恐怖
手腕楹咤が拉致された翌日。都内の病院。
姉の柯怜は祖母である火重のお見舞いに来ていた。
柯怜も傷を負ったものの、重症ではなかったためすぐ退院できた。
「おばやん、えいた......近くの監視カメラにも映ってなかったって」
「そうかぃ、、家出......じゃあらへんよねぇ」
「電話も通じない」
「行方不明届も出さないとだよね、、、」
柯怜は焦りながらどうしようどうしようとパニックになっている。
「どうしよう、春気にどう伝えるべきやろ........」
「今、家どうなってるん?」
「警察の人が現場検証とかしてるよ。私と春気、あとマルは従兄弟のおうち行ってる」
「おばやんいつまで入院になるの?」
「わからへんなぁ、年々体弱くなっていってるからなぁ」
下を向き、落ち込んだ様子で話す。
「現場検証終わるまでは仕事休むし春気の面倒は見るけど.......」
「すまんなぁ柯怜」
「あのゴミ両親、こんな状況なのになんで帰ってこないの?バカなの?」
「こら、あんた可愛い女やけんそんなん言うたらあかんで」
「ごめん......」
「とりあえず一旦おうち戻るね、またくる」
軽く手を振ると、走り出していった。
風の音が響くなか、窓を眺めながら
「生きとればええんやけどねぇ、、、」
* * * * * *
同時刻。天動奏詩、影山未歌、内治兼星の3人は手腕楹咤に連絡が取れなくなり、3人で自宅に凸ろうという結論に至った。
手腕家の前に立ち、未歌が不安そうな顔で2人に問いかける。
「なんでこんなパトカーがいるの...?」
「それな、何があったんだ?」
「みるくにも連絡取れないし......」
「............」
うっちーが足元を見る。地面には乾きかけた血痕。
「おい......それ」
奏詩が声を落とす。
「え、うそ、マジなやつ?」
未歌の顔が青ざめる。
「......とりあえず警察の人に聞いてみるか」
うっちーは警察官へ歩み寄った。
「すみません、うちら手腕楹咤の友人の者なんですけど」
未歌が警察官に質問をする。
「申し訳ありません。関係者以外立ち入り禁止です」
「一つ言えるのは——昨夜、事件がありました」
3人の空気が凍る。
奏詩は規制線の向こうの家をじっと見つめた。
何かがおかしい。嫌な予感しかしなかった。
少し離れた場所で、刑事である2人の男は現場を見ていた。
倒れていた位置。血痕。侵入経路。全てを照らし合わせる。
若い刑事が口を開く。
「警部、監視カメラにも映っていません」
「つまるところ、楹咤さんは......」
年配の刑事が低く答える。
「行方不明——ってのが妥当だろうな」
資料をめくる。
「最後に姿が確認されたのは図書館か」
「そこで足取りが途切れている」
「……もしかして」
「キドナク帝国絡み、ですか」
警部の目が細くなる。
「あぁ。可能性は十分にある。あまりにも過去の事例と似ている」
「だとしたら厄介だな......」
* * * * * *
手腕楹咤を天城莱壽の研究所に預けたテンハンドレッド・オッド・アルティメットは、白髪少女の身柄を拘束したという情報を聞き、薄暗い地下通路に来ていた。
「失礼するぜい」
「テンさん、こっちっす」
近くにいた兵士が手を挙げて合図する。
「所持品はスマホと財布だけっすね、多分日本人っす」
その少女を少し遠くから見ると、テンは疑問を発した。
「あれっ、拘束されたのは白髪の少女って聞いたはずなんだが」
「なんか、捕まえたやつとここにいるやつで主張が食い違ってるっぽいんすよね〜」
なんかの能力なのか...?とテンは考えながら、壁にもたれて両手を拘束されている少女を見る。
「ずいぶんあっさり捕まったのな」
「捕まった?そう見える?」
灰色の髪の少女は微笑む。
テンの眉が動く。
「......名前を聞こうか」
「......借染絵流」
少女は、中性的な声でそう言った。
テンは壁にもたれたまま少女を見る。
「日本人か」
「たぶん」
「たぶん?」
少女は微笑む。
「自分のことって案外わからないものだよ」
「面倒くせぇな」
テンはしゃがみ込み、目線を合わせた。
「で?何しにここへ来た」
「探し物」
「探し物?」
少女は少しだけ視線を上げた。
「手腕楹咤」
テンの空気が変わる。
「……なんでその名前を知ってる」
少女は少し楽しそうに目を細めた。
「中学の同級生だから」
テンはみるくを凝視している。
周りの兵士も困惑していた。
「ずいぶん都合のいい話だな」
「そう?」
少女は首を傾げる。
「でも、ここにいるんでしょ?」
テンは答えない。
だが、その沈黙だけで十分だった。
少女の口元がわずかに上がる。
——すぐに会いに行くからね。
心の中でそう呟く。
「とりあえずこいつはなんか怪し「誇り高きアルティメット・ファミリー」
「..........あ?」
テンが言いかけたところで割って話をした。
「皇族の血を引き、強力な能力者が多い、誇り高き帝国の宝であるアルティメット・ファミリー」
「テンくんは三兄弟で唯一ちゃんとした能力が開花してないもんね?」
「.......お前、何を知っている」
「さぁ?」
白々しい返事。でも少し笑みを浮かべている。
次の瞬間。テンの背後で兵士が声を上げた。
「テンさん!!」
振り向く。
さっきまで壁にもたれていた少女が、いない。
「なっ——」
反射的に前を見る。
いた。
変わらずそこに拘束されている。
「……幻覚か」
少女は小さく笑う。
「違うよ」
「視界って案外、簡単に騙せるんだ」
テンの額に汗が浮かぶ。
「日本人のくせに能力者か」
「どうだろうね」
少女は拘束具を軽く鳴らした。
カチャ、と。
「でも安心して」
「今日は逃げない」
テンの目が細くなる。
「……目的は」
少女は目を閉じる。
「会いたいだけ」
嘘じゃない。でも全部でもない。
テンは兵士に目配せした。
「モビー、監視を増やせ」
「能力発動の兆候があれば即報告」
「了解っす!」
テンは去り際、振り返る。
「お前、何者だ」
少女は笑った。
「ただの同級生だよ」
扉が閉まる。静寂。
少女の口元が上がる。
「あと少し」
その瞬間。
拘束されていた“少女”の輪郭が、わずかに揺らいだ。
まるで幻みたいに。きっと、それは.......




