種族
「どこで、その名前」
沈黙が流れる。
無言で隣に座り、イグナのことを語る。
「能技劇場で、自分が拾ったんだ」
ソアヒートはより、目を大きく見開いている。
「......火は嫌われ、水は好かれてる」
ベンチに座ったまま、空を見ていた。
「学校でも」
「街でも」
「昔から、ずっと」
「でも、それ変じゃないか?」
「......なにが」
「ノクスに行った時、水を扱う能力者は普通に見かけた」
「なのに、火を扱う能力者は全然いない」
「いるよ」
「赤髪の能力者だけだけどね」
そう言うと、ソアヒートは左手で弱火を出す。
火を出すのと同時に片目が赤く染まっていく。
だが、それはただの充血ではないように見える。
「赤炎族って知られると」
「気持ち悪がられるから」
「......」
気持ち悪がられる。自分にも。
実験のとき。天城莱壽に首を刎ねられた。
自身の顔をサッカーボールのように扱われた。
牢にいた少女に言われた言葉。
『気持ち悪いボール』
汚物を見る目だった。そんなことを思い出す。
「別に、慣れてる」
そう言ったわりに、声は少しだけ冷えていた。
「......おばあちゃんが言ってた」
「昔、火と水は一緒だったって」
「赤炎族は火を」
「青水族は水を」
「お互い補いながら暮らしてた」
その名の通り、助け合っていたということ。
「でも、パンドラが来た」
風が吹く。
赤髪が揺れる。
「パンドラは、“火は危険だ”って広めた」
「だから皆、水側についた」
「......実際、火で暴れたやつもいた」
「だから全部嘘ってわけでもない」
「でも」
「全部を赤炎族のせいにした」
ソアヒートは自分の掌を見つめる。
さっき出した小さな炎が揺れていた。
「今でもそう」
「火を出しただけで、化け物みたいに見られる」
「だから私は」
「誰とも関わらない」
「嫌われていてもいいんだよ」
ソアヒートのその目は、霧がかかっているように見えた。
「でも、イグナは特別」
「あの子は、私たちと同じ種族。生まれは違うけど家族同然」
つまりプレッシュという苗字は血が繋がっているわけではなく、同じ種族という表しか。
「......能力はでた?」
「......いや、イグナが火を使っている様子はない」
「あの子は無能力者で人畜無害だ」
お兄ちゃんの火が見えた!と言ってたのは記憶がある。
「......そう。いなくなったのが5歳くらいだったからね」
「あの子の母親、まだ生きてるよ」
今のイグナが10歳。ならば母親が生きていても当然か。
いや、10歳にしては脳の発達が遅い気がしないでもない。
「夏休み、連れてってあげようか」
「戦闘祭の練習も兼ねて」
そうか、ソアヒートは学園4位。
戦闘祭に出場できるのか。
だがイグナを連れて、自分を捨てた母親と会う。
行きたがらないかもしれない。
「......危険じゃないのか」
「危険だよ」
ソアヒートは即答した。
「赤炎族を嫌ってる人、今でも多いから」
あなたももっと嫌われるかもね、と付け加える。
十分変な目を向けられているので今更ではある。
「でも」
「イグナは、自分がどこから来たか知るべき」
赤髪の少女の正体。赤炎族。だが新たな興味。
いや、興味?それがここにいる理由なのか?
「ひとつ、聞きたい」
「あなたがイグナにこだわる理由はなに?」
「......別にこだわってるつもりはないんだけどな」
「嘘。能技劇場で、しかも無能力者の雑魚を助ける理由はどこにもないでしょ」
雑魚。この国では何ひとつ間違っていない理論だろう。
「過去を知ってしまったやつの残像と重なるからだ」
「は?なにそれー?」
カナリヤード・ロックルが助けられなかった少女・ミナ。
その姿がイグナと重なって、自分の部屋で保護している。
「あなたの行動源がわからない。もしかしてイグナの体?ロリコンなの?」
「......ふざけたこというな」
ロリコンなどといういらぬ疑いをかけられたが、その誤解は解けなかった。
* * * * * *
無事にソアヒート・プレッシュに接触し、連絡先を交換してもらった。
あとはこの件をイグナに話すだけ。
自分だけで行っても良いのだが、イグナがいた方が良いだろうという個人的な判断。
「あら?火山さんとは話せたの?」
帰りのホームルームが終わり、霧生知那が話しかけてくる。
「火山?ソアヒート・プレッシュのことか」
「彼女の通称...二つ名みたいなものよ」
遅剣と紫忍者みたいなものか。有名な生徒にあるものなのか?
「夏休みの予定を少し、な」
「えっ???」
「邪魔するぜぇ」
なぜか困惑している遅剣様を横目に、クラスの扉が乱暴に開く。
暴犬ことガルム・バイオローのお出ましだ。
周りには取り巻きの人間もいる。
「よぉ、能技劇場の怪物さん」
この前にちょっかいという名のパンチを繰り出されて受け止めたことがあったが、それ以来。
「何か用かい」
「用かい、じゃねえよ。少し遊ばねぇかな〜?」
というと、首に強い力。絞められているようだ。
「悪いな」
「今日は気分じゃない」
首を掴まれたまま、そう返す。
「......は?」
「今、ちょっと考え事してるんだ」
次の瞬間。
ガルムの腕を掴み、そのまま床へ叩きつけた。
──ドンッ!
教室が揺れる。
「......いってぇなテメェ!」
「だから言っただろ」
「今日は気分じゃない」
隣に座る遅剣様は、少々驚いた様子でこちらを見ている。
クラスの空気をそのままに、昇降口に向かうことにする。
PCの不具合で問い合わせしていたらまた更新が...申し訳ありません。




