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Memories  作者: あーちゃん


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9/10

今日を生きる約束

未来は誰にもわかりません。


だからこそ、大切なのは「永遠」を約束することではなく、「今日」という一日を大切に積み重ねること。


第9ページでは、結婚式の準備や家族との時間を通して、悠真と美月が「今日を生きる」という本当の約束を見つけていきます。

結婚式まで、あと一か月。


 部屋のカレンダーには、美月が丸く印をつけた日付が並んでいた。


 「あと二十八日。」


 「あと二十一日。」


 「あと十四日。」


 一日が終わるたび、二人は赤いペンで小さく印をつける。


 その作業が、少しだけ子どもの頃の夏休みのようで、二人は顔を見合わせて笑った。


 「もうすぐだね。」


 美月がカレンダーを見ながら言う。


 「うん。」


 悠真も頷く。


 以前なら、未来を数えることが怖かった。


 「その日まで何も起きませんように。」


 そんなことばかり考えていた。


 でも今は違う。


 今日を無事に終えられたことへ感謝し、また明日を迎えられることを嬉しいと思えるようになっていた。


 休日。


 二人は式場で最終打ち合わせをしていた。


 テーブルには席次表や招待状、料理の写真、装花のカタログが並ぶ。


 「こちらがお花のイメージになります。」


 プランナーが微笑みながら説明する。


 美月は目を輝かせていた。


 「かわいい……。」


 白いバラ。


 淡いブルーのデルフィニウム。


 そして、小さな紫色のルピナス。


 「あ。」


 悠真が笑う。


 「ルピナスだ。」


 美月も嬉しそうに頷く。


 「あの日買ったお花。」


 「うん。」


 「これにしたい。」


 プランナーは優しく微笑んだ。


 「とても素敵だと思います。」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


 思い出がまた一つ、未来へ繋がっていく。


 打ち合わせが終わると、次は美月の祖母の家へ向かった。


 玄関を開けると、祖母は笑顔で迎えてくれた。


 「いらっしゃい。」


 「おばあちゃん。」


 美月は嬉しそうに抱きつく。


 「元気そうで安心したよ。」


 祖母は悠真にも微笑んだ。


 「久しぶりだね。」


 「お邪魔します。」


 三人で食卓を囲む。


 祖母の作る煮物の香りが部屋いっぱいに広がっていた。


 「やっぱりおばあちゃんの味だ。」


 美月が嬉しそうに笑う。


 祖母は照れくさそうに笑った。


 「まだ覚えてた?」


 「もちろん。」


 食事のあと、祖母は静かに引き出しを開けた。


 中から一冊の古いアルバムを取り出す。


 「これ。」


 「え?」


 「美月の小さい頃。」


 美月は思わず笑った。


 「やめてよ。」


 ページを開く。


 七五三の写真。


 運動会。


 遠足。


 幼い美月はどの写真でも笑っていた。


 「笑ってるね。」


 悠真が言う。


 祖母は少しだけ切ない表情を浮かべた。


 「この子ね。」


 「泣き虫だったんだよ。」


 美月は驚いた。


 「私が?」


 「そう。」


 祖母は優しく頷く。


 「でも、人前では泣かなくなった。」


 「……。」


 「家ではずっと我慢してた。」


 美月は黙って写真を見つめる。


 幼い自分。


 無邪気に笑っている。


 本当は泣きたかった日も、この笑顔の中にあったのだろう。


 祖母はアルバムを閉じ、美月の頭を優しく撫でた。


 「でも今は。」


 「いい顔してる。」


 その一言だけで、美月の目が潤む。


 悠真はその様子を見ながら思った。


 この笑顔を守ることは、「泣かせないこと」じゃない。


 泣いても帰ってこられる場所になることなんだ、と。


 帰り道。


 夕暮れの川沿いを歩きながら、美月がぽつりと言った。


 「ねぇ。」


 「うん?」


 「私たち。」


 少し照れながら笑う。


 「ちゃんと夫婦になれそうかな。」


 悠真は少し考えた。


 「完璧な夫婦にはなれないと思う。」


 「うん。」


 「喧嘩もする。」


 「うん。」


 「失敗もする。」


 「うん。」


 「でも。」


 悠真は立ち止まり、美月を見つめた。


 「毎日帰ってきたいと思える家は作れる。」


 その言葉に、美月は静かに微笑んだ。


 「それが一番幸せかも。」


 夕日が二人の影を長く伸ばしていた。


 未来はまだ見えない。


 でも今日、この瞬間は確かに幸せだった。


夕焼けに染まる川沿いを歩きながら、二人はゆっくり家へ向かった。


 風は少しだけ冷たくなり始めていた。


 季節がまた一歩進もうとしている。


 美月は空を見上げ、小さく息を吸った。


「ねぇ、悠真。」


「うん。」


「昔の私ね。」


 少し照れながら笑う。


「結婚って、もっと特別なものだと思ってた。」


「特別?」


「毎日がキラキラして。」


「喧嘩なんてしなくて。」


「ずっと幸せで。」


 悠真は静かに聞いていた。


「でも。」


 美月は握っていた手を少しだけ強く握る。


「今は違う。」


「どんなふうに?」


「今日、ご飯がおいしかったねって笑えること。」


「疲れたねって言い合えること。」


「おかえりって言えること。」


「それが幸せなんだなって思う。」


 悠真は優しく笑った。


「俺も。」


「昔は未来ばかり見てた。」


「未来を失うことばかり怖がってた。」


「でも。」


 空を見上げる。


「今日を大切にできたら。」


「未来はきっと、その続きを歩いていける。」


 二人は足を止めた。


 橋の上から流れる川を眺める。


 水は止まることなく流れている。


 過去へ戻ることはない。


 でも、その流れの中には、今までのすべてが繋がっている。


「思い出って。」


 悠真がぽつりと呟く。


「川みたいだね。」


「え?」


「止まらない。」


「消えない。」


「でも。」


「ちゃんと前へ流れていく。」


 美月はその言葉を何度も心の中で繰り返した。


 過去は流れ続ける。


 抱えたまま、今日へ繋がる。


 だから、人は前へ進める。


 その夜。


 二人は結婚式で流すプロフィールムービーの写真を選んでいた。


 幼い頃の写真。


 学生時代。


 社会人になってから。


 そして二人で過ごした日々。


「この写真好き。」


 美月が指差す。


 初めて旅行へ行った海。


 二人とも髪が風でぐちゃぐちゃになりながら笑っている。


「これも。」


 悠真が一枚取り出す。


 プロポーズの翌日に撮った写真。


 泣き腫らした目のまま笑う美月。


「これ恥ずかしい。」


「でも。」


「一番好き。」


 アルバムには、決して綺麗な写真ばかりではなかった。


 風邪で寝込んだ日。


 部屋着のまま笑っている日。


 喧嘩の翌日に撮った少しぎこちない笑顔。


 それでも。


 どの一枚も、かけがえのない思い出だった。


 美月は写真を見つめながら言う。


「幸せって。」


「綺麗な思い出だけじゃないね。」


「うん。」


 悠真は頷く。


「泣いた日も。」


「迷った日も。」


「全部あって今なんだ。」


 二人は静かにアルバムを閉じた。


 その瞬間、インターホンが鳴る。


 玄関を開けると、美月の母が立っていた。


 美月は一瞬だけ表情を固くした。


「お母さん……。」


 母は少し緊張したように立っていた。


「少しだけ、話せる?」


 部屋へ招き入れる。


 三人で向かい合う。


 長い沈黙が流れた。


 最初に口を開いたのは母だった。


「この前は、ごめんなさい。」


 美月は驚いて顔を上げた。


「私は。」


 母は視線を落としたまま続ける。


「あなたを心配するあまり。」


「私の考えを押しつけていた。」


 美月は何も言えない。


「本当は。」


 母の声が少し震える。


「幸せになってほしかっただけ。」


「でも。」


「その伝え方を間違えた。」


 美月の目に涙が浮かぶ。


 長年、聞きたかった言葉だった。


「許してとは言わない。」


「でも。」


「結婚式。」


 少しだけ笑う。


「出席させてもらってもいい?」


 美月は泣きながら頷いた。


「もちろん。」


 母と娘はぎこちなく抱きしめ合った。


 失われた時間は戻らない。


 傷も消えない。


 でも。


 これから新しい思い出は作れる。


 そのことを、三人は静かに感じていた。


 母が帰ったあと、美月はソファへ座り込んだ。


「びっくりした。」


 悠真も笑う。


「俺も。」


 美月は涙を拭きながら微笑んだ。


「全部は許せない。」


「うん。」


「でも。」


「少しだけ前へ進めそう。」


 悠真は隣へ座る。


「無理に忘れなくていい。」


「うん。」


「無理に許さなくてもいい。」


「うん。」


「今日。」


「少しだけ笑えた。」


「それで十分。」


 美月は何度も頷いた。


 夜。


 二人はベランダへ出た。


 ルピナスの花が風に揺れている。


 以前より少しだけ大きく育っていた。


「咲いたね。」


「うん。」


「毎日少しずつ。」


「私たちみたい。」


 二人は顔を見合わせて笑う。


 派手に変わったわけじゃない。


 毎日少しずつ。


 水をあげて。


 陽を浴びて。


 支え合って。


 そうして育っていく。


 夫婦もきっと同じなのだろう。


 悠真は空を見上げた。


「明日も。」


「今日みたいに笑えたらいいね。」


 美月は静かに頷く。


「うん。」


「未来の約束じゃなくて。」


「明日の約束。」


「それなら。」


「きっと守れる。」


 二人は指を絡めるように手を繋いだ。


 今日という一日を大切に生きる。


 その積み重ねが、きっと未来になる。


 そう信じられるようになった二人は、夜空に輝く星を静かに見上げていた。



第9ページでは、「今日を生きること」の大切さを、結婚式の準備や家族との再会を通して描きました。


未来を恐れていた悠真。


幸せになる資格がないと思っていた美月。


そんな二人は、「永遠」を誓うのではなく、「今日も隣にいる」という小さな約束を積み重ねることが、本当の幸せなのだと気づきます。


そして次はいよいよ最終ページ。


『Memories』


結婚式当日。


涙と笑顔に包まれながら、二人はこれまでのすべての思い出を胸に、新しい人生への一歩を踏み出します。


思い出は消えない。


だから人は、前へ進める。


物語は、感動のラストへ――。

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