粗相ぶっかまして打ち首とか目も当てられねえ
これは卒業を控えたある秋の日のことである。
「はぁ? お前が従者?」
悪友のガブリエル——通称ガブが、信じられないものを見るような目で俺をまじまじと見分した。
「ふうん、お前がねえ。気をつけろよ。粗相ぶっかまして打ち首とか目も当てられねえ」
「……全くだ。それが一番の懸念材料だよ。で、お前はどうすんだ?」
俺が自分の首筋をさすりながら聞き返すと、ガブはその巨体を揺らし、実に幸せそうに笑った。
「俺か? 俺は騎士さ。だってよ、あとの二つの選択肢は、どう考えても腹一杯食えなさそうだろ?」
清貧を旨とする聖職者か、肩身の狭い婿入りか。なるほど、食欲が行動原理のすべてである彼らしい、あまりに明快な答えだ。
「だがよ、本当に大丈夫か?」
ふいに、ガブの顔から冗談めかした色が消えた。
「俺の母上の知り合いの息子も、幼い頃から従者見習いをしてたんだが……相当酷い目にあったらしくてな。今は屋敷に引きこもっちまってる。お前も、そうなる前に逃げちまえよ」
不器用な優しさに、胸の奥が少しだけ温かくなる。俺はそれを誤魔化すように言った。
「お前こそ、稽古がキツいって泣き言いって逃げ帰るんじゃねえぞ」
顔を見合わせ、俺たちは「ガハハ!」と声を揃えて笑い飛ばした。
「君たち、何がそんなにおかしいのかい?」
風のように現れたのは、ユリウス・イノール。
眉目秀麗、成績優秀、品行方正。
何でオレの友人やってんの?と聞きたくなる、婿にしたい候補ナンバーワン間違いなしの男だ。
俺はユリウスにも、卒業後の路を尋ねてみた。
「私は修道院に入るよ。聖職者になるのが、幼い頃からの夢だったんだ」
俺とガブの顔は、おそらく「鳩が豆鉄砲を食った」ような間抜けな表情だったのだろう。
ユリウスはそれを見て、愉快そうに肩を揺らした。
「……うん、変わっているよね、聖職者が夢だなんて。でも、幼い頃に至聖神官アポストル様から『御言葉』を頂いたことがあってね」
伝説的な聖職者の名に、俺たちの口はさらにぽかんと開いた。
「あはは、二人とも同じ顔をしてるよ」
ユリウスはついに吹き出した。隣を見ると、ガブが目も口も丸くして、これ以上ないほどアホ面を晒している。
「……ど、どんな御言葉だったんだ?」
俺が居住まいを正して尋ねると、ユリウスは静かに、しかし一点の曇りもない声で告げた。その言葉は、彼が何度も心の中で反芻し、血肉としてきた重みを持っていた。
「——神に仕えまつれ。さらば汝は、国と民とを滅ぼさんと欲する悪しき者に抗う、友の助けとならん」
「…………」
俺とガブは、その言葉の重みに気圧され、ただ「おう」と短く応じることしかできなかった。
放課後の騒がしい廊下で、そこだけが神殿のように清謐な空気に包まれている気がした。
「……なんだか、すごいな」
ようやく俺が絞り出した言葉に、ユリウスは少し遠くを見つめるような目で笑った。
「そうだね。こんなことを言われたら、もう、人生は決まってしまったようなものさ」
「違いない。それにしても、その『国を救う友』ってやつも相当な大人物だろうな。……まあ、俺たちでないことだけは確実だけどよ!」
俺とガブがまた「ガハハハ!」とバカ笑いすると、周囲の女子生徒たちから「なぜユリウス様があんなバカたちと……」という冷ややかな視線が突き刺さるのだった。




