表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

第3話「焼却師団はアットホームな職場です」

「……で、その時助けたのがその猫だと」

「はい」

「ニャーン」


 ――ヴァイスハイトの森での任務から二日後。


 アルバリンド公国に帰還した私とロイを待っていたのは、グレン隊長からのお説教だった。

 独断専行どくだんせんこうひかえろ、単独での瘴樹しょうきとの戦闘は避けろ、報告はもっとみつにしろ……等々(などなど)

 湯水のようにあふれ出るお言葉の数々を、ロイは真面目まじめに、私は不真面目ふまじめに聞き流した。

 グレン隊長の話は長いというか、ねちっこい。重箱のすみをつつくように過去の失敗をり起こしつつ、的確に痛いところをついてくる。

 私たちを心配して言ってくれているのはわかるのだが、こう同じことを何度も言われれば誰だって嫌気が差すもので。

 唯一ゆいいつの救いは、隊長のとなりに立つセリス副隊長が「がんばって~♪」と微笑ほほえみながらはげましてくれたことだけだった。

 ……助けてはくれなかったけれど。


 小一時間こいちじかんほどって、ようやく説教が終わったかと思えば、今度は説明を求められた。

 隊長の机の上でお行儀ぎょうぎよく座っている、この白い猫について――。


「この子はケット・シーという妖精です。膨大な魔力を持っていて、私たちの言葉を理解できるだけの高い知能があります」

「……そうなのか?」

「ニャッ」


 隊長の問いに対し、彼女は小さく鳴いて前足をあげた。

 そして二本のシッポで『(まる)』を作ってみせた。

 そのとおり――とでも言いたいのだろう。


「ふむ……尾が二本ある以外は、ただの白い猫にしか見えんがなぁ」

「ちなみにですが、この子のことはネーヴェと呼んであげてください」

「それがお名前なの?」

「はい、私が名付けました」

「ニャン」


 ネーヴェがほこらしそうにうなずく。

 頭が良くて、愛嬌あいきょうもある。本当に賢い子ね。

 セリス副隊長が「ネーヴェちゃんはいい子ね~♪」と、ネーヴェの体をなで回す。

 その様子を、グレン隊長が横目でじーっと見つめていた。


「隊長もなでますか?」

「……いや、俺はいい。――ひとまずネーヴェのことはお前にまかせる。あとで正式に保護対象ほごたいしょうとして申請しんせいしておけ」

「え、いいんですか?」

「まさかあの森に帰すワケにもいかんだろう。お前になついてるようだし、助けたからにはちゃんと面倒めんどうを見てやれ」

「――了解。お気(づか)い感謝します」

「礼はいらん。ネーヴェもいいな? 仕事の邪魔はするんじゃないぞ」

「ニャー!」

「わかった――って、言ってるみたいです」

「ハッハッハ、俺にもそう聞こえたよ。――さてと、それじゃあここからが本題だ。例の新種の瘴樹しょうき、アマリリスについてなんだが……」

「何かわかりましたか?」


 食い気味なロイの質問に対して、グレン隊長は肩をすくめて苦笑した。


「いいや、さっぱりだ。ミレイアとの戦闘の痕跡こんせき以外、アマリリスに関する新しい情報は特に得られなかった。ミレイアの報告にあった赤い花がないかも探させはしたが、それらしい花はどこにもなかったそうだ」

「そうですか……」


 魔素まそに汚染された花がアマリリスになったのだとしたら、汚染される前の花が必ずどこかに咲いていたはず。

 まさかあの広い森の中でたった一輪いちりんしか咲いていなかった、なんてことはないと思う。

 だとしたらアマリリスは一体どこからやって来たのか。


 ……謎は深まるばかり、ね。


「まったく……ネーヴェといいアマリリスといい、今回の件はイレギュラーなことが多すぎる。とりあえずアマリリスのことは焼却師団全体で共有する。またいつ同じ個体が現れるとも限らんからな。お前たちも常に気を張ってろとは言わんが、頭の片隅かたすみにぐらいは置いておけ」

「はっ」

「それからミレイア。お前の実力は俺もよく知っているが、あまりひとりで無茶はするな。少なくとも、お前の背中を守ってくれるヤツに迷惑をかけるんじゃねえ。わかったな?」

「……了解」

「大丈夫よミレイアちゃん。何かあれば私がサポートしてあげるから。グレンだって、本心ではふたりのことをすっごく心配してるんだから。あまり深く考えすぎないでね」

「はい……って、え?」

「おいセリス! 余計なこと言うんじゃねえ!」

「だって本当のことじゃない。昨日だって、報告書に目を通しながら『なんだ、やればできるじゃねえか……』って、嬉しそうにつぶやいて――」

「だぁあああッ! やめろやめろ!! それ以上余計なこと口走りやがったら減給処分げんきゅうしょぶんだからな!?」

「え~、それってパワハラじゃない? 隊長がそんなことしていいのかしらー?」

「ぐっ……好き放題言いやがって……! 大体お前は昔っからなあ……!」


 と、ふたりは毎度おなじみの痴話喧嘩ちわげんか……もとい、口喧嘩くちげんかをはじめてしまった。


 グレン隊長とセリス副隊長は、同じ村の出身の幼なじみだ。

 昔から頑固がんこで不器用だったグレン隊長を、セリス副隊長がかげながら支えてあげていたんだとか。

 まさか同じ時期に入団して、同じ隊に配属されるなんて……と、以前セリス副隊長が嬉々(きき)として話してくれたことを思い出した。


 ……なるほど。これがいわゆる、腐れ縁ってやつなのね。


 エルフの自分には、ついぞえんのない言葉だ。


「とにかくだ! お前たちは仲間を頼るってことを覚えろ。いいな?」

「なるべく善処ぜんしょします」

きもめいじます」

「よし、わかったら二人ともさっさと仕事に戻れ。あと焼却器しょうきゃくきの受け取りも忘れるなよ」

「はっ。それでは、失礼します」

「ネーヴェ、おいで」

「ニャー」

 

 敬礼してから、私たちは隊長室を後にした。

 扉を閉めてすぐ、


「……悪かったな」


 と、ロイが謝罪の言葉を口にした。

 

「どうしてロイが謝るのよ。悪いのは全部ひとりでやろうとした私。でしょ?」

「それは俺が足手まといだからだろう?」

「そんなことは――」


 ない、と言おうとしたのに、ロイはくるりと背を向けてしまった。


「……すまん、お前をめているわけじゃないんだ。今の話は忘れてくれ。――焼却器を取りに行くんだろう。早く行くぞ」


 そう言って、ロイは何事もなかったかのように歩き出した。

 私はその背中をすぐに追いかけることができなかった。

 その場に足を止めたまま、ロイの後ろ姿をにらみつけて、聞こえないように呟いた。


「……お人好し」

「ん? 何か言ったか?」

「いいえ、何も――。背が高くてうらやましいなって思っただけ」

「何だそれ……」


 小走りにロイに追いついて、その隣を同じ速度で歩こうとした。

 すると、ロイは自然と歩く速さを緩め、私の歩幅に合わせてくれた。

 思わずロイの顔をまじまじと見つめてしまう。


 ……こういうところがずるいのよね……。


「お前だってエルフにしては背が高いほうだろう」

「エルフにしては、ね。……はぁ、もっと体をきたえようかしら。腹筋をバキバキにして、両腕もムッキムキにするの」

「いいんじゃないか? 筋トレするなら今度いいメニューを教えてやるぞ」

「……本気にしないでちょうだい……」


 冗談じょうだん通じないんだから……。

 私があきれてため息をこぼすと、ロイは真顔で首をかしげたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ