちですわよね?」
キョトンとした表情でカーリが言う。
「うん、そうだね。カーリが、総取り。運がいいね〜」
カーリの目の前に、9600クレジットが積まれた。
「まあ、結構楽しいですわね、これ」
カーリは目を輝かせる。
コウチは肩を落としている。
「…同志。お姉ちゃん、これから本気出すだろうから、ほどほどにね」
アルカがコウチに耳打ちしたのが聞こえた。本気ってなんだ。運ゲーだろこれ。
「よし、ルールも分かったことだろうし、次行こう!カーリから取り返さないとね!」
ニコニコと笑いながらエフテルがカードを回収し、シャッフルする。
あの金にうるさいエフテルが、負けたのに笑っている。
それに、先ほどのアルカの忠告。
俺も次の試合は様子を見るか…。
そして第2ラウンド。
最初の賭け金は先ほどと同じ100クレジット。
全員に2枚目のカードが配られる。
俺のカードの合計は21。
カーリは相変わらず表情を輝かせており、エフテルは不敵に笑っている。
コウチは悩み、アルカはため息を吐きながらカードを伏せた。
「じゃあ、賭け金を吊り上げるかどうか、だね!」
「ではこれで」
エフテルの呼びかけに、カーリが即座に答える。そして上乗せされたのは10000クレジット。
「…賭け金の上限を決めないと、こういうことになる。身の丈に合った賭け金じゃないと、降りるしかなくなるから…」
アルカが言うが、それを遮るかのようにエフテルが言う。
「いやいや、初心者だもの、なにも気にしなくていいよ!」
いや気にするが。
流石に10000クレジットも賭ける気にはならない。3枚目を引くまでもなく降りだ。
コウチも頷いてカードを伏せた。
「あれ、皆降りちゃうんだ。んじゃあ、あたしとカーリの勝負だね。3枚目はいる?」
「いりませんわ」
「あたしもいらないっと…で、最後の賭け金上乗せタイムだけど、いい?」
「かまいません」
「じゃ、あたしは40000クレジット上乗せしちゃおっかなー」
じゃらりと場にクレジットが積まれる。
無言で当然のようにカーリが応じたので、場には合計100000クレジットが乗っている。
「なんて高額な勝負だ…」
コウチが震えている。
「師匠、お姉ちゃんの数字は30だと思うよ」
「なぜそう思う?」
エフテルのカードは2枚。それで30ということは、15と15を引いているということになる。それをさっきカーリがやったわけだが、本来は低い確率だ。
「まあ、師匠ならちゃんと見てれば分かったと思うけど…お姉ちゃんカードゲーム得意だから」
そう言っているうちに、エフテルのカードはオープンされる。
数字は、アルカの言った通り15が2枚の30。同じカードは2枚ずつしかないので、同じく手札が2枚のカーリは負けがこの時点で確定だ。
「はーい、お嬢様ぁ?お金もらっちゃいまーす!」
上機嫌に場のクレジットに手を伸ばすエフテルの腕をカーリが掴んだ。
「お待ちなさい。わたくしがまだカードを公開していませんわよ」
敗北が確定しているはずのカーリだが、未だに笑顔のまま。
そしてゆっくりカーリのカードがめくられた。
…15と、15。
「え!?」
コウチが驚く。
「は!?」
エフテルも想定外だったようだ。あまりの驚きようだが、その腕をカーリはずっと握っている。
「ねえエフテル。わたくしはなにもしていませんけども、あなたは?」
キラキラしていたように見えた笑みが、いつのまにか黒い笑みに変わっていた。
「やだな、あたしも何もしてないよう。たまたま他のカードのセットから15のペアが混ざっちゃったのかな。しきりなおししよっか!」
「いえ、何度やっても同じだと思いますわよ。だって、テーブルの下にカードがくっついてますわよね?」
カーリに言われてテーブルの下を除く。
本当だ!10から上のカードが2枚ずつくっついている!そして、14のカードの2枚のあとに、2枚分の空白もある。つまりエフテルはここからカードを2枚引いて、最強の手札を作ったということか。
「くっ…お嬢さまのくせになんで気づけたの…」
「だって、空いている席も沢山あったのに、わざわざこのテーブルを選びましたわよね。なにか、あるのかなと思いまして」
「それだけで?」
コウチの問いにカーリは頷く。
「そのような違和感に気が付かないと、命を落とす世界に生きていたものですから。社交界からしばらく離れてはおりましたけど、そこまで鈍っていませんわ」
「………」
あのアルカが口を半開きにして驚いている。貴重な表情だ。
「なんだエフテル!そんな仕掛け聞いてねえぞ!」
俺達の席を横目で観察していたのだろう、男が一人怒号を上げながら立ち上がった。
「てめえイカサマしてたのか!」
「どうりで強いと思ったぜ!」
「金返せ!」
今までのエフテルの被害者だろうか。
続々と男たちが立ち上がる。
「騙される方が悪いんだよー!」
エフテルはカーリの手を振り払い、脱兎のごとく賭場から逃げ出す。
「待てコラ!」
その後を追うように男たちも賭場から消えていった。
残されたのは、俺達だけ。
「じゃ、このお金は正当な報酬としていただきましょう。お師匠様も、本日は少し懐を痛めたことでしょうから、いくらかどうですか?」
「いや、これはカーリが勝ち取ったお金だから、カーリがもらうべきじゃないかな…」
そうですか、と自分の財布に大金をしまい込むカーリ。
「…なあお嬢。お嬢もイカサマしてたんじゃないのか?」
コウチが恐る恐る訊ねる。
確かに、2ゲームとも15のペアを引き当てている。豪運では片付けられない、かもしれない。
「それは私も気になる。少なくとも私からみてお嬢様に不審な点はなかった。どうなの?」
2人に問われたカーリはこう言った。
「イカサマを見つけられなかったのであれば、イカサマはなかったのですわ」
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