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第四十四話 ~鍵のレシピ~




そういうと、扉の前に座り込む。

………さて。まずは相手の研究内容の認識からだ。俺は天才と呼ばれるような人種ではないが、天才のやり方は知っている。彼らはとにかく観察力が高く、記憶量も凄まじい。

日常のことからそうでないことまで、多くを認識して疑問を持つことが出来るのだ。そしてその用法を理解していれば、限りなく天才に近づくことはできる。


「先生………えっと、鍵づくりなんて………できるのですか?」

「ああ、多分な。なに、研究の解体と大して差はないからな」


俺はヴィヴィの件があるため、研究解体―――命核解者の思考を読み取り、研究内容を看破することに力を注いでいる。普通ならば命核解者の研究内容というものは外部に漏れないようになっており、尚且つ調べられてもわからない仕組みになっているのが普通だが、それは解析されないというだけでしかない。

例えばだが、研究しているところを横から見ていれば馬鹿でも研究内容を盗み取れる。薬液の調合まで何もかもを認識できればなおさらだ。

命核解者は、己の研究内容を死守しようとするが、さりとて頭の中身まで守護する範疇に含めようとする人種は少ない。俺はそういう手合いは師匠くらいしか知らないほどだ。

そして、今回の錬金術師もそこまでの考えは持っていないだろう。脳内という形のないものまで思考が回らないのは、まあ普通のことではあるからな。

指先を扉に触れさせる。体の芯に、小さく感覚器が出来たようなイメージだ。


「建築材質。通常物質の範疇、これは骨?」


人骨を含め雑多な生物の骨を溶かしこみ、扉にしているようだ。

魔法の行使のために扉の表面部にはそのまま頭蓋骨がはめ込まれているが、あくまでも材料に用いただけで骨そのものには特別な意味はないとみていいだろう。

これはあれだな。多分リサイクル。余った骨を建材に回しただけというやつだ。

触れた指を拳に変え、軽く叩いてみる。


「反響音は硬質、しかし感覚はゴムに近いな」


物理的な強度を保ちつつ、破壊耐性を高めるならばそれが一番効果的だ。柔軟性を備えた金剛石は破壊するにはあまりにも面倒だからな。それにしても、本拠点でもないのにこの防護設備、一体この中に何を潜ませているのか。気になるところである。

とりあえず、物理破壊は不可能なのは師匠の言ったとおりだった。鍵はやはり必要か。

………鍵、鍵か。命核解者や錬金術師の考える鍵っていうのは普通の人間が思いつくような形状のものではない。

俺たちの場合は合鍵は薬液を意味することが多いが、死霊術に特化した錬金術師の場合は、何をもって鍵を鍵とする?


「師匠、死霊術っていうのは生きた器官も使ってるんですよね」

「そこの結界を見ればわかるだろう。当然(イエス)だ」

「なら、合鍵となるのは何かしらの身体の一部………臓器か、それに類するもの」


口元に手を当てて考え込む。そして、静かに扉を観察する。

やはり印象的なのは扉に浮き出た頭蓋骨。当然これは機能的に持ち手でも何でもない。明らかに邪魔でしかないこれを扉の中に埋め込めなかったというのは、頭蓋骨が外に出ている必要がある証拠だろう。鍵と対になる鍵穴はこの頭蓋骨にかかわりがある筈だ。

そうなると、錬金術師が想像する鍵は頭蓋の中に納まってる何かと見て間違いはない。

脳みそ。取り出し、薬液で加工すれば持ち運びはできるが、嵩張る上にそれなりに持ち運ぶための手段を講じる必要がある。これはない。

歯は?………いや。頭蓋骨の中に歯がそのまま残っている。材料にはなっていない。


「………眼球か」


指先を頭蓋骨の眼孔に差し込む。手で触れると、小さな傷があるのが感触で分かった。

これは眼球を取り出したときに生じた傷か。生きたまま取り出されたようで、その際に暴れられたせいでナイフの軌道が狂ったようである。

合鍵の形状は眼球、それは分かった。では次に考えるべきは、どこから眼球を調達して、それを鍵として加工するかだ。

………まあ、それは手段がないわけでは、ない。


「ど、どうですか?」

「眼を使っているってのは分かったんだけどな」

「成程。眼球は見るものだ。頭蓋に眼球をはめ込むことで、この結界の通路を見通す(・・・)という意味が与えられる。そうすることで結界を無視して本来の通路を進むことが出来るわけだ」

「あ、そういう理論なんですね。………正直、思考を辿っただけなので、そのあたりは分かんないんですよ」


正規の方法じゃないのは自覚している。邪道も邪道だろう。


「んー、それにしても錬金術師って面倒くさいですね………物理で殴り飛ばせないのがこんなにだるいとは」

「そうだな。こういう物理法則に則らない仕掛けや機能を数多く内包している錬金術師は武力だけでは解決できないことも多い。論理を読み解き、仕掛けを砕かない限りはどんな強力な酸を持ってきたとしても、牙城を崩すことは出来ん」


結界部分を無視して進めればと思うが、そうもいかないからなぁ………。

ここを通らない限りは内部に侵入できない機構だ。魔法だけならば壁を回り込むという選択肢もとれるが、錬金術師は魔法に加えて現実的な命核解者の物質変換手法も使うことが出来る。

そのため、どちらの要素も加えた発明品っていうやつは正直に言えば無策で突破するなんてのは不可能なのだ。そんな恵まれた能力を自己の利益のためにだけに使い、他者にどんな迷惑をかけても気にしないっていうのが錬金術師の嫌いなところである。本当に屑だよ、屑。

過去に出会ったあいつ(・・・)を頭に浮かべながら、腕を組む。


「それで、オルトルート。鍵の作り方は分かったか?」

「一応。痛いんであんまりやりたくないですけど、背に腹は代えられないので」


厳密にいえば、今からやるのは背を腹に変えるような作業なんだが。それはそれとして、雑多なものが取り付けられたベルトに手をやると、そこに張り付いている一際大きな道具を外した。

何枚かのプレートで作られたこれは、簡易的な錬金釜だ。めちゃくちゃ小さいから調合できる量や物には限りがあるが、出先でも簡単な道具程度なら自作できるため、フィールドワークを多く行う命核解者ならば必ず持っている。

さらに錬金釜を置くための台座と、加熱用の火を灯すためのランプを置くと、台座の上に組み立てた錬金釜を置いた。


「こ、ここで研究をするんですか………?」

「どんな所でも研究はするさ。俺たちはそういうものだからな」

「で、でも万物融解剤とかもなにもないですよね………」


それがそうでもないんだよなぁ。

俺は、ヴィヴィのために。そしてその後のために、事前準備としてこの身体にいくつもの機構を備え付けている。憶えているだろうか、”脳食い”との戦闘の最中、俺が自身の血液をたらし、道具の効果を発動させたことを。

この身体の心臓は………無限の紅の結晶だ。その結晶からは常に液化した賢者の石が生成されている。

つまり―――俺の身体を流れているのは血液に見えるだけの賢者の石なのである。

賢者の石というやつは本来の使い方としては、万物融解剤を垂らすことでその賢者の石が溶け落ちるまで、継続的に効果を発揮させる便利な道具という扱いだが、本来は不老不死の材料として作られた素材だ。もっとの最初に目指され、生み出された原初の賢者の石は万物融解剤を超えた万能性を持っている。

より効果的でより現象を強く発生させることが出来る溶液でもあるわけだな。俺の場合は薬液のトリガーに俺自身の血液、つまり賢者の石を用いているため、血を媒介にして様々な道具を起爆させることが出来るのである。

そういう性質持っているわけだから、当然これを万物融解剤の代わりに使うこともできるわけだ。勿論、加える賢者の石の性質を変えてやれば、効果の調整すら可能になる。

まあプロテクトかかっているため俺から無限に賢者の石を生成するってのはできないんだけどな。これは俺しか使えない方法である。


「よし、やるか!」


頬に手を当てて気合を注入すると、ナイフを腕に突き刺して錬金釜の中に血液を流し込んだ。


「せ、先生?!何を………!!」

「あー、大丈夫大丈夫。何の問題もないんだよ、これ。直そうと思えば一瞬で治せるからさ。何せ不老不死だし。それよりナフェリア、それから師匠。ちょっとこの薬液の調整手伝ってほしいんですよね」

「なんだ?」

「あの、あの………アリス師匠、ちょっとは驚いてください………」

「こいつの奇行は昔からだからな。命の無駄遣いも」


誰が奇行じゃい。あと命を無駄に使ったつもりも………まあいいや………。


「今から俺が材料を放り込みます。けど、幾つかの材料は俺だけじゃ取り出せないので、お願いしたいんです」

「必要な材料は?」

「まず、頭蓋骨の欠片。腕の一部、胴の皮膚、性器の一部に足の骨。それを溶かしこんだ後に、眼球を放り込み、薬液を凝着させます。」

「え………えぇっ!?」


ナフェリアが驚愕していた。まあ、確かに使っている素材が物騒だしな。驚くのも無理はない。それに………ナフェリアにはまだ難しいかもな。


「ナフェリア、無理そうなら師匠だけにお願いするけど」

「え、でも、あの、え………?」

「ナフェリア少女。不老不死とは………そして、オルトルートとはこういう人間だ。これからも付き合っていくなら慣れておけ。こいつは、手段を択ばないのだ―――ともすれば、私たち以上にな」

「………お手伝い、します。私は、先生のことが………知りたい、ので………」

「そっか、じゃあ頼んだ」


必要量血液を流し込むと、服を脱いで瓦礫の上に倒れこむ。

―――さあ、苦痛な時間の始まりだ。









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― 新着の感想 ―
[一言] 頭がい骨とか確かに自分じゃ無理よな 他のは気合でいけなくもないだろうけど ナ〇トとか、自分の眼球えぐったり、他人の眼球自分にはめるやつとかいっぱいいたし 僕は絶対やりたくねぇな たとえ治…
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