暴発
地下通路を出て、自宅である皇宝邸で家族とパーティーをしていたテンハンドレッド・オッド・アルティメットは、謎の爆発音を耳にした。
「なんだ......?」
「どうかしましたかテン兄さん」
「ゼロ......なんか変な音が聞こえなかったか?」
皇族の血を引き、帝国が誇る最強の能力者集団と名高いアルティメット・ファミリーの三男であるゼロハンドレッド・オッド・アルティメット。
「研究所のほうからですよね。また変な能力では?」
「あぁ......そうだよな、、、」
「パーティーを続けましょう。良い女性がたくさんいますよ」
「........それもいいが、ちょっと調査してくる」
そう言い終えると、駆け足で外へ出て行った。
「......はぁ、テン兄さんは真面目すぎますね」
* * * * * *
夜の施設全体に警報音が鳴り響く。
天井は大きく吹き飛び、粉塵が部屋中を舞っている。
手腕楹咤はその場で棒立ちしていた。
震える右手を見る。
指先から、まだ白い火花が漏れている。
「……なんだ、これ……」
喉が乾く。
心臓がうるさい。
腹に刺さったナイフが微かに熱を持ち、若干赤くなっている。
これが、自分の能力——?
理解が追いつかない。
その瞬間。爆風で半壊した扉が勢いよく蹴りあけられた。
「何事ですか!?!?」
カナリヤード・ロックルだった。珍しく声が荒い。
彼女の視線が部屋全体を走る。
吹き飛んだ天井。焼けこげた壁。ひび割れた床。
そして。立ち尽くしている手腕楹咤。
「.......なんだ、あんたか」
息を切らしながら言う。カナリヤードの顔が険しくなる。
「これはあなたが?」
「知るかよ……」
その瞬間。
崩れた天井の破片が落ちてくる。
カナリヤードが反射的に飛び込んだ。
「伏せてください!」
ドンッ!!
押し倒される。
背中が床に叩きつけられた。
顔のすぐ上にカナリヤードの顔。
乱れた茶髪が頬に触れる。爆風で服のボタンが一つ外れていた。
白い肌がちらりと見える。近い。近すぎる。
「……」
「……」
一瞬だけ沈黙。
「どいてくれへん?」
「あなたが動かないからです」
冷たい声。だが耳が少し赤い。
「あんた結構重い」
「殺しますよ」
白い火花がまだ漏れている。
「……やはり」
「能力が開花しましたか」
カナリヤードは立ち上がり、埃を払うと
「立ってください。連行します」
「警察みたいに言うなぼけ」
カナリヤードの眉がぴくりと動く。
「能力が使えて調子に乗っていますか?」
「.......別に」
手腕楹咤はゆっくり立ち上がる。
震える手を握り締めた。
さっきの感覚。
あの爆発。
確かに自分が起こした。
「でも」
楹咤はカナリヤードを見る。
「これ、自分の力なんやろ?」
カナリヤードは答えない。
代わりに、指先に残る火花を見る。
「制御できていません」
「今のあなたは、子供が銃や爆弾を持っているようなものです」
冷たく言い放った。
「使い方くらい、知っとるわ」
「でしたら天井は吹き飛んでいません」
「……....」
言い返せない。
その時。
通路の奥から足音が複数。重い靴音。
カナリヤードの視線が扉へ向く。
「来ましたね」
「誰が」
「ドクターとテンです」
その瞬間、楹咤の背筋が凍った。
天城。テン。
あの2人。
「……逃げる」
「無理です」
「まだ言い終わってない」
「顔に書いてあります」
カナリヤードは楹咤の手首を掴む。
「今のあなたでは逃げられません」
「なら——」
楹咤の指先に白い火花が走る。
バチッ。
カナリヤードの目が細くなる。
「私に使いますか?」
静かな声だった。
でも、なぜか少しだけ嬉しそうにも見えた。
「おお、いいねぇ」
拍手をしながら来たのはドクターこと天城莱壽。その隣にはテン。
テンは吹き飛んだ天井を見上げる。
「マジでこいつが...?」
「そうみたいだねぇ」
天城が笑う。
「自発か.....最高だ」
「ドクター、実験長の部屋に行きますか?」
「そうだねぇ、詳しい話はそこでしよー」
そう言い終えるとテンに手錠をかけられ、『実験長』の部屋に連れて行かれた。
最初にテンに連れてこられた部屋だ。
天城は部屋の椅子に座り、パソコンとモニターを立ち上げる。
「あぁ、モニターが一時的に点かなくなってる」
「やってんねぇ」
カナリヤードが無言でこちらを睨んでいる。
「........」
「.................」
そうすると、天城はキーボードを打ちながら
「まぁよかったね、これで処分する必要がなくなった。君は死なないけど」
「研究対象から国家の兵器に昇格だ」
国家の兵器......それを聞いて悪寒がした。
そうだ。この国はそういう国なんだったな......
「安心してよ」
そう言ったのと同時にモニターに映ったのは...
「.............」
画面が三分割され、そこにはパソコンをいじって頭を掻いている姉の柯怜。飼い犬のマルのそばで眠っている弟の春気。そして、都内の病院で目を開けている祖母の火重。
でも......生きている。。。家族は。。。
その様子を見て少し安心した自分がいた。ほっとしているはずなのに。
「逃げたら......どうなるかわかるよね?」
天城は笑った。優しい声で。それが逆に気持ち悪い。
モニターの中で、春気が寝返りを打つ。
マルが尻尾を揺らす。
柯怜が何かを調べ続けている。
火重が静かに天井を見ている。
生きている。
ちゃんと生きている。
「……触るな」
声が漏れた。
天城が首を傾げる。
「ん?」
「家族に……触るな」
震えていた。
怒りか、恐怖か、自分でもわからない。
カナリヤードはその言葉に反し、表情が変わらない手腕楹咤の顔を見つめていた。
テンが鼻で笑う。
「弱ぇくせに」
その一言で、腹の奥が熱くなる。
白い火花。
バチッ。
「おっと」
テンが一歩引く。
天城の目が細くなる。観察する目だった。
人間を見る目じゃない。
「感情とエネルギーが連動してるねぇ」
キーボードを叩く。
カタカタカタ。
「いいデータだ」
「やめて」
「ん?」
「家族を見るな」
天城は笑った。
「え、無理」
その瞬間。
楹咤は立ち上がった。
椅子を蹴り飛ばす。
手錠の金属音。
テンが動く。
速い。見えない。
次の瞬間。
顔面が床に叩きつけられていた。
「がっ……!」
頬骨が軋む。
テンの足が頭を押さえつける。
「現実見ろ」
動けない。火花だけがビリビリと散る。
無力だった。能力があっても。
何も変わらない。
天城が立ち上がる。
しゃがみ込む。
耳元で囁く。
「逃げるなら自由だよ」
「でも、その瞬間」
モニターを指差す。
「この3人を壊す」
楹咤の呼吸が止まる。
天城は笑う。
「君の人生は、今日から国家のもの」
「おめでとう」
この場にいる3人は手腕楹咤に拍手をした。
天城莱壽は好奇心に満ち溢れ、ニコニコしながら。
カナリヤード・ロックルは無表情で天城に合わせるように。
テンハンドレッド・オッド・アルティメットは不服そうだが2人に合わせるように。




