第5話「第六小隊の問題児、ただし素直」
午後からは屋外で団員同士の戦闘訓練が行われている。
訓練内容は、焼却器を模した木製の武器を使用して行われる、実践さながらの対人戦。
その中で、ただひとり徒手空拳で他を圧倒している青年がいた。
「そらそらそらあーッ!」
「がっ、ぐあっ……!」
第六小隊の問題児筆頭、バルトール・ノックスだ。
篭手型の焼却器を好んで使う、打撃攻撃主体の焼却師。
ちゃっかり遅刻してしまった私は、彼らの戦いぶりを少し離れた場所から眺めていた。
やはり腐っても焼却師。身のこなしはそれなりのものだ。
ただバルトールの早さについていけるやつが誰もいないというだけで。
そもそもの運動能力に差がありすぎるのよ。
バルトールは頭ではなく直感で動くタイプ。
相手の動きを見てから次の行動を判断してるような連中じゃ勝負にもならない。
「どうしたんッスか! そんなんじゃオレは倒せねえッスよー!」
「バカっ、対人戦闘でお前に勝てる奴なんてそうそういねーよ!」
「そうだそうだ! 俺らは瘴樹と戦うのであって、本格的な対人戦闘技術なんて必要ねえんだから!」
「えー、この前新種の瘴樹が出たばっかッスよ? いつ人型の瘴樹が出てもいいように、人間同士で訓練をしておいたほうがいいじゃないッスか」
「だからって、瘴樹はお前みたいなバカげた動きなんてしねえよ」
「そうッスか? これくらいうちの小隊じゃあ普通ッスけどね」
「お前なぁ……あんなイカれたエルフなんかと俺らを一緒にするんじゃねえよ」
「あら、そのイカれたエルフっていうのは私のことかしら」
話に入るタイミングをうかがっていた私は、ここぞとばかりに口を挟んだ。
バルトール以外の全員が、げっ――という顔で私を見た。
「あー! ミレイアさんじゃないッスか! お疲れさまです!」
「おつかれさま。相変わらず無駄に声が大きい」
「すみません! オレの数少ない取り柄のひとつッスから! それでそれでっ、今日はミレイアさんも訓練に参加してくれるんッスか!?」
「ええ、隊長からたまには後輩を指導してやれって言われてね」
まあ、嘘だけど。
書類仕事が嫌になったから、気晴らしに外に出てみただけ。
でも――、
「こんなイカれたエルフでよければ相手してあげる。ちゃんと手加減してあげるから安心して。あぁ、面倒だから全員まとめてかかってきなさない。ネーヴェは危ないからそこで待ってて」
「ニャフ」
その辺に転がっていた予備の木剣を拾い上げる。
あまり状態はよくないけれど、使えないことはないわね。
欲を言えば、もう少し重いほうが私好みかしら。
「……まとめてだなんて、本当にいいんですか。これだけの数ですよ?」
「ええ、構わないわ。どうせ私には当てられないから」
「このっ……いつもいつも調子に乗るなよエルフ風情がッ!」
「今日こそその偉そうな口を黙らせてやる!」
「やっちまえお前ら――!」
「おおおおお!」
「焼却師が山賊みたいなセリフを吐くんじゃないわよ……」
後輩たちが武器を振りかぶって一斉に襲いかかってくる。
数は全部で九人。
けれど同時に攻撃を仕掛けられるのは精々三人。
瘴樹の大群を相手にするより遥かにラクね。
「おらっ!」
「はあああ!」
「くらいやがれえ!」
「振りが大きい、狙いが雑、あと無駄にうるさい。踏み込みはもっと素早く――こうっ!」
「がはっ……!?」
「ぐえ!?」
「おぶうっ!?」
便宜上、今の私は後輩の指導のためにここにいるので、とりあえずそれっぽいことを言ってみる。
まあ実際、彼らの攻撃は乱暴だった。
武器の扱いは技と呼べるレベルにさえ達していない。
なのに大人数での連携だけはしっかりとしているんだから笑えてくる。
……はぁ、どいつもこいつも口だけ。一体の瘴樹を複数人で対処することに慣れすぎてる。入団して最初に教わる基本戦術の弊害ね。
これじゃあいつまで経っても成長しない。
今回の件は、グレン隊長にもそれとなく報告しておこうかしら……って、そんなことしたらまたサボってたことがバレちゃうわね……。
……いいや、どうせすぐにバレるだろうし、だったらこっちから先に言っちゃって話題をすり替えちゃうほうが得策かしら。
「――隙ありッス!」
「……っ!」
背後から突き出された拳を振り返りざま木剣で受け止める。
見ればバルトールが笑いながら、嬉々として拳を振り上げていた。
「もう我慢できないッス! オレも混ぜてくださいッス!」
「殴りかかってから言うんじゃないわよ。――それで、私のどこに隙があったのかしら?」
「ははっ、まったくなかったッスね! なんでとりあえず言ってみただけッス!」
「正直でよろしい」
次いで繰り出された左の拳を避けると、さらに蹴りが飛んできた。
バルトールの強みは、臆せず前に出るその胆力にある。
やり返されても問答無用で距離を詰めてくるというのは、相手からしてみれば脅威でしかない。
しかも手数が多いから対処に追われ、やがて防戦を強いられる。
たとえ瘴樹が相手でも、接近さえしてしまえばあとはバルトールの独壇場。
こと対人戦においては、できれば相手にしたくないタイプの人間だ。
けれど、明確な弱点も存在する。
「闇雲に打てばいいってもんじゃないって前にも言ったはずよ!」
「えっ――あ!?」
木剣を空高く投げ捨てる。
そしてバルトールの右腕を掴んで――引っ張る!
「そーれっ!」
投げ飛ばされたバルトールの体が宙を舞った……と思ったら――。
「おぉおおぉお!? ……よっ、と!」
「驚きながらきれいに着地取るんじゃないわよ。投げ損じゃない」
「へへっ、ミレイアさんに投げてもらえるなんて光栄ッス!」
「あっそ。どうでもいいけど、そこにいたら危ないわよ」
「へ? ――あいた!?」
さっき放り投げた木剣が落ちてきて、バルトールの脳天に直撃した。
「あなたが受け身を取ることくらい想定済みよ。いつも言ってるでしょ。戦いは二手三手先を読みなさいって」
「うぅー……っ! ミレイアさんもっかい! もっかい手合わせお願いしまッス!」
「えー、私もう疲れたんだけど」
「そこをなんとかッス!」
「はぁ、仕方ないわね……。どうせやるなら、私の特訓にも付き合ってもらうわよ」
叩きのめした団員のひとりが持っていた木製の槍を拾い上げる。
剣以外の獲物は久しぶりね。
戦っているロイの姿を思い浮かべ、なるべくそれらしく構えてみる。
「えっ、マジッスか!? ミレイアさんって槍もいけちゃうんッスか!?」
「ほどほどよ、ほどほど。だから手加減はしてちょうだい」
「……とか言いながら、めちゃくちゃやる気満々じゃないッスか。気を抜いた瞬間その槍で貫かれちゃいそうッス」
「当然よ。訓練だろうと何だろうと、やるからには勝つ」
「んなははは! それでこそミレイアさんッス!」
それから私とバルトールは、他の団員をほったらかしにして時間の許す限り打ち合いを続けた。
「……クソったれ。やっぱり第六小隊の連中はイカれてやがる……」
視界の端で団員のひとりが呆れたようにつぶやくと、周りも同意するように頷いた。




