三番
能力測定の時間が終わり、その後職員室にてワンからいくつかの諸注意を聞かされた。
ちなみに、自分の情報がランキングに反映されるのは明日らしい。
『お前は特別なのかもな』
特別......その言葉が強く頭に残った。
時刻が遅かったのもあり、そのまま帰宅となったため、今は昇降口。
カナリヤードへ連絡をしようとしたその時。
「手腕くん」
名前を呼ばれ後ろを振り返ると、隣の席である霧生知那に話しかけられる。
「あなたの能力音、学園中に響いてたわよ」
スタジアムはかなりの大きさを誇っており、クラスがある場所とは離れているだが、そんなに音が出ていたのか。
「......それは悪かったな」
「なんで謝っているの?」
顔を横に向け、疑問の表情を浮かべた。
「今日の測定」
「先生たち、かなり慌てていたわよ」
「......そうなのか」
「ええ」
「少しだけ、スカッとしたわ」
口角を上げ、少し喜んでいる様子が見て取れた。
まるで、邪魔者が消えたかのように。
「明日にはあなたもランキング入りね」
「......興味ないな」
「私はあるわ」
「.......にしても、学園のトップ3が日本人というのは何とも皮肉なものだわ」
「じゃあまた明日」
「......あぁ」
話が終わると、軽く手を振り帰っていった。
その姿が見えなくなるまで、なぜか目で追っていた。
入れ替わるように、コツコツと後ろから足音が聞こえる。
「......何を見ているんですか?」
「......さぁ」
カナリヤードが同じ方向を見て、問いかけた。
研究所に戻り、いつも通り手錠をかけられる。
が、今日はなぜか足に鉄球をつけられた。
「私からのプレゼントです」
「いらなすぎるプレゼントだな......」
「冗談です。ドクターがたまにそれつけさせて、と」
「..........」
あの男は理解できない。
重いが頑張って部屋まで行くしかないか。
「イグナにも足枷がついています」
「まともに動けないので、今は寝ていますが」
人畜無害なただの少女にもか。
深夜。現在時刻はちょうど日が変わったであろう0時すぎ。
なぜ寝ていないかといえば、研究所での被験者であろう人間の叫び声が大きいからである。
拉致されて、自分と同じ実験を受けているのだろうか。
顔も知らない赤の他人。
水を飲みつつ、今後の学園生活での興味を考える。
ソアヒート・プレッシュ......
学園3位である赤髪の女子生徒に接触する。イグナのことを知ってるかもしれない。
それと、戦闘祭......
ホームルームでワンが説明していたが、学園のランキングにて10位までの人間、1対1で戦いを行うというもの。殺さなきゃ問題はないと言っていたが、実質殺し合いみたいなものだろう。
やっていることは能技劇場の時と何ら変わらない。気持ち悪い。
その瞬間、ピロンッとスマホから通知が鳴る。
スマホを見ると、戦闘祭の具体的な詳細と夏休みに関するものだった。
日本と違い、夏休みは3週間と短め。代わりに冬休みが日本よりようだ。
ついでにランキングの欄を見ると、自分の情報が反映されていた。
3位:手腕楹咤、能力名:名称不明、エネルギー密度:測定不能、と書かれているが、なぜか総合力だけ記載がない。戦闘履歴が0だからだろうか。
それとも、今後学園内でそういうことがあれば反映されるんだろうか。
「......3位、か」
画面を閉じ、目を瞑る。
研究所のどこかで、また誰かの悲鳴が響いた。
* * * * * *
「霧生さん、またね〜」
「知那様ぁぁ!」
「知那、またなー!」
色んな方向から挨拶をされる。
軽く会釈をし、学生寮へ向かう。
「........」
学生寮の403号室、ここが霧生知那の部屋。
同じクラスメイトとはなぜか離れているのだ。
無言で寮のドアを開け、靴を整える。
剣を専用の場所に立てかける。
「はぁ...つかれたわ」
制服のままベッドにダイブする。
そしてスマホを出し、ランキングの欄を見る。
2位:霧生知那、能力名:遅延、エネルギー密度:大
総合力:S
何ら変わりはない。
数字の値を見ながら、彼女はそのまま眠りについてしまった。
『そんな一番主義で知那が育つわけないだろ!』
『でもこの子には才能があるの!』
『お前がそんな教育方針だと思わなかった!』
何か聞こえる。
思い出したくない声。
夢なのか、記憶なのかもわからない。
私は、幼少期から色んな勉強をした。
でも両親は教育方針の違いで嫌になって私を置いてどこかにいったらしい。
そんなことを当然、小学生の私は知ることはない。
『......やぁ、おちびちゃん』
そんな私の前に現れたのは紫色の髪、特徴的なドレス?ワンピース?よく覚えていない。
12歳くらいから記憶がある。研究所が貧民街だった時代、紫色の髪のお姉さんに連れられてここで暮らすようになった。
なかでも貧民街に佇む、赤い提灯が特徴的なぼろくて古いお店。
今思うと貧しい私に無料でご飯をくれた優しい人だった。
おばさんと、もう一人茶髪のお姉さん...が食べ物をくれた記憶。
『おばさん!私ね、学校行くことになったの!』
『そうなの!よかったねぇ』
『もしかしてリヤちゃんと一緒じゃない?』
『.......?』
ある日、ドクターである天城さんに初対面でポテンシャルがあるとか言われて、キドナク学園に通うことになった。日本で言うところの中高一貫だよ、と言われた記憶がある。
でも、これが最後の会話。
雨が降った日。貧民街は爆破され、帰る場所が無くなった。
『おばさん!』
『あれ!女の子!どうしたんですか!』
編纂、確かそう名乗っていた。
気持ち悪い話し方だったのは覚えてる。
私は気が動転して、近くのナイフを突きつけた。
『ごめんなさい!12歳くらいの少女にそんなことをする趣味はないんです!』
そう言って、私の頬を舌で舐めた。
『あなた!一番主義の思想が見え隠れしてますね!』
『中学でもそうやって過ごしてるのでは!』
『うるさいうるさいうるさい』
夢の中で、幼い自分が叫ぶ。
──どうして私は、一番じゃなきゃ駄目なの。
「......3位」
眠気の中、その数字を思い出す。
黒と白の髪。
不器用な戦い方。
測定不能。
「......ほんと、なんなのよ」
小さく呟き、霧生知那は再び眠りについた。




