11話 決着
ヴェルーダは困惑していた。
確実に当たったと思っていたのに避けられた。
その事実に!
魔力の残滓がまったく無かった…
なんの魔法を使ったんだ!?
まるで蚊だ…絶対に仕留めたはずなのに逃げられる。
気配そのものを消して…
その最中リンネはもう動いていた。
顔は少し笑みを浮かべている。
「エクスチェンジ!」
その言葉を唱えた瞬間。
銅貨とリンネの位置が入れ換わる。
カケルの足元に銅貨が転がった。
一瞬の出来事にヴェルーダはさらに戸惑う。
「解った?これが『エクスチェンジ』!
価値が同じもの同士を入れ換える魔法だ。」
「わざわざ教えてくれるなんてな…!
…だが、引っかかる…"価値が同じもの同士"だと?お前は銅貨と同じ価値なのか?」
確かにおかしい。
人と銅貨の価値が同じだなんて。
「…「制約」だよ。」
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私は必ず魔王幹部を倒せなければならない。
その為には決定打となる切り札が必要だった。
しかし、切り札の二つはリスクがありすぎて使うのに気が引けた。
「どうする…?」
その時に閃いたのさ…!
得意な魔法『エクスチェンジ』の魅力に!
エクスチェンジは不思議なことに魔力の残滓を見せないため、魔力察知が効かない。
裏を取ることに特化しすぎている。
しかし、問題もある…
「どうやって同じ価値にするか…」
私は銅貨を手に取り、眺めてとにかく観察をした。
そもそもエクスチェンジは「名称」を見るのではなく、「中身」を見るのだ。
つまり、1デラムではなく、銅貨それ自身を見る…
なら制約を結び銅貨と同じになる。
それで良いじゃないか!
と思ってもさらに問題が増えた…
エクスチェンジは最も価値の近い物同士を入れ換える。
まあ同じと言ってもいい。
だからこそ怖いのが…銅貨同士の入れ換えや私自身が使って見知らぬ所に飛ばされることだ。
それだけは避けたい…
しかししかし…!またしても天才リンネは閃きました!
「銅貨は純度100%の銅ではなく、他の物質も混ざり込んでいる」
要するに、銅貨同士は性質上全く同じではなく、似ているという意味…
裏を返せば被る事があまりない…
なら私は被りが少ない100%に近い銅貨を探し、それと制約を結ぶ。
そして私は解析魔法を使い、とにかく探した。
対象に触れ、情報を読み取る魔法。
そして排水溝辺りを探してたら見つけた。
私だけの銅貨!
そしてそこから一週間もかけ、制約を結ぶことに成功した。
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「という訳!お理解できた?」
ヴェルーダは頷くが、カケルはポカンとしている。
あまりの情報量に追いつけていないようだ。
「あ、そーだ!ヴェルーダ!」
突然の呼びかけに少々驚く。
以下にも明るい声だ。
「どうした?リンネ。」
その瞬間、一気に緊張の空気が流れた。
リンネの殺気が漏れ出し、それが周りの者に伝わる。
目に光が無い…。
「いい加減つまらない馴れ合いも飽きた。さっさとお互い本気出して、決めにいかない?」
どちらが勝者になるのか…!
「カケル…正直私はまだまだ全然いけるけど、相棒がね…」
カケルはリンネの握っている杖を見た。
もうそれはボロボロで、原型を留めていることにやっとだ。
ざっと残り一発ってところ…
「カケル!わかってるね!?決めに行くよ!!」
目に光が戻る。
それを見てカケルは強く頷いた。
「行きますよ!リンネさん!」
地面に落ちている銅貨をリンネに投げる。
すかさず、ヴェルーダは体を元に戻し、リンネに攻撃を仕掛けた。
迷いない本気の打撃。
リンネが銅貨をキャッチした。
タイミングはほぼ同時…
ザシュ!
ヴェルーダの腕が宙を舞う。
なんとカケルがヴェルーダの腕を斬ったのだ!
腕から血が飛び散り、かかった。
すぐにヴェルーダは体を分裂させ、コウモリになる。
あの距離から一瞬で…
何故だ!?何故なんだ!?
なんでコイツも!!
魔力察知に反応しない!?
魔力が全くないのか?
気色が悪い…!
とにかく今は血を呑み、再生を急ぐ…
ヴェルーダは仲間の吸血鬼にかぶりつく。
みるみる内にその吸血鬼は痩せ細せ、ヴェルーダが栄養を食らっていた。
「ヴェルーダ…さま…」
生き絶えた…
「これで腕も再生できるだろう…」
仲間などどうでもいい…
今はアイツらに勝つ事が重要。
手段などいくらでもある。
体を元に戻し、自身に魔力を込めた。
メキ……。
背中に亀裂が走る。
背中から黒き翼が生えてきた。
とてつもなく大きく、禍々しい。
マントを突き破り、翼を広げた。
「すぐにあの世行きだ!」
その瞬間…ヴェルーダは目にも止まらぬ速さでこちらに突進してきた。
リンネはすかさず、銅貨を投げ「エクスチェンジ」と唱える。
しかし、カケルは何もできなかった…
ドンッ!!!
鳩尾目掛けヴェルーダの拳が突き刺さる。
圧倒的なフィジカルによる攻撃。
カケルは壁に勢いよくぶつかり、吐血した。
体は理解しても脳が追い付いていない…
今…何が…。
「これで一対一」
ヴェルーダは不気味な笑みを浮かべる。
先ほどとは比べ物にならないくらいレベルアップしていた。
リンネの五感全てが怖気付いている。
だが逆に強気になった。
「ハハハ…踏ん張り時だよ!まだまだ上げれるよね?」
「いいぞ…!リンネ!貴様がその銅貨を投げた瞬間貴様に喰らいつき、腸引きづり出してやろう!」
ヴェルーダが構える。
すると…リンネは自身の服から何かを取り出した。
皮の袋…膨らんでいる。
中から金属特有の当たる音がした。
まさか…!
「そーれ!」
袋の中身を空中にばら撒いた。
チャリン!
音が連続して鳴り響く。
どうやら皮の袋の中身は銅貨だった。
それも大量!
地面には銅貨が転がる。
ヴェルーダの動きが止まった。
すぐにリンネは自身の銅貨を投げ、ばら撒いた銅貨に混ぜ込ませた。
「エクスチェンジ!」
自分の勘を信じた。
「ここか!」
銅貨を蹴り飛ばす。
しかし、リンネは逆の位置にいた、、
「ハズレ〜」
弄ばれている…
このクソエルフに…
腹立たしい。
しかし、なぜ魔法を撃ってこない?
今のだって裏を取っていたはず…
ヴェルーダはリンネの杖の状態を見て、察した。
そしてまた笑みを取り戻し、翼を広げる。
「そもそも簡単な事だ…!この銅貨にさえ近づけばいいもの…」
さっきのエクスチェンジにより、銅貨がバレてしまう。
ゆっくりとリンネと制約を結んだ銅貨を手に取った。
これでエクスチェンジを使っても使わなくても完全に詰み。
リンネの負け…
するとリンネがくすくすと、楽しそうに笑った。
「まだ分かってないんだ〜?ヴェルーダ…詰んでるのはお前だよ。」
「なに!?」
その瞬間…!
ばら撒かれた大量の銅貨が輝き出した。
眩い光にヴェルーダは後退りする。
これは!魔力!
リンネのだ…!
「魔力壁!」
大量の銅貨がそれぞれ魔力の線で繋がっていく。
美しいほどに綺麗で鮮やかな魔力。
魔力壁によりヴェルーダは身動きが取れなくなった。
「私がやりたかったのは…ただの時間稼ぎ!
まさか…エクスチェンジがこれほど時間を稼いでくれるなんてね!
さて…決めようか!」
リンネは片手で杖を持ち、槍のようにヴェルーダに向けて投げた。
その時…!
リンネの杖が壊れ、中から炎に包まれた鳥が現れる!
それはヴェルーダに向かって突進していた。
炎魔法上級!…『滅天火炎鳥』!
大きく紅い翼を広げ、突進する。
炎の鳥…フェニックスをオマージュしたのだろう。
暗闇に一筋の炎が照らされる。
来い!撃ち落とす!
一歩も動かなくても、拳は振るう事はできる。
ヴェルーダの手に魔力が込められた。
どうやらこれで全てを終わらせる気だ!
炎の鳥が魔力壁をどんどん突き破る。
そしてそれぞれの魔力がぶつかる瞬間!
炎の鳥がヴェルーダの拳を交わし、ヴェルーダを通り過ぎた。
「なっ!」
その目指す先はカケルの剣だった。
カケルは強く剣を握りしめ、覚悟を決める。
リンネが大声を出して言う。
「巻き取れ!!」
すぐにカケルは足でステップを踏み、体を回転させ剣を振り回す。
それに絡まるように『滅天火炎鳥』も剣を追って付いてきた。
炎の円が出来る…!
終わりが近づく…!
ヴェルーダの体に斬りかかろうとする…!
くらえ!!
ザシュッッ!!
回転斬り…『滅天火炎鳥』バージョン。
ヴェルーダの体が真っ二つになる。
すぐにコウモリになろうとするが、魔力が足らず…そのまま地面に落ちた。
身体が腐敗していき、灰となった。
「……任務成功」
リンネは自身の銅貨を手に取り、ペロッと付着した血を舐めた。




