第8話「……やってくれたわね」
「で、でっけえー! あれがミレイアさんの言ってた新種の瘴樹ッスか!?」
「そうよ。怖気づいちゃったかしら?」
「まさか。むしろ燃えてきたところッス!」
「その自信はどこから出てくるのよ……私なんか、さっきから手が震えて仕方ないっていうのに……」
「大丈夫よノア。私がついてるし、隊長たちだっているんだから」
「そうよノアちゃん。危なくなったらお姉さんを頼ってね♪」
「は、はい……! セリスさんのお手を煩わせないようにがんばりますっ!」
「――*****!」
「きゃあっ!?」
アマリリスの発する雑音が周囲の空間を震わせた。
お腹の底にずしんときた。
足がすくんでしまいそうになる。
「よし、予定通り俺とミレイアとバルトールがそれぞれ一体ずつ受け持つ。セリスたちは周りの瘴樹を近寄らせるな!」
「はーい。雑魚の相手はまかせてちょうだい♪」
私とバルトールは、グレン隊長の横に並んだ。
バルトールはしきりに拳を握ったり開いたりを繰り返している。
……緊張してるのかしら。
「油断するんじゃないわよバルトール。見た目が花でも相手は瘴樹なんだから」
「しないッスよ。俺はとにかくアイツの懐に潜り込んでボッコボコにすればいいんスよね?」
「そうよ。思いっきり踏み込んで、大胆にやりなさい。――グレン隊長も、例の攻撃には注意してください」
「わかっている。バルトール、自分の手に負えないと思ったらセリスを呼べ。ミレイアはひとりでも大丈夫だろうが、お前と俺は初見の相手だ。無茶はするなよ」
「了解ッス!」
「じゃあ、話が終わったところで――先に行きますッ!」
先陣を切るべく、私は正面のアマリリスに向かって駆け出した。
今回は牽制や様子見はなし。
一撃で仕留めるつもりでいく……!
「******! *****ッ!」
「そんなに騒がなくても、すぐに黙らせてあげるわ!」
アマリリスの行動パターンはもうわかってる。
絡み合った太い根による打突や触手のようなおしべによる攻撃は、どれも遠距離から相手の動きを制圧するためのもので。
それらはあの奥の手を隠しておくための段階的な迎撃手段にすぎない。
「ふっ――!」
魔炎で根っこをこんがりと焼いて、おしべをみじん切りにして突き進む。
調理は順調。
あとは主菜を盛り付けるだけ。
「******!!」
予想通り、アマリリスは例の溶解液を噴射した。
次はおそらく、あの爆発する種を撒き始める。
そういう習性なのか、それとも何か考えがあるのか。
まあ、どっちでもいいわ。
〈瘴樹の考え休むに似たり〉――なんてね。
「これでトドメよ――!」
アマリリスの花弁が上を向いた、その直後――。
振り下ろした焼却器が、アマリリスの茎を斬り落とした。
「***、***……」
蒼い炎が傷痕をなぞり、全身に燃え広がる。
結局、アマリリスは大した抵抗もできず、あっけなく魔炎に焼かれて燃え尽きた。
「焼却器の調子がすごくいい……。ノアに火力を上げてもらったおかげで、切れ味も増してるみたい」
代わりに魔力の消費はすごいけど、これならどんな瘴樹が相手でも怖くないわ。
さて、グレン隊長とバルトールの様子はどうかしら……。
「しゃらくせえ! おぉおおおおおらぁああああ!!」
斧型の焼却器を振りかぶったグレン隊長が、もう一体のアマリリスを脳天から下半身まで真っ二つに叩き割った。
……相変わらず豪快な人。
「そらそらそらァ!! これでも食らえ――ッス!!」
バルトールは私の助言通り、アマリリスに密着して何度も拳を打ち込んでいた。
一発の威力は低くても、数百発も殴ればそれなりにダメージが蓄積する。
そんな感じで、全身火傷だらけになったアマリリスを渾身のアッパーでぶち抜いた。
……アマリリスのどのあたりが顎だったのかは、この際考えないことにしましょう。
「通常の瘴樹よりは手強い相手だったが、思っていたほどではなかったな」
「はぁ、はぁ……そ、そうッスね……。ちょっとばかし、疲れたッスけど……いっぱい殴れてスカッとしたッス……!」
「肩で息しながら言うんじゃないわよ。まあ、あなたにしては上出来だったんじゃないかしら」
「へへっ、あざッス! ミレイアさんに褒めてもらえるなんて光栄ッス!」
「……何よ、その手は?」
「ハイタッチッスよ、ハイタッチ! ほら、勝利の記念に!」
「はいはい、仕方ないわね」
――パァン!
バルトールとハイタッチをかわす。
試しにグレン隊長に向かって手をあげてみたが、「俺はいい」と遠慮されてしまった。
恥ずかしがらなくてもいいのに。
「……っっ」
その時、肌を突き刺す冷たい魔力の気配を感じ取った。
アマリリスとは違う。
もっと恐ろしい何かが、私たちのことを見ているような……。
「どうしたミレイア。何かあったの、か……――っ!?」
「な、なんですか、あれ……?」
いち早くそれを見つけたノアが、青ざめた顔で言った。
ずるっ、ずるっ……と、地面を這う音が響く。
アマリリスと同じか、あるいはもっと大きな老齢の大樹が、草花を踏み潰して現れた。
みんなが言葉を失う中、セリス副隊長が何かに気づいてぽつりとつぶやく。
「あれは……女の子?」
見上げてみれば、たしかに大樹の幹から女性の体が生えている。
いや、正確には女性の下半身が丸ごとあの大樹に置き換わってしまっているというべきか。
……どっちにしても、ひどくアンバランスな混ざり方をしてるわね。
女性の肌は薄緑色で、とても不健康そうに見える。
でも、重要なのはそこじゃない。
凛とした顔立ちに魔力を蓄えた美しい銀の髪。
そしてあの――特徴的なとがった耳。
「……やってくれたわね」
「ミレイア?」
唖然とするみんなを置いて、私は一歩前に出る。
彼女の虚ろな瞳が私を見た。
故郷を焼かれたときでさえ、こんな気持ちにはならなかったのに。
さすがにこれは……心穏やかではいられそうになかった。
たとえ彼女が、見ず知らずの同族であったとしても――。
「ラァアアアアア――――!」
エルフらしい透き通った歌声が、暗い夜闇に溶けていく。
美しいはずの旋律は、私にはただただ不快だった。




