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Memories  作者: あーちゃん


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10/10

Memories

ここまで『Memories』を読んでくださり、本当にありがとうございます。


人は誰でも、忘れられない思い出を抱えています。


楽しかった日々も、涙を流した夜も、誰かを失った悲しみも。


そのすべてが今の自分をつくっています。


この最終ページは、「思い出は消えない。だから人は前へ進める。」という、この物語が最後まで伝えたかった想いを込めた結末です。


どうか最後まで、悠真と美月の歩みを見届けてください。

結婚式当日の朝。


 窓から差し込む柔らかな光が、静かな部屋を優しく照らしていた。


 悠真はいつもより早く目を覚ました。


 時計を見る。


 午前六時三十分。


 まだ街は静かだった。


 深く息を吸う。


 胸は少しだけ緊張していた。


 鏡の前へ立つ。


 タキシード姿の自分が映っている。


「本当に今日なんだな。」


 小さく笑う。


 以前なら、この日が怖かった。


 幸せになればなるほど、不安ばかり大きくなっていた。


 失ったらどうしよう。


 守れなかったらどうしよう。


 そんなことばかり考えていた。


 でも今は違う。


 怖さは消えていない。


 それでも、隣で笑ってくれる人がいる。


 その事実だけで十分だった。


 一方、美月も控室で支度をしていた。


 純白のウェディングドレス。


 鏡の前へ立つと、自分でも少し照れくさい。


「きれい。」


 ヘアメイク担当が微笑む。


 美月は小さく笑った。


「ありがとうございます。」


 祖母が隣へ来て、そっとベールを整える。


「泣かないって決めてたのに。」


 祖母は目を潤ませながら笑った。


「もう。」


 美月も笑う。


「まだ始まってないよ。」


「だって。」


 祖母は優しく頬へ触れる。


「本当に幸せそうだから。」


 その言葉だけで、美月の目にも涙が浮かんだ。


 昔は、自分が幸せになっていいなんて思えなかった。


 でも今は違う。


 幸せになることは、誰かを裏切ることではない。


 泣いた日々も。


 傷ついた過去も。


 全部抱えたままで、笑っていい。


 そう思えるようになっていた。


 チャペルの扉がゆっくり開く。


 参列者が静かに立ち上がる。


 オルガンの音色が響き始めた。


 悠真は祭壇の前で立っていた。


 緊張している。


 手が少し震えている。


 でも逃げたいとは思わなかった。


 扉の向こうから、美月が現れる。


 純白のドレス。


 少し涙ぐんだ笑顔。


 目が合った瞬間、悠真は息をのんだ。


 世界が止まったような気がした。


 美月は一歩ずつ歩く。


 バージンロードを。


 過去から未来へ続く一本の道を。


 その一歩一歩が、今まで歩いてきた人生そのものだった。


 泣いた日。


 笑った日。


 喧嘩した夜。


 仲直りした朝。


 全部を乗り越えて、今日ここへ来た。


 祭壇の前で二人は向き合う。


 言葉はいらなかった。


 目を見ればわかる。


 同じ景色を見てきた人の目だった。


 牧師が静かに問いかける。


「あなたは、この人を生涯愛し、敬い、支え合うことを誓いますか。」


 悠真は迷わず答えた。


「はい。」


 美月も笑顔で答える。


「はい。」


 指輪の交換。


 悠真は少し照れながら美月の左手へ指輪を通した。


 プロポーズの日と同じ指輪。


 でも意味は少し違っていた。


 あの日は「結婚してください」という願い。


 今日は「これからも一緒に生きていこう」という誓い。


 美月も悠真の左手へ指輪を通す。


 二人は思わず笑った。


「少し緊張した?」


 美月が小声で聞く。


「すごく。」


「私も。」


 二人は笑い合った。


 参列者も思わず微笑む。


 その空気が、とても温かかった。


 式が終わり、フラワーシャワー。


 白い花びらが空から舞い落ちる。


 祖母。


 絵里奈。


 会社の仲間。


 そして美月の母も、涙を浮かべながら拍手を送っていた。


 美月はその姿を見て、小さく頭を下げた。


 母も静かに頷く。


 言葉はなかった。


 でも、その頷きだけで十分だった。


 披露宴が始まる。


 笑い声が響く。


 乾杯の音頭。


 料理の香り。


 友人たちの祝福。


 穏やかな時間が流れていく。


 そして披露宴の終盤。


 会場の照明がゆっくり落ちた。


 スクリーンへ、プロフィールムービーが映し出される。


 幼い頃の美月。


 学生時代の悠真。


 二人が出会った春。


 旅行。


 喧嘩。


 仲直り。


 プロポーズ。


 そして今日。


 写真が一枚ずつ映るたび、会場から笑い声や涙があふれた。


 最後の一枚。


 二人が笑い合っている写真の下へ、一つの言葉が映る。


 ――思い出は、消えない。


 会場は静かな拍手に包まれた。


 悠真はその文字を見つめながら、そっと美月の手を握る。


 美月も優しく握り返した。


 その温もりだけで、十分だった。


会場が静かな拍手に包まれる中、悠真は隣に立つ美月の横顔を見つめていた。


 初めて会った春の日。


 何度もすれ違った日々。


 泣きながら抱きしめ合った夜。


 「怖かった」と初めて言えたあの日。


 そのすべてが、この一瞬へつながっていた。


 司会者が静かに言葉を添える。


「それでは、新郎新婦より皆さまへご挨拶です。」


 悠真はゆっくり立ち上がった。


 用意していた手紙はある。


 けれど、その紙を見つめたあと、静かに閉じた。


「今日は。」


 マイクを握る手は少し震えていた。


「僕たちのために来てくださって、本当にありがとうございます。」


 深く頭を下げる。


 そして、少し笑った。


「実は。」


「僕は昔、幸せになることが怖い人間でした。」


 会場は静まり返る。


「大切な人を失った経験があって。」


「また同じことが起きるんじゃないか。」


「そう思って、未来を見ることができませんでした。」


 美月は静かに悠真を見つめている。


「でも。」


 悠真はゆっくり続けた。


「隣にいるこの人が教えてくれました。」


「未来を怖がるより。」


「今日を大切に生きることのほうが、ずっと大事なんだって。」


 会場のあちこちですすり泣く声が聞こえる。


「今日笑えたこと。」


「今日一緒にご飯を食べられたこと。」


「今日『おかえり』と言えたこと。」


「その積み重ねが、未来になる。」


「僕は今、それを信じています。」


 悠真は美月を見た。


「ありがとう。」


「僕と出会ってくれて。」


「僕の弱さまで愛してくれて。」


 美月は涙を流しながら笑った。


 次は美月がマイクを受け取る。


 少しだけ深呼吸をしてから話し始めた。


「私は。」


「昔から、強い人になろうとしていました。」


「泣かない人。」


「迷惑をかけない人。」


「ちゃんとできる人。」


「そうならなきゃ愛されないと思っていました。」


 母は静かに俯いた。


 祖母は涙を拭っている。


「でも。」


「悠真は。」


「弱い私も。」


「泣いている私も。」


「全部、そのままでいいと言ってくれました。」


 涙で声が震える。


「だから今日。」


「私は胸を張って言えます。」


「幸せになってもいい。」


 会場中が温かな拍手に包まれた。


「これからも。」


「きっと喧嘩します。」


 その一言で笑いが起こる。


「泣く日もあります。」


「迷う日もあります。」


「でも。」


 悠真の手を握る。


「そのたびに。」


「今日という一日を大切にして。」


「また笑い合える二人でいたいと思います。」


 二人は深く頭を下げた。


 拍手は長く続いた。


 披露宴が終わり、夕暮れの庭園へ出る。


 空は茜色に染まり、一番星が静かに輝いていた。


 喧騒が遠ざかり、二人だけの時間が流れる。


「終わっちゃったね。」


 美月が少し寂しそうに笑う。


「うん。」


「でも。」


 悠真は首を横へ振る。


「今日が始まり。」


 その言葉に、美月は微笑んだ。


 二人はベンチへ並んで座る。


 しばらく何も話さなかった。


 風の音だけが優しく聞こえる。


「ねぇ。」


 美月が空を見上げる。


「思い出って、不思議だね。」


「うん。」


「昔は。」


「思い出は、苦しいものだと思ってた。」


「でも今は。」


「私を支えてくれるものになった。」


 悠真も空を見上げる。


 陽菜の笑顔が心に浮かぶ。


 もう涙は出なかった。


「ありがとう。」


 心の中で静かに呟く。


 あの恋があったから。


 あの別れがあったから。


 今、自分はここにいる。


 美月もまた、小さく目を閉じた。


 幼い頃の自分を思い浮かべる。


 泣くことを我慢していた少女。


 笑顔ばかり作っていた少女。


 その子へ、心の中で語りかける。


「大丈夫。」


「ちゃんと幸せになれたよ。」


 その瞬間、頬を一筋の涙が伝った。


 悲しい涙ではなかった。


 長い時間をかけて、ようやく自分を許せた涙だった。


 悠真はそっとその涙を拭う。


「泣き虫。」


「今日はいっぱい泣いていい日だから。」


「そうだね。」


 二人は笑った。


 会場のスタッフが最後に記念写真を撮る。


「いきますよ。」


「はい、笑ってください。」


 シャッターが切られる。


 その一枚には。


 飾らない笑顔が写っていた。


 未来を恐れていた青年と。


 弱さを隠していた女性。


 二人はもう、過去から逃げていなかった。


 思い出は消えない。


 初恋も。


 傷ついた日々も。


 涙も。


 後悔も。


 全部が今の二人をつくっている。


 だから消さなくていい。


 抱えたまま歩けばいい。


 新しい思い出は。


 今日も。


 明日も。


 その先も。


 きっと増え続けていく。


 帰り道。


 悠真が美月へ手を差し出した。


「帰ろう。」


 美月は迷わずその手を握る。


「うん。」


 夕焼けの道を、二人はゆっくり歩き始めた。


 特別な未来を約束したわけじゃない。


 ただ。


 今日も隣にいる。


 明日も、できれば隣にいたい。


 その願いを大切に積み重ねていく。


 それが二人にとっての幸せだった。


 思い出は、消えない。


 だから人は、前へ進める。


 そして今日もまた、新しい思い出が一つ、生まれた。


               ― 完 ―


最後まで『Memories』を読んでいただき、本当にありがとうございました。


この物語で描きたかったのは、「過去を忘れること」ではありません。


大切な人との別れも、傷ついた記憶も、消したいと思うほど苦しかった思い出も、すべてが今の自分をつくっています。


だから、無理に忘れなくていい。


抱えたままでいい。


その思い出があるからこそ、人は誰かをもっと優しく愛し、今日という一日を大切に生きることができます。


悠真と美月の物語はここで終わります。


けれど、二人の人生はこれからも続いていきます。


今日笑った日も、泣いた日も、何気ない「おかえり」も、すべてが新しい思い出となって積み重なっていくでしょう。


そして、この物語が、あなた自身の「思い出」を少しだけ優しく見つめ直すきっかけになれたなら、それ以上に嬉しいことはありません。


また、どこか別の物語でお会いできる日を願っています。


『Memories』 完

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