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拉致問題  作者: ゆるうる
Case 1:実験
7/20

監視

翌日、手腕楹咤はダンボールの前で失神しており、カナリヤード・ロックルが様子を見に来ていた。

ダンボールにいた蜘蛛は手腕楹咤の体に留まっていた。


「凡族、起きなさい」

「......え、あ、」

窓からは小さく太陽が差し込んでおり、少し明るい。

目の前にはカナリヤードが立っている。


「そろそろ実験の時間です。場所へご案内します」

手錠をかけられ、歩き始める。

これから昨日の実験を永遠に繰り返すことになるのだろうか。


「昨日の続きです」

カナリヤードは冷たくそう言い放った。

昨日と同じく拘束具で体を固定されると、ドクターからの声が入る。

『じゃあ始めよっかー』


ワクチンの投与を繰り返し、カナリヤードとドクターがエネルギーがどうのこうのと話している。


「リヤくん、刃物持ってたっけ」

「所持しています」

「おっけ、じゃあ目と耳に刺してきて」


実験場の扉が開くと、カナリヤードが目の前に立っていた。

「え、なん......」

「喋らないでください」


次の瞬間。両目の眼球に刃物が刺さっていた。

「ああああああああああああああ!!!」

血が飛び散り、カナリヤードの顔に飛び散る。

5分後、刃物が刺さっている状態で細胞や血液が元の姿に戻ろうと回復を始める。

しかし、カナリヤードは元に戻りかけている目に容赦無くナイフを刺す。


——グサッ


「ああああああああああああ!やめて、やめ、お願.....」

「喋るともっと痛くなりますよ」


——グサッ

「ああああああああ!」


——グサッ

「ああああああ!」


——グサッ

「.......あ......」


その後も3回、戻りかけている目にナイフを刺した。

ついでに耳も切り落としている。


「やはり損傷時、自動的に元に戻る仕組みのようですね」

「心臓破壊時のみ、完全回復に遅延あり...と」

調査結果を報告するように、そう呟いた。

でも意識を飛ばすのは簡単なのか...?とカナリヤードは疑問点を自問自答した。


『おーけー、じゃあリヤくんこっち戻っておいで〜』

「承知いたしました」

カナリヤードは眼球に刺さった刃物を引き抜いた。


——ズルッ。


「あっ......ぁ.......」

視界がない。何も見えない。音もない。

世界が消えたみたいだった。


「次は食事です」

そう言うと、カナリヤードは扉を開け、出ていった。

5分後、手腕楹咤の目と耳は完全に戻った。


小さい部屋に連れて行かれる。そこには少量の弁当が置いてあった。

「食べてください」

「......いらない」

「死なないだけで空腹にはなります」

それでドクターの研究に支障をきたすのはご勘弁を、と付け加えた。


弁当を見る。

白米。焼き魚。野菜。味噌汁。

普通の食事。なのに。

さっきまで自分の目玉や耳が転がっていたせいで、それが異様に見えた。

思い出すだけで吐き気が出てくる。


「......毒とか入ってないよな」

「入っていたら、あなたはもう食べています」

「食べてないけど」

「では安心ですね」

意味がわからなかった。

とりあえず白米を手に取り、口に入れる。


「え......?」

味がしない。体内に入れた感覚しか残らなかった。

焼き魚も。野菜も。味噌汁も。

どれも食べ物の匂いはする。味だけがしなかった。


「私はドクターと話すことがありますので、失礼します」

「15分後、お迎えにあがります」

「..............」


「お分かりだと思いますが、常に監視しておりますので逃げられると思わないでください」


「......ご安心ください。まだ今日の実験は終わっていません」

そう言い終えると、部屋の扉が閉まる。


なんで.....?

白米を見つめる。味がない。

腹にはナイフ。目は戻った。耳も戻った。首も繋がった。

でも。味だけが戻らない。


「なんなんや......これ、、、」

震える手で腹を触る。ナイフは刺さったまま。

抜こうとしても抜けない。

死ねない。壊される。戻る。また壊される。

頭の中で繰り返される。

首が飛んだ瞬間。床に叩きつけられた感触。

笑い声。蹴られた痛み。


自分の肉体は勝手に再生するし、ドクターとカナリヤードが言うエネルギー...

自分の中にあるのだろうか。あれが原因なのだろうか。疑問ばかり残る。

考え事をしながら、箸を握る手に力が入る。

その瞬間。


——ピリッ。


微かな火花。

「.......え?」

箸の先が焦げていた。


「いったぃっ!」

「んぁ......?」

どこからか声が聞こえる。服のなかから蜘蛛が這い出てきた。

机の上に飛び乗る。


「熱っ.....」

「え」


手腕楹咤の動きが止まる。

蜘蛛が、喋った。

「え?」

蜘蛛も止まる。数秒の沈黙。


「........見えてるー?」

「しゃ、しゃべった!?」

蜘蛛は前脚で頭を掻いた。


「やっべ、見つかった」

箸を見る。焦げている。

蜘蛛はそれを見る。


「漏れてるぞ」

「……は?」


「エネルギーだよ、能力エネルギー」

そう言い終わると、扉がゆっくり開いた。

「15分経過しました。実験場に戻ります」

「あぁ........」


蜘蛛は服の中に戻った。

自分は人間以外と会話できる能力を習得したのだろうか?



* * * * * *



『おっけ、今日のデータは十分得られた、もう帰っていいよー』

今日の実験が終了した。脇腹は熱で肌が引き剥がされ、骨が若干見えている。

でも大丈夫。勝手に再生される。大丈夫と言い聞かせながら。


部屋に戻り、シャワーを浴びる。昨日はダンボールの人骨で失神してしまったのでシャワーもまともに浴びてなければ、ちゃんとした睡眠もとっていない。

ボタンを押しシャワーを流す。

その瞬間。


「痛っ!」


シャワーの複数の先端に針が刺さっていた。指で触るとうっすら血が出てくる。

針を捨て、シャワーの先端を確認する。無事に水が流れているようだった。

自分の平穏な日常はいつ訪れるのだろう。そう考えながら、シャワーで体を流す。

なぜかシャワー室には鏡がなく、自分の姿は確認できない。


「うっうっ、うあああああああああああ」

なぜかわからないが、急に大粒の涙が溢れ出した。


「くっそくっそくっそ、なんでなんでなんで」

理解不能な怒りが止まらない。感情が溢れ出していた。

シャワーを済ませ、ドン!とシャワー室の扉を閉めると、近くにいた蜘蛛は困惑していた。

「なに、こわ」

「あ?」

「こわいよにいや」

「変な名前で呼ばんといて」


ベッドに仰向けになると、蜘蛛が話しかけてきた。

「にいや、そもそも能力エネルギーってわかる?」

「知るかぼけ」

「くちわる」


「ああああああああああ!くっそくっそくっそ」

自分をこうしたのは誰だ?なぜ拉致られた?なぜ変な実験に付き合わされている?

様々な疑問が手腕楹咤の脳内を支配し、思考が止まらなくなっている。


「ちょっと落ち着きなよ......」


——ビリビリッ

白い火花が散る。


「ちょまて、漏れてる漏れてる」

「うち蜘蛛だけど一応女の子!死ぬ!」


その瞬間、手腕楹咤に一つのセリフが頭のなかからのぞいた。

『それと、ここ数日はあんま外出ない方がいいよ』

あのみるくのセリフを、素直に聞いていればこんな目には合わなかったのだろうか。


「……くそ」

天井を見上げる。真っ白な天井。

その視界の中で、不意に弟である春気の姿が浮かんだ。

にいや、という言葉にもどこか弟を思い出す。


散歩帰り。家の前。

マルを呼ぶ時のあいつの仕草。


「ほら、こい」


手を前に突き出して。

パン、と叩く。

犬が走ってくる。


「…………」


他にもジェスチャーでバン!とやると倒れたフリをする。

うちの飼い犬は比較的頭良い犬だったんだろう。

なんでそんなことを思い出したのか、自分でもわからない。

ただ。さっきの火花。

あれが頭から離れない。


「能力エネルギー……」


蜘蛛がこちらを見る。

「にいや?」


手腕楹咤はゆっくり手を前に出し、拳銃のような形を取る。

春気の真似をするように。軽く。


バン。

——ビリッ。


白い火花。

「……出た、これか」


蜘蛛の目が見開く。

「え、待って」


もう一度。次は発音を変えてみる。

パン。

——ビリビリッ。


蜘蛛が叫ぶ。

「待って待って待ってそれまずい!」


さらにもう一度。今度は強い力をイメージして。

もっと強く。もっと壊すように。

拳銃の形を作る。


——その瞬間。

腹に刺さったナイフが熱を帯びた。


「っ!?」

脈打つ。ドクン、ドクン、と。

まるで体内の何かが反応しているみたいに。


空気が歪む。

同時に蜘蛛が叫ぶ。

「待って!それ以上は——」


手腕楹咤は反射的に振り抜いた。

「——バァン!!」


次の瞬間。


——ドゴォォォン!!


天井が吹き飛んだ。

コンクリート片が周りに降り注ぐ。


警報。赤いランプ。

施設全体にサイレンが響く。

手腕楹咤は固まった。

「…………え?」


蜘蛛も固まっていた。

「……やった?」


施設全体がざわつき始める。

足音。怒号。機械音。


「............」

「にいや、たぶんそれ」

「やりすぎ」

蜘蛛が震えながら、そう呟いた。

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